第6話
球体は僕たちを横切った後、Uターンして、戻ってきた。この球体には見覚えがある。
「おーおー。お前達だなですー」
「お姉さまがた。1つ目のグロウジュエリーの反応が、こいつらから出ておりませんワ」
「ふん。ここであったが数日振り! 前回の復讐をさせていただくでアリマス。1つ目のグロウジュエリーを、どこに隠したのかは知らないでアリマスが、必ず回収するのでアリマス」
怪盗ウサギ団だ。ぶっとばして、隣の山に墜落した後、爆発したみたいだったが、健在のようだ。
ちなみに、1つ目のグロウジュエリーは、レーダーで察知されなくなる特殊な布を被せて、リンスが自宅で保管している。
「オメーら、また現われたのか。というか、生きてたのか。そっちこそ、よくも僕の大事な家を壊してくれたなっ!」
僕がそう言ったところ、球体から笑い声が発せられた。
「うっしっし。我らの生存本能を甘く見るなでアリマス。そして、壊すのは、家だけではないのでアリマスよー。きゃろっと、ぴぴん砲の用意でアリマス。いいでありますよね、うさぴょんお姉さま?」
「もちろんですー」
「おほほほ。さすがは、ばにーお姉さま。聡明ですワ! そして、ワルです! ちょーワルですワ。私、こんなワルい事、思いつきもしませんでしたワ。お待ちをば! あと50秒で準備完了ですワ」
ぴぴん砲? なんのことか分からないが、何かを仕掛けてくるだろう気配は感じた。
僕の隣で水面に浮いているブルマが叫ぶように言った。。
「モモくん、とにかく船に乗りましょう」
「おう! わかった」
僕とリンスは急いで、近くに停止させているクルーザーまで泳いで向い、甲板の上にあがった。
「地獄を見てこいですー!」
「あと、15秒ですワ」
「お尻ぺんぺーんでアリマース。私たちは前回の過ちを繰り返さないのでアリマスよ。つまり往復して、二度も同じ道に落ちてるウンコを踏むようなおバカではないのでアリマス。ですよね、うさぴょんお姉さま!」
「そうですー。小僧、オマエとの肉弾戦は危険だと判断したのですー。戦とは戦略こそが肝あのデスー!」
何を仕掛けてくるつもりだろうか。甲板の上で、腰を低くして、身構えた。
「お姉さま方、あと、6秒ですワ。4、3……」
カウントされる毎に、光が球体を包みはじめた。その光は、球体の目の黒目に集まりだして、前回同様、一度拡散した後、再び収束した。
「リンス、何かがくるぞ。僕の背後に隠れていろ」
「モモくん、こわーーーい!」
リンスは僕の背後にまわる。
「無駄ですー。この攻撃は不可避ですー」
カウントが0になった時点で、球体から3人の声が聴こえた。
「くらえ必殺、ぴぴん砲っ!」
目から、膨大量の光が発せられ、僕たちを照らす。
あまりの眩しさで、発光が止まった後も、周囲が見えなかった。僕は痛みで目を閉じながら、背後のリンスに呼びかける。
「ぶ、無事か、リンス!」
「私は無事よ。でも、視えない!」
再び、僕は球体を向いた。徐々にだが、痛みが引いて、視界が回復してくる。
「オメーら、一体何をしたっ!」
「ぷっぷっぷ、そんなの、もうすぐ分かることですー」
直後、上空から、落下音が聞こえた。直後、爆発音がした。
「成功ですー。ぴぴん砲とは、眩い発光で目くらましをした上で、不可避のミサイルを当てる、という、ちょーアクドイ技ですー」
「おほほほほ。ミサイルは我らウサギ族の英知により、寸分も狂いもなく、太陽位置と地球の自転計算を行い、現時点の位置情報も加え、天文学的な量の演算を行った上で、太陽を隠れ蓑にして放つものですワ」
「マシーンと太陽のダブルの光に隠れたミサイルは絶対不可避でアリマス。デメリットは、真っ昼間の野外でかつ晴れていなくては使えない技である点。さらには技の内容をすでに知っている相手にとっては攻撃が来る方向が丸わかりである点って……あわわわわ。う、うさぴょんお姉さま、きゃろっと、と……私もですが、敵にわざわざ、技の解説をしなくても、いいでアリマスよ?」
