第13話
一つ目の黒目をギョロギョロと回して、僕たちに焦点を合わせた。
「お、おまえたちは! いつぞやの小僧と小娘じゃないですかー」
「うさぴょんお姉さま、これは天命かもしれないのでアリマス。怪盗ウサギ団に、レッツ復讐しろという、天命なのかもしれないのでアリマス」
「おほほほ。ここで会ったが2か月ぶり。しぶとい奴らですワ。ばにーお姉さま。うさぴょんお姉さま。我々のしぶとさも、群を抜いてますが、こいつらのしぶとさもなかなかのものですワ。敵としてあっぱれですワ」
おかしい。前回、濁流に呑まれて、海底で爆発したはずだ。
僕は球体に向かって叫んだ。
「オメーたち、こないだ、海の中で爆発して死んだんじゃなかったのか!」
「ばーかばーか。うさぎが海を泳げないなんて、誰が決めたんですー。ぷっぷっぷ。常識を覆す先駆者、それが我ら怪盗ウサギ団ですー」
「うっしっし。何度もサメに襲われて、喰われそうになったでアリマスが、我らのど根性を甘くみるなでアリマス」
「こうした死線を乗り越える度に、我ら怪盗ウサギ団の精神力はレベルアップしていくのですワ。おほほほ」
怪盗ウサギ団の中の人たちの声と共に、球体からオーラのようなものが、溢れていくのが見えた。
「レッツ復讐でアリマス。普段は穏健な我ら。これまで泥棒事業に必要な戦力しか搭載してなかったのでアリマス。それこそが、これまでの敗因!」
「しかし、誇るべき科学力をちょっとでも戦力方面に傾ければ、一気に戦力インフレするのですー! もやは以前とは別マシーンなのですー」
「それでは、お別れですワ! ばにーお姉さま、うさぴょんお姉さま、ご指示をお願いしますワ」
「1000トンぱーんち、ですー」
「……っと、言いつつもシリーズで今回はいくのでアリマス。うさぴょんお姉さま、宜しいでアリマスか?」
「もちろんですー」
どうやら戦闘になりそうだ。
球体は構えをとった。僕も腰を下ろして、意識を球体に集中させた。
「オメーら一体、何を企んでるんだ。今度は、やられる前にぶっとばしてやる。いつも先手を取れると思うなよ」
前回、前々回とも、球体から攻撃を仕掛けられた。今度は先制攻撃で、こちらから仕掛けてやる。
僕は、地を蹴った。……が、球体は8本の腕のうちの一本の手の平を前に出して、そこから白旗をポンと出した。
「ス、ススス、ストープッ! 小僧、ストップでありますワ。つまり私は、焦るなと言いたいのですワ」
「そうでアリマス。我ら怪盗ウサギ団は、『会話』を所望しているのでアリマス」
「えっ? 会話? 今から戦うんじゃねーの?」
急ブレーキをかけながら、僕は軽く混乱した。
話の流れ的に、すでに戦闘が開始されたと思っていたからだ。
「我らは馬鹿ではないのですー。私は小僧の力を過小評価してないですよー? むしろ高評価しているのですー。我らはマシーンをパワーアップさせてきたとはいえ、現在の装備では、まともに戦っても勝ち目がないと考えているのですー」
「おほほほ。お喜びなさい、小僧と小娘。だからこそ、少しばかり世間話に付き合ってあげますワ。何か、我ら怪盗ウサギ団に質問があれば受理しますワ。といいますか、是非とも質問してもらいたいのですワ」
「どーか、なにとぞ、よろしくお願いするのでアリマス。ウィーワナ質問でアリマスっ!」
よく分からないが、話し合いを望んでいるようだ。そんな相手に、一方的に攻撃を仕掛けるのは躊躇われた。どうしたものかと考えあぐねていたところ、リンスが一歩前に出て言った。
「じゃあ、聞かせてもらうわ。あんたら一体、何者なのよ」
球体は、その質問に答える。
「私たちは怪盗ウサギ団。ウサギ族の3姉妹でアリマス。次女の私の名は、ばにー」
「末っ子の私は、きゃろっと」
「長女の私は、うさぴょん、ですー。三匹揃って、怪盗ウサギ団っ!」
がちゃーんと音を立てて、ロボはポージングを決める。
「私の名は……」
リンスも名乗ろうとするが、ロボは手を前に出して、それを止める。
「言わずとも知っているですー。髪洗家の末裔ですねー?」
リンスは目を見開いた。
「ど、どうしてそれを知ってるの?」
リンスの上の名前は『髪洗』という。彼女のフルネームは『髪洗リンス』だ。
「忘れるわけがないのでアリマス。私たちは、卑劣な髪洗一族の被害者でアリマス」
「いやいや、我らだけではなく、世界中の『ウサギ目』が、お前ら一族の被害者なのですワ」
「忘れるなでアリマス。絶滅したプロラグスをっ!」
なぜだか、声色から不機嫌さがにじみ出ていた。
折角なので、僕も質問してみることにした。
「意味がわからないぞ、オメーら! ウサギ目って、あの小動物のウサギの事か?」
「そうですー。分類で言うなら動物界・脊椎動物門・哺乳綱・ウサギ目・ウサギ科の、あのウサギですー。全身が柔らかい体毛で覆われている、あのウサギですー」
「他の動物と比べまして、耳介が大きいのが特徴でアリマス。耳会には毛細血管が通っていて、この耳会に風を当てることで、体温調節に役立ててるのでアリマス」
「この耳会は、音のする方へ正面を向くよう、自分で動かす事も出来るのですワ。その動きがとってもチャーミングなのですワ」
………………。
うーん、よく分からない。なぜ一般的なウサギが、リンスの家と関係があるのだろう。過去に、大量に狩って特定の地域のウサギたちを絶滅でもさせたのだろうか。
リンスは再び球体に言った。
「質問を続けるわ。どうしてそのウサギが、私の家の被害者になるわけ? なんで怨んでいるの?」
その言葉が発せられた次の瞬間、球体から発せられているオーラの質が変わったような気がした。どす黒く濁ったようなオーラが混じりだした、そんな感じだ。
「ぐっぐっぐ。ばにーお姉さま……うさぴょんお姉さま、何故だか分かりませんが、私、堪忍袋の緒が切れかかりましたワ……」
「まあ、そう言うなですー。気持ちは分かるが、この小娘は、本当に何も知らないのですー」
「……だからといって許す、ことはできないのでアリマス」
リンスは首を傾げて、両手を左右に開いた。
「はあ? 意味がわかっかんない」
再び僕も、球体に質問してみる。
「僕からも質問してもいいかー?」
しかし返事は、すぐにはこなかった。
「うさぴょんお姉さま、準備が整いましたワ」
「了解ですー。そうそう、小僧。会話はもうおしまいですが、一応その質問を聞くだけは聞いてやるですー」
準備が整った? 一体、なんの?
何の準備が整ったのかを気にしながらも、僕は質問を投げかけた。
「グロウジュエリーを集めて、一体どんな願いをするつもりだ?」
「ぷっぷっぷ。質問タイムが終わった今、教えてやる義理はないですー。でも、適当に答えるくらいはしてやるですよー。余興で世界征服でもするですー」
「おまえらっ! やっぱり、世界を自分の所有物にしたいんだなっ。偉人になりたいんだなっ!」
「偉人? 何を言っているのか分かりませんが、うさぴょんお姉さま、ナイスアイデアでアリマス!」
「どのみち、我らの崇高な目的など、貴様ら人間には分からないのですワ。さああ、バトルの開始ですワ」
球体の雰囲気が変わった。
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