第17話

「うわああ。あいつら、まだ生きていたのか。すっげー奴等だな」


 どっごーんと背後で音がした。再び、サンドワームが砂から顔を出したようだ。


「ぎゃあああああああ。どーして諦めてくれないのおお? 私たちなんて食べても美味しくなーい」


「おい。いい事を考えたぞ。怪盗ウサギ団に、このサンドワームを倒してもらおうぜ」


「なーるほど。あいつらも巻き込んじゃうってわけね」


「あいつら、よく分からねーけど、結構ツエーからさ……というか、あいつら、なにしてるんだ?」


「知らないわよ……う、うわあああ」


「あぶねえ、リンス! 来たぞーーー」


「間に合わなーーーい」


 ドゴーン、と再び、ギリギリで避ける事ができた。今度は僕が地面を蹴り、その反動によって、落下してきた巨大ミミズの攻撃を避けた。なお、怪盗ウサギ団は、まだこちらに気づいていない様子だ。何かしらの作業を行っているようだ。


「モモくん! ナイスよ」


 そんなこんなで僕たちは、怪盗ウサギ団に向かって走った。リンスはバイクのチャンネルを操作し、バイクについているマイクに向かって喋った。


「テステス。繋がってる? 電波、繋がってる?」


『繋がってますワ。……って、その声は小娘。一体どこから……って、いました……』


『うわああああ。なんですー! おまえら、何を引き連れてきてるんですー。こっちに来るなですー』


「おねがいいい。助けてえええええー」


『なぜ、わざわざ我々のところに向かってくるのでアリマスかー』


『まずいですワ。あのデッカイ系のモンスター、こないだの亀と同じ系統のモンスターですわ。中々強いのヤツなのですワ』


 僕もマイクに向かって、言った。


「このミミズ、いきなり現われたんだよ」


『もしかして、我々がここの古代遺跡を解放しようとしていたからでアリマスかね。たしか古代生物は古代遺跡の発掘と共に姿を現わす、というのが定例だと聞いているでアリマス』


「とにかく、どうにかしてー」


『うさぴょんお姉さま、前回の亀には敗北しましたが、今回はかなり戦闘形態に特化させておりますワ』


『不本意ではあるが、仕方がないですー。ふりかかる火の粉は払わなくてはならないですー。あれを使うですー』


『あ、あれでアリマスか。ついにあの技を使うのでアリマスね。……っで、あれって、どの技でアリマスか?』


『准必殺技ですー』


『あの技でアリマスね。用意してきた貴重なエネルギーの大部分を、まさか、こんなところで使う事になるなんて、口惜しいでアリマス』


『準備、開始ですワ』


 こちらからは、まだまだ米粒のような大きさではあるが、遠方に見える球体が、輝き出すのを確認。八本の腕を上にかざしたところ、光の粒子をキラキラと放ちながら『巨大なコインのようなもの』がぐるんぐるんと不規則に回転しながら、上空から降り落ちてくるのが見えた。コインは、球体の6~8メートル程上空で、停止した。


『戦闘形態に特化した、我らウサギ族に敵はなし、ですワ』


『まさか、万が一にも小僧らと遭遇した場合に使うだろうと用意した貴重なエネルギーを、小僧と小娘を助ける為に使うとは、不条理でアリマス』


『いいですー。いいですー。あいつらは、すぐには殺さないですー。もっともっと苦しませて精神崩壊させてから死なせるのが、お似合いな死に方ですー』


「お、オメーらっ!」


『ふん。今回は特別に助けてやるのですワ。感謝してもらいたいですワ』


『だから、これからエネルギーを一気に放つので、しばらく、ほとんど動けなくなるのでアリマスが、そこをチャンスにばかりに、我々を攻撃してくるなでアリマスよ?』


『こら、ばにー! 我々の弱点を教えるんじゃないですー』


『も、申し訳ないでアリマース。口を滑らせたでアリマスっ』


『お姉さま方! 演算処理完了ですワ』


『いくですー』


『了解でアリマス』


 上空で停止しているコインから波形状の光が、連続的に放たれた。そして、拡散した光が再び収束。光の密度が高まり、キィィィィンキィィィィィンとこちらまで音が聴こえてきた。僕は、無意識に鳥肌が立った。


 そして、バイクのスピーカー越しに、3人の声が同時に聴こえた。


『くらえ准必殺、猛虎猛龍危険域でも垂直水平バランスが大事なんですピザ生地斬っ!!!』


 直後、光のようなスピードで、輝くコインが四方八方に平たく伸びた。それは、僕たちの頭上も覆うようにして通過していく。まさに、ピザ職人が、手の上でピザを伸ばすが如くに、輝くコインがピザ生地のように伸びたのだ。


 広範囲を覆った光は、次第に薄まり、消えた。背後を振り向くと、サンドワームの体に切れ込みが走っており、ずずずずと、真っ二つになる。


『ぷっぷっぷ。思い出したですー。亀もミミズも、あれは生物兵器ですねー。何万年も前の事だったから、すっかり忘れていたですー。ふんっ、オニ族ごときが作った兵器が純血のウサギ族に叶うわけがないのですー」


『そーいやぁ、いたでアリマスね。うっしっし。大昔に、我らの星にケンカを売ろうとしていたバカな種族が、この地球に』


『おほほほ。オニ族のあやつら、謎の消滅をしたみたいですけどね。って……うん? ば、ばにお姉さま。うさぴょんお姉さま。ターゲットは……まだ生きていますワ』


『な、なんだってえええええええええええー! そんな馬鹿なですー』


 僕は再び振り返った。すると、真っ二つになったサンドワームのそれぞれが、独立した意志を持つかのように、活動を再開したのだ。


「うわああ。2体になったぞ」


「きっと、ミミズに似てるからよ。ミミズって、2つにちょん切っても、死なないのよ」


 2体になったサンドワームは、再び僕たちを追い掛けてきた。バイクを、怪盗ウサギ団に向かって走らせる。


『こ、こらあああ。だから、こっちに来るんじゃないですー』


「アンタたち、奥の手とか、どーせ、そういうのまだ持っているんでしょ? 出し惜しみせずに全部、出しなさいよ。助けなさいよ」


『そんなのないのでアリマース!』


「あんなすごい技を見せられて、信じられないわ。勿体ぶらないで、出しなさーーい」


『来るんじゃないのですワ。こっちに向かってくるんじゃないのですワ。ああああっ。これはあああ』


『どうしたですー?』


『さらに、非常にまずい状況になっていますワ。封印が解除され、遺跡のゲートがまもなく開く……という信号を捉えたのですワ』


『だったら、全然まずくないのでアリマス。ゲートが開くのなら、遺跡内に逃げ込むのが吉でアリマス』


『そうですー。遺跡の入り口はどこで……ガガガガッガガガガ………………ガガッガ……ガガッガガガッガ……ガガガッガガガガガガッガガガ………………』


 突然、ノイズと共に、怪盗ウサギ団との通信が途絶えた。


 その直後、サンドワームの追跡が止んだ。同時に、地表の砂浜のあちこちに、幾何学模様が出現。いや……これは流砂である。


「モ、モモくん! モーターがついに駄目になっちゃったみたい……。落ちちゃう……わ」


「えええー。今、地面が全体的に、チョーまずい状況になっているぞ」


「見れば分かるわよ。お、落ちちゃう……」


 プシューと音がし、低空飛行を続けていたバイクから煙が出た。そして、そのまま地表に墜落。僕とリンスはバイクごと、流砂に巻き込まれてしまった。

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