第3話 魔王の日常 後編

魔王と呼ばれる幼女。彼女は魔界の王ではない。人間界に魔薬を持ち込み、暗君であった元王と結託して腐敗した世界を作り上げ財をなした魔薬王なのである。

彼女には名前はない。正確に言うと捨てたのだ。魔王になる道を選んだ時、邪魔になるものを全て捨てた。例えそれが自らの名前でさえも。

結果的に現王と勇者たちによるクーデターにより力を封印され幼女にされてしまったのだが、彼女の野望の火は消えていない。必ずや元の姿に戻り、大金を稼ぐことを。


「借りてきちゃったこの犬どうするんですか?」

屋敷の庭では鉄格子に入った双頭の超大型犬と、その前で死んだフリをしているポチがいる。

「仕方ないわね。少ない魔力を使って一時的にポチの呪いを解きますか?」

「魔王様そんなことできるんですか?!」

「今の力だと3分が限界だけどね」

魔王が難しい呪文を唱えるとポチの姿が光に包まれてケルベロスへと変化した。

「さぁ、ポチ!肉食系男子だった時の昔を思い出しなさい!」

「くーん……」

「ポチ、死んだフリを辞めないですけど」

「ポチー!!」


セバスチャンオオタケがポチが人間の言葉を話せるように魔法をかけた。

「魔王様、こいつは俺の元嫁ですわ。昔、子供を作ったのはいいが借金まみれだったワイは嫁と子供を捨てて人間界に逃げたんですわ。次あったら殺される。そう思いながら生活してましたが、まさかフレンチブルドッグの姿で再会するとわ」

「この犬がクズだってことが分かりましたね」

「想像以上のクズね」

「なんとでも言ってください。当時のワシにはそうするしかなかったんや」

「元嫁はポチと会ってなんていってるの?」

「……喉元を嚙み切るから檻の中にこいと」

「魔法解除」

魔王はフレンチブルドッグの姿に戻ったポチを檻の中へ投げ入れると屋敷に戻った。

「ぴー!!!」

屋敷の庭にはポチの悲鳴と暴れる元嫁の振動が響いている。

「タンゴの練習しないと♪」

魔王は今日もタンゴを踊るのだった。

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