第16話

 現在、僕たちは砂漠のど真ん中を歩いている。無人島だと思って暮らしていた島が古代遺跡だったと判明した、あの日から3ヶ月が経過。ようやくレーダー探知機にて、この『カラッカラン砂漠』より4つ目のグロウジュエリーの反応が検出された。


 本日で、砂漠にやってきて4日目となる。昼と夜の気温差が激しく、常人なら根をあげる気候だが、リンスのボインへの執念は相変わらず強かった。僕は既にグロウジュエリーの捜索を諦めているが、彼女は全然諦めていないのだ。


「ぶひーーー。もう、僕限界だぞー。だって、ここ暑ちーんだもん」


「文句を言わないの! 砂漠は暑いのが当たり前。それが世の中の原理原則。ぬるい気温の砂漠なんて、砂漠じゃないわ」


「オメー時々、変な事を言い出すな。でも世界の需要は、ぬるい砂漠を求めていると思うんだよなー」


「モモくん、それは違うわ! 砂漠というものの魅力はね……っていけないいけない。終わりのみえないモモくんとの禅問答を、また始めてしまうところだったわ。とにかく、砂漠は暑い。だから、砂漠にいる間は暑いのを我慢しなくちゃいけない。オーケー?」


「………………オーケー」


 そんな時、ガサガサと砂の上で動く生き物に気付いた。


「あっ、モモくん! モモくんの足元に、サソリがいるわっ! 猛毒をもっているサソリがいるわっ! 確保よー」


「うわっ。いつも、唐突に現われるなー。サソリー」


 僕はリンスからもらったナイフを取り出して、サソリを一突きにし、毒の部分をとり除いた。そして、リンスに向けて差し出すと、彼女はじっとサソリを見つめた後、パクリと食べた。


「うーん。やっぱり、サソリよりもビフテキがいいわ」


「だったら、食べなきゃいいじゃん。文句言うなよ。オメー、都会っ子の割には、ど田舎暮らしだった僕よりも、ずっと野生化してるなー」


「サソリはね、砂漠での大事なタンパク質源なのよ。野生化なんてしてないわ」


「僕、サソリとか昆虫食うの飽きたぞー。もう僕はオメーのお抱え調理師状態じゃねえかよ。砂漠から出て、普通の店で食事がしてえぞ。僕だってビフテキの方がいい! ビフテキビフテキー。ビフテキビフテキー。ビフテキ食べたーーーい」


「あーあ。あのモモくんが、ビフテキの味を覚えちゃったのね。なら、ここでグロウジュエリーを早くゲットして、最寄りの町に入って、たらふくビフテキを食べましょうよ」


「うわああーい。うわああーい。……でもさ、本当にこんなところにグロウジュエリー……あるの?」


「だから、昨日も一昨日もあるって言ったじゃない。反応が弱くて、どこにあるのかまでは分からないけれど、あ・る・のっ!」


「僕そこが最大のネックだと思うんだよな。唯一分かっているのは、えーと、半径、何キロだっけ?」


「50キロよ。私たちを中心として、半径50キロ以内のどこかにあるの。たぶん、グロウジュエリーが砂と同じ大きさになってるかもしれないから、よーく見てね。きっと光り輝いていたり、色が違ったりと、他とは違って目立っていると思うの。モモくん、あんた、なぜかグロウジュエリーとの相性がいいんだから、これまでのようにひょっこりと見つけられるでしょ? 期待してるんだからね」


「………………無理だぁああああああああああああああああああああああ」


 天文学的な個数の砂の中から、一つの宝石を探すなんて困難過ぎる。まして、その宝石の大きさが砂と同じ程だった場合は、殆んど無理なのである。砂の中から一粒の砂なんてものは、探せっこないのである。


