第14話

「小僧、我々はこないだの力比べの再戦を所望するのでアリマス。攻撃の狙いは同じく小娘でアリマス。前回のように、受け止めてみろでアリマス」


 球体の表面を光が覆いだした。そして前々回と同じく、4本の腕がグルグルと絡まっていき一つの腕となった。全体を覆う光は、その腕に集結した。


「これからする攻撃は桃源郷の時の十倍の重さですワ。私たちと会話して頂いたお礼に、この技の弱点を教えしましょう。もし仮に、この攻撃を受け止める自信がなければ、技のモーション前に先制攻撃を仕掛けると宜しいですワ。そしたら小僧の勝ちが確定ですワ」


「攻撃力に比例してタメ時間が長くなるですー。『100トンぱんち』に比べて、これから繰り出す『1000トンぱんち』はタメ時間が、倍以上必要になるですよー」


「しかし、我々は小僧の本質を、こう解釈したのでアリマス。戦闘狂だと」


「だから、受けて立つだろうと推測したですー。さあ、桃源郷での、リベンジを申し込むですー。いざ、尋常に勝負ですー」


 球体は、どんなことをこれからするのか、どこを狙うのか、馬鹿丁寧に説明した。罠かもしれないが、『タメ時間』の間に先制攻撃を仕掛けたら、大きなダメージを与えられる気がした。ただし……。


 リンスが、戸惑っている僕に叫んだ。


「モモくん! やっつけちゃって! 自分から弱点を告げてるわよ。超ラッキーよ」


 僕は振り向かずに返した。


「悪いなリンス。それはできねえっ!」


「な、何を言ってるのよっ!」


「どんな攻撃なのか、見てみたいんだ」


「ば、ばばばばばば、ばかやろーー。せっかく、弱点だと、自分で言っちゃってるのにっ」


 背後から文句を言ってくるリンスとは逆に、球体からは称賛の声が聞こえた。


「小僧っ! よくぞ言ったですー。それでこそ、男の子ですー」


「必殺技の準備が整いましたワ」


 腕から猛烈な威圧感が放たれた。僕の細胞という細胞がビリビリと反応した。


 光が一瞬の拡散を見せた後、こぶしに収束した。これまでに見た事もない膨大量の光が球体のこぶしを覆って、キィィィィーーーーン、と音を立てている。


 そして中の人、3人の声が重なった。


「くらえ必殺、1000トンぱーんち」


 光に覆われたこぶしは、リンスに向かって放たれた。


「きゃああああ。こわあああああああい」


 リンスは悲鳴をあげた。しかし、こぶしがリンスに当たることはなかった。僕が前回と同じように受け止めたからだ。しかし、圧力が全開の比ではなかった。


「う、うぎぎぎいっぎぎぎぎぎぎぎぎっぎぎぎぎぎ」


 僕は力一杯、球体の拳を押し返そうとしたが、踏ん張りが効かず、逆に後ろへ押されていった。リンスのすぐ真正面にやってきた時、僕は渾身の力を振り絞った。


「うっがああああああああああがああああああああああああああ」


 こぶしは……止まった。受け止めたのだ。その一瞬の安堵を捉えたように直後、再び3人の声が聞こえた。


「くらえ追撃、といいつつもシリーズ! ミミズのミミ吉!」


 僕とリンスのいる地面から大きなパイプが出現して、そのまま僕とリンスの肩の辺りまでを包み込むように収縮すると、地面へと引きずり込んだ。あまりにも隙を突かれた一瞬の出来事で、対応に失敗した。


「きゃああああ。なに、なにこれー」


「うわああ。なんだこりゃっ」


 僕とリンスはパイプのように包まれたまま、首から上だけを地面から出している状態となる。ドシンドシンと、地響きを立てながら、球体が近づいてきた。


「くっそ。オ、オメーら、これはなんだ。うぐぐぐっぐ。で、出られねえ」


 収縮したパイプを力いっぱい、広げようとするが、ビクともしない。


「ぷっぷっぷ。お馬鹿さんたちですー」


「うっしっし。今回こそ、私たちの勝ちでアリマスね」


「やーいやーい。時間があれば顔に落書きしたりなんかして嫌がらせしてやるところですが、運がいいですワ。おほほほほ」


「小僧の馬鹿力は、何度も見ているですー。超合金でさえ生身のこぶしで、ぶっ壊したくらいですー。でも、今回の素材は、そんな馬鹿力でも壊せない、超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超合金なんですよー」


 なんだその金属、聞いたことがないっ!


