第7話
僕はリンスに聞いた。
「お、おい……どうすんだ?」
「くっそー。怪盗ウサギ団って、人を殺したりはしない、そこそこ良心のある怪盗団という噂だったけど、極悪ね」
「つーか、オメーの先祖、一体あいつらに何をしたんだよ。めちゃくちゃ恨みを買っているみてーじゃねえか。ってか、あいつら、めちゃくちゃ長生きしているみたいな言い方をしてたけど、どういう事だ?」
「知らないわよ! うちの初代が『グロウジュエリー』を集めて、大富豪になって、7代前の先祖が『グロウジュエリー』を再び集めて、この『レーダー探知機』を創造してもらった、くらいしか私は知らないからっ」
怪盗ウサギ団とリンスの先祖は何らかの形で関係を持っていると思われるが、今はそんなことを考えている時ではないことを思い出す。
「よくわからねーけど、これから僕たち、どーなるんだ? あいつら、漂流とか言ってたけど」
「ああ。その件なら大丈夫よ。漂流しないから、安心して」
「え?」
「だって、予備の小型エンジンがあるんだもーん。うふふふ。予備には予備を考えているのよ。わが社のクルーザーの世界的なシェアが高いのは、エンジンが故障した時など、もしもの際のトラブル対応策も万全だからなのよ」
「って事は、大丈夫なんか?」
「ええ!」
リンスは笑顔で頷いた。僕は安堵の吐息を漏らす。
「すげー。リンス、オメーは、すげー奴だよ」
「てっへへへへ。もっと褒めていいわよ」
「というか、すごいのは、リンスじゃなくて、会社の方か」
リンスはただその会社の令嬢なだけである。
「ずこー。私を褒めてよ、だって私、もうすぐその会社のトップになるんだもん。パパの跡を継いでね。まあ、そうなったら自由な時間を持てなくなっちゃうから、今の内に、願いを叶えてボインにならなくちゃいけないわけっ!」
「そんなに大きな胸が必要なのかどうも僕には分からないけど。つーか、あいつら大丈夫なのか? 危険種ってのに向かっていったぞ……って、おい!」
船が進んでいる先が、ドンパチと明るく輝いた。そして、爆風によって生じた大波が波状的に襲ってくる。船は揺れ、僕とリンスはバランスを崩して、転んだ。
「な、なんてやつらなの……あの熱量。見た目での推定だけれど、戦略兵器並の威力があるわ。それを、何発も打ち込んでいる」
リンスは顔を真っ青にしながら言った。
「それじゃあ、あいつら、あの巨大亀を、殺しちゃったって事なのか?」
「……いいや。それは分からないわ。だって、まだ向こうで爆発が続いているって事は交戦中って事でしょ? 危険種の中には、核爆弾を何十発打ち込まれても全くケロリとしてるのも、うじゃうじゃいるんだから……」
「核爆弾ってなんだ?」
「すっごいー破壊力を持った、数世代前に最強だった爆弾の事よ。ってか、あわわわわわわ。私達、今そこに向かってるのよね。進路変更しなくちゃ巻き込まれるわ。早く小型エンジンをつけて進路を変えないと。だんだん、近づいていってるー」
リンスは小型エンジンを船の奥から取り出してくると、縁に持っていき、設置を試みた。そして、涙目になった。
「お。落としちゃった……走ってる最中に取り付けようとしていたから。今やってきた波の揺れで……今の、大きな波の……揺れで……」
船は、ブロロロッブロンと音をたてながら走り続ける。
小型エンジンが落ちたポイントから、かなり離れてしまった。
「え、えええええ。じゃあ、僕たち、どーなるんだよ」
「知らないわよ! 私に訊かないで」
僕はため息をはいて、船の進行方向に視線を向けた。
「あれ? なんだか、さっきと様子が変わってないか? ドンパチが止んでいるっ」
「あっ! これはっ!」
先程までの爆風と大波は消えて、今度は、渦のようなものが見えはじめた。僕たちの船が向っている先の海面に大きな穴が空いて、渦巻いていた。
「どーなってんだよ。リンス!」
「あわわわ。もう駄目よ。あの危険種の正体が分かったわ……。ガメーランだわ。信じられない程の高速回転をする巨大亀で、空も移動できるらしいの。あーあー。もーやだ。あーやだ。世の中、一寸先は闇よ。闇なのよ。私たち、運が悪すぎるわ」
「亀が空を飛ぶ? 嘘だろ」
僕は亀自体、桃源郷からおりて初めて知ったので、それほど知識を持っているわけではないが亀が空を跳べないことぐらいは知っている。
「真偽なんて、知らないわよ。ただ、ガメーランによって崩壊寸前までボロボロにされた国は一つや二つじゃないわ。その話が本当なら、今……あの巨大亀は海の中で、猛烈な回転をしているのでしょうね、きっと。だって、そうじゃないと海面に、あんな大きな渦巻きなんて、発生しないもの……」
「おいおいおーい。僕たち、その渦巻きに向っているぞ」
「なんだか、段々と海が赤くなってきてないかしら?」
「血……だな、こりゃ」
海面には、赤い染みのようなものが漂い始めていた。ここまで血が流れてきて、はっきりと色が分かるということは、甚大ではない出血量と推測できる。
しばらくして、ついに僕たちは海面に出来た大穴の近くに到着した。そして渦に巻き込まれていき、渦の周囲を回りはじめる。
その渦の中心部、海底付近に向かって、球体のちぎれた手足も浮かびながら、一緒に回っていた。そして渦の底では、球体が高速回転する巨大亀の甲羅の上で、ゴロンゴロンと回っていた。リンスは涙目になって言った。
「あーもうダメよ。死んじゃうわ。私の人生、もはやここで終わりだわ。ナンマイダブ、ナンマイダブ」
「どーすんだよ。僕も死にたくねーぞ。諦めるなよー」
リンスは僕の両腕をぎゅっと掴んできた。
「モモくん、あんたすごい力を持っているんでしょ? 伝説にもなってるんでしょ。何とかしてよ。あの巨大亀、悪い奴じゃないけど、このままの状態でどこかの陸地に上陸でもすれば、暴れ回って本当に悪い奴になっちゃうわ。漁師さんだも、被害を受けるわ。やっつけなくてもいいの。静めるだけでいいの」
僕はリンスの言葉に、首を傾げる。
「伝説ってなんだ? オメーが、僕をそんなに頼りにしている根拠は分からないけど、分かった。自信がないけど、なんとか、あの亀さんの怒りを鎮めてみせるぞ」
「でも、できるの? ……って、おいっ! ちょちょちょっと、飛び込むなっー」
僕はリンスの制止を振り切って、渦巻く海に飛び込んだ。
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