 僕は大の字になって、砂の上に寝っころがった。探索放棄を主張する姿勢であるが……。


 ジュワワワワワワワワ。


「うわあっちっちちちっちちちちちちちち。背中を火傷したああ」


「真っ昼間の砂漠の砂の上で寝ようとするからよ。アホねー」


「………………もう、これでいいや」


「あら、モモくん、どういう事なのかな?」


 僕はしゃがんで、地面にあった砂を無造作に掴んだ。それをリンスに差し出した。


「はい、このちっちゃい砂の中どれかがグロウジュエリー。やったー発見、発見っ! さあ、町に帰ろう」


「あんた、舐めてんの?」


「舐めてなんていねーぞ」


「適当な事を言わないっでって言ってんのよっ! 無造作に足元の砂を掴んで、この中のどれかがグロウジュエリーだなんて、んなわけないでしょう! やる気あるのかあああああ」


「だって、僕とグロウジュエリーの相性がいいから、見つけられるって言ったのは、リンスじゃんか。ほらほら、大事なグロウジュエリーをオメーにやるよー。バッグに入れて持ち帰ろう」


「こらああ。バッグが汚れる! 重くなる! 私のバッグに砂を入れるんじゃなーい」


 そんな時だった。突然、ドカーンと大きな音がした。


 僕はポカーンと、目の前に現われた『それ』を見つめた。リンスも自身を覆った影に気づいて、何かが背後にいると察したのだろう。おそるおそる、振り向いた。そして、叫んだ。


「ぎょええええええええええええええええ。古代生物っ」


 出現したのは、地面から50メートルは伸びている巨大なミミズのような生物だった。


 顔の面積のほとんどが口となっており、無数の牙が生えていた。


「リ、リンス……逃げようか?」


「当ったり前よ。モモくん、すぐ、後ろに飛び乗って」


 リンスは近くに停めていたバイクにまたがると、すぐさま発進させた。僕もバイクの後部座席に飛び乗った。リンスの使っているバイクは、どういう原理なのか若干浮遊しながらも走る事ができる。ただし、燃料を食うそうだ。普段はタイヤで走っているが、砂地などの路上が整理されていない場合は、このように低空飛行で走る事が出来る。


 巨大ミミズは僕達を目がけ、大きな口を開けて襲いかかってきた。それを回避しながらバイクを飛ばす。


「な、なんなんだよ、アイツ」


「だから古代生物なんだって。イモムシ型から蝶に変わる古代生物は知ってるけど、あんなサンドワーム型は初めてよ」


「なんでそんなのが、こんな、砂ばっかなところにいるんだよ」


「そんなの知らないわよー」


「追ってくるぞ」


「飛ばすわよー」


 リンスは、バイクの速度をマックスにし、ぶっ飛ばした。一方のサンドワームは、まるで、砂漠を海のように、顔を出しては砂の中に潜り……の繰り返しで僕達を追いかけてくる。


「モモくん! やつは、やつはまだいるの?」


「まだいるぞ。追いかけてきてる。砂の中に潜ったり出たりして追いかけてくる」


「まーずーいわーー」


「え?」


「低空飛行モードは、モーターに負荷がかかり過ぎるから、連続使用はできないのよ」


「ふーん。……っで?」


「モーターが、まもなく停止して……バイクが停まっちゃう……。ほら、もう、速度が落ちてきた……」


「へ?」


 僕がそう呟いた時には、ミミズにほとんど追いつかれたようで、僕たちの真上から口を開けたミミズがドーンと、落下してきた。しかし、ギリギリだが、横移動する事で回避できた。その後も、同じように回避しながら、しばらく走り続けた。……が。


「あ、あははは。まずいわ。モーターがそろそろ限界よ。もうこうなったら、仕方がなーい」


「仕方がないって、どーすんだよ」


「熱くなってるモーターを冷やすのよ。そしたら、また、走れるようになるのよ。なので、それまで、切り札をきる事にするわっ」


「た、頼むぞ。さっきのサンドワーム、今は砂の中に潜ってっけどさ、多分、もうすぐまた、出てくっぞ。切り札があるなら、早くきってくれっ」


「モモくんが、やっつけちゃって。切り札は……モモくんっ。あなたよっ」


「ぜってーむり」


「早っ! 諦めるのが早過ぎっ」


「無理っていったら、無理だって。……おい、あれ? なんだ、あれ」


「なに? なに? あっ、あいつらだわ」


 まだ、かなり遠方にだが、球体のロボットの姿が見えた。

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