「ウサギ族の英知の結晶でアリマス。今回の必殺技のミソはですね、わざと会話に持ち込み、穴を掘る時間を稼ぐところにあったのでアリマス。会話に興味がない相手には、無力な技だったのでアリマス」


「ぷっぷっぷ。思い知ったかですー。追撃必殺技『といいつつもシリーズ』は、超絶卑怯な奇襲技ですー。『1000トンぱんち』はただのフェイントだったのですー」


「技を選択した時から、オマエたちの死角から穴を掘り始めていたのですワ。どうでしたか、この静寂性。全く気がつかなかったのではありませんか?」


「ただ穴を掘るだけなら誰でもできる。しかーし、静かに穴を掘れるのは、我ら怪盗ウサギ団のみですーっ!」


「穴は、小娘の立っていた位置を中心に半径2メートルに開けたのでアリマス。小僧をその位置まで、移動させる事が今回の最大の関門だったのでアリマス。無事成功できてよかったのでアリマス。勝因は我々の演算力と心理戦の結果でアリマス……って、きゃろっと、うさぴょんお姉さま、それと私っ! 敵にわざわざ、技の解説をする必要はないのでアリマスよっ!」


「いいですー。大盤振る舞いですー。どーせ、もう会う事はないですー」


「ここでせいぜい、助けを待ち望んで、余生をお過ごしになさると宜しいですワ」


「ミイラになったら遺体を拝みにきてやるでアリマス。これが本当のレッツ復讐でアリマス」


 なんだかよく分からないが、僕たちは敗北したようだ。先程から全力で脱出しようともがいているが、僕たちを包んでいるパイプは、ビクともしない。


 リンスは球体を睨みつけながら言った。


「あんたたち、出しなさいよっ! 私たちをここから出しなさい」


「出すわけないのでアリマス。もし出したら、今度こそ私達は小僧にコテンパンにやられてしまうのでアリマス」


「さっき、弱点を教えてやったのは何故か? それは挑発する為であると同時に、後悔させる為でもあるのですー。ぶっちゃけ穴を掘っていた間はずっと攻撃のチャンスだったのですよー」


 会話を要求された時点で、目茶苦茶怪しいことに気が付くべきだった。あのまま、先制攻撃をしていれば、勝てていたかもしれないのに。


「あと、小娘が2メートル以上動いても、我々の追撃は失敗していましたワ。我々の敗北でした」


「あの時こうしていればよかった。ああしていればよかった。そういう悔しい思いは、頭の中で雪だるまのように大きくなるのですー。無意識に何度も脳内シュミレーションをしちゃうのですー」


「わ、私……涙が出てきたでアリマス。ずっと、後悔していたのでアリマス。うぅぅぅ。全ては、マヌケな私のせいだったのでアリマス……。うぅぅぅ」


 球体から鳴き声のようなものが聞こえてきた。


「ばにーお姉さま、うさぴょんお姉さま、きっと、あのドアの先ですワ。おそらく、あの先にグロウジュエリーがあるのですワ。明らかに怪しい場所ですワ。むしろ怪し過ぎるくらいですワ」


 球体の一つ目が、ぎょろりと遺跡のドアを向いた。


 ドアに向かって動き出した怪盗ウサギ団に、リンスが聞いた。


「『おそらく』って、あなたたち、レーダー探知機を持ってるんじゃないの?」


 球体は、こちらを振り向く。


「この島全体から、得体の知れない波動が出ていて、レーダー探知機の精度が乱れているのですワ。だから宝石の近くにいかないと分からないのです」


「今回もおまえらから宝石の反応は出てないから、宝石は他の場所にあるようですねー。あとでゆっくりと探して、回収するですー」


「おほほほ。あーばよ、ですワ」


「行くですー」


 球体は、古代遺跡の扉の中に入っていった。


 僕はどうしたものかと考える。パイプからの脱出は難しい。

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