球体から、慌てた声が聞こえる。視界が戻った僕とリンスは、呆けたように球体を見つめた。
「び、びっくりしたわー。でも、私たちにそのミサイルは、命中しなかったわねって………………あああああああああっ! なんてこと!」
リンスが突然、叫びはじめた。目も剥いていた。
「どうした、リンス!」
リンスの視線の先を見ると、もくもくと煙があがっていた。
「ばーか。ばーか。お前達を狙ったミサイルじゃないですー。『エンジン』を狙ったですー。しかも『船を沈没させない程度の火力』ですー」
「我らの苦しみの一端でも味わうのでアリマス。ただただ助けを求めて待ち続ける苦しみを。悔しさを。そして、その虚しさをっ! これが本当のレッツ復讐!」
「漂流ですワ。簡単には死なせませんワ。あなた達自身に直接的な恨みはなくとも、小娘! お前の先祖には大ありなのです。目には目薬を、歯には歯磨き粉」
「そのことわざ、ちょっと違うわああああ」
リンスが大声で、ツッコみをいれた。
「ぷっぷっぷ。あーばよ、ですー! 干乾びてミイラになった頃に、改めて遺体を拝みに……」
そこまで言って、球体の目が大きく見開いた。
「なんでですかー? こいつらの船が、なぜだか急に動き出したですー」
「そ、そんな馬鹿なでアリマス! エンジンは壊したはずではっ」
リンスは丸裸になっているエンジンを見つめながら、頭を抱えた。
「まずいわ、エンジンが暴走しているっ」
先程、ミサイルによる砲撃をくらったが、エンジンの蓋が強固でクッションとなって、完全にエンジンは破壊はされなかったようだ。しかし、丸裸となったエンジンは放電していて、不規則な『ブロブロッロン』という音が鳴っている。球体は制御を失った船に併走するように海上を走った。リンスは真っ青な顔のまま叫ぶ。
「駄目よ。これ、すぐには修理できないわ。エンジン、暴走しているわ」
リンスの悲鳴を上書きするように、球体からも声が聞こえる。
「こらっ! きゃろっと、エンジンをどうして完全に破壊しなかったのでアリマスか!」
「おろろろろ。おろろろろ。申し訳ないですワ。火力がちょっと弱すぎたようですワ。船を沈めないように、手加減しすぎてしまいましたワ」
「……ウムム。いいですー。いいですー。放っておくですー。たぶん、放流するですー」
「うさぴょんお姉さま、ばにーお姉さま。まずい報告がありますワ。あいつらの暴走した船が向かっている先で、二つ目のグロウジュエリーの反応ポイントが検出されましたワ。さらには、その反応も、移動中ですワ」
「ということは、乗り物でアリマスか? くっ、永久の漂流の仕返しが、人間の乗り物に救助でもされたら、面倒な事になるでアリマスね」
「ぷっぷっぷ。構わないですー」
中の人たちで話し合いが球体から漏れていた。そして、球体の一つ目が、こちらに向けられた。
「おーい、おまえら、今の我らの会話を聞いていたかですー? 一瞬、希望を抱いたかもしれないですが、そんな希望はすぐに砕け散らせてやるのですー。やーいやーい」
「我らは殺生は好みませんワ。しかし、怒り狂う膨大な時間が我らを変えた。先回りして、おまえらを救助するかもしれない乗り物を、沈没させてやるのですワ。これにて漂流確定っ」
「そして、そこにある2つ目のグロウジュエリーも、我ら怪盗ウサギ団がゲットするのでアリマス」
「あーばよですー」
3人の声が聞こえた後、球体は猛スピードで、地平線の向こうに走っていった。
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