第2話 魔王の日常 前編
魔王の朝は早い。
6:00に起床し朝食を済ませた後、愛犬の散歩を行う。屋敷の広い庭で愛犬との楽しいひと時を過ごしたら、次に語学の勉強。魔王たるもの、どんな相手が挑んで来ようともコミュニケーションを取らなければならない。
「私が魔王だ。私が魔王だ。私が魔王だ」
「私の前にひれ伏すが良い。私の前にひれ伏すが良い。私の前にひれ伏すが良い」
「私の部下にならならいか。私の部下にならないか。私の部下にならないか」
単語を覚えるためには反復練習が欠かせない。
その後、昼食を食べてお昼をし、フラメンコの練習が始まる。
最初は掛け声の練習しかさせてもらえなかったが、最近は踊りもさせて貰えるようになった。
必死になって踊っていると時を忘れて気がついたら日が暮れていた。
夕食は簡易的に。カルテス・エッセンでお腹を満たし、20:00ベッドの中に潜るのだった。
「冗談じゃないわよ!」
布団を蹴飛ばし、魔王は強く叫んだ。
「魔王様、どうなさいました?!」
魔王の声に反応して使用人が寝室に飛び入ってきた。
「もう我慢の限界よ!あいつら勇者達のせいで毎日こんな屈辱的な生活をさせられて…活動時間が6:00~20:00の魔王がどこにいるのよ!誰も魔王に健康的な生活を求めてないわよ!」
「仕方ないですよ。魔王様の今の姿は幼女なんですから。年相応ですよ」
色白ロングヘアーで白のワンピースと麦わら帽子が似合う幼女。それが、今の魔王の姿である。
「こんな姿になって1番辛いことが何かわかる?」
「高いところのものがとれないとか?」
「違うわよ!今までは高身長イケメンで金、力、権力、全てを手にしていたのに今はただのフラメンを習う幼女よ。そしたら今まで私を見てメスの顔をしていた女達が母親の顔をして私を見るようになり、恐怖に恐慄いていた男達はいやらしい目で私を見るようになったのよ。力を取り戻したらロリコン共を殲滅してやる!」
「仕方ないですよ。勇者達に負けちゃったんだから殺されないだけマシですよ」
「あなただって悔しくないの?黒執事とか呼ばれていて逆らうものを投げナイフで串刺しにしていたのに、今はセバスチャンオオタケよ?売れない芸人みたいじゃない!オマケに勇者達がやってる興業の司会をやらされてるし」
「人間界と魔界の景気は連動してるもので、人間界が好景気になっている影響で魔界は絶賛不景気中なんですよ。仕事があるだけマシです」
「あいつらのせいで私の周りがめちゃくちゃよ!」
「でも、悪いことばかりではないですよ。ポチの食費が95%減りました」
「それはケルベロスがフレンチブルドッグに変わればね……よりにもよってどうしてフレンチブルドッグなのよ!せめてポメラニアンが良かったのに!」
「そこはこだわりがあるんですね。でも、お金は大切ですよ。今はまだ魔王様の貯金があるのでどうにかなっていますがそれも時間の問題ですよ」
「それもそうね。何か金策を考えないと」
少し暴れてスッキリしたのか、魔王はそのまま眠りに落ちてしまった。セバスチャンオオタケは魔王の無邪気な寝顔を拝見してから布団をかけて電気を消し、部屋を出ていった。
数日後、魔王宛に大きな鉄格子とそこに入っている双頭の超大型犬が届いた。
「魔王様、これなんですか?」
「何って、金策よ」
「私でも分かるように説明してください」
「ポチがフレンチブルドッグにされてからいろいろと調べたのよ。そしてたどり着いたの。ポチを使って人間界の犬と魔界の犬の混血種を作れば高く売れるんじゃないかって!」
※フレンチブルドッグとはブルドッグがパグやテリアとの交配によって人為的に造られた品種である。
「いやいや、流石に無理でしょ」
「そんなことないわ!ケルベロスだった時はプレイボーイだったじゃない。良く近所の家の魔犬に種付けしてきて何度誤りにいったことか」
「ポチ、あまりの恐怖に死んだフリしてますよ」
「ポチー!!」
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