第三十四話 輝くことの意味
"聞きに行っちゃうのも良いんじゃない?"というあゆみの言葉に頷いて、五人は学園のとある場所へとやって来ていた。
……そう、学園長室である。
「失礼します」
軽く数回ノックをしてから、あゆみを先頭に五人は学園長室へと足を踏み入れる。
そこには、いつも通りに机を挟んで座る学園長。
そして、学園トップスタァである、スタァライトプリンセスのキセキがいた。
「き、キセキ先輩!?」
「あら、かのんちゃん達。こんにちは。学園長先生にお話?」
「こんにちはです! はい、ちょっと聞きたいことがあって……」
かのんの言葉に頷いて、あゆみは手に持っていたDVDを学園長へと見せる。
すると、学園長は少し驚いた顔をして「よくこれを見つけたね」と、かのん達に少し照れたような顔を見せるのだった。
「これは私が君たちより少し上くらいの頃のライブ映像だよ。あの頃はとにかく仕事が多くて、毎日とても忙しかったのを覚えているよ」
「そのライブ映像は、私も見たことがあるの。とても輝いていて、すごく憧れちゃった」
「キセキ先輩もですか? 私もさっき見て、すごいなぁって思って、どうしたらこんなにキラキラ輝けるんだろうって気になっちゃって……」
「それでわたし達、本人に聞いてみようと思ったんです」
かのん達の話を聞いて、学園長は「なるほど。それは良い心がけだね」と微笑む。
そして、少し目を閉じたかと思うと「あのライブのことは、今でも鮮明に覚えているよ」と、語り始めた。
「ドームを埋め尽くすファンの方々。光るサイリウムが、歌や曲に合わせて揺れて、とても綺麗だった。私もソロ活動がメインで、ステージに立つのは殆ど一人だったから、ファンの方々は私の歌う曲に合わせて、サイリウムの色を変えてくれていたよ。青だと思っていた光が、一瞬でオレンジに変わったり……本当に凄いと思ったのを覚えている」
「わたし達もそのシーン、ライブ映像で見ました。青空が夕焼けに染まったみたいに見えて、すごく幻想的な光景でした」
「はい~。すごく素敵でした~」
「ふふ、そう言って貰えると嬉しいね」
あゆみ達の感想を聞きながら、かのんはそのシーンの事を思い返す。
ドーム一面の青色が、一瞬のうちにオレンジに染まる……あのシーン。
それはつまり、ファンの人達が作り上げてくれたステージのようだった。
「あの頃はまだまだ未熟なこともあった。もちろん、ライブ映像では見せないようにしていたりするけれどね? それでもあんな風に、ファンの方々が自主的に私に向けて想いを返してくれる。それがとても嬉しかったよ。ああ、私は今、ファンの方々と一緒にステージを作り上げているんだ、ってね」
「ファンの人と、一緒にステージを……」
「うん。未熟でも、常に全力でぶつかっていたよ。それがなによりの返事だと思っていたからね」
学園長の言葉は穏やかな音をしていたけれど、かのんの心をザワザワと揺れ動かす。
そんな、今にも体中に震えが来そうなほどの衝撃を感じたかのんの前で、学園長は静かに微笑み、口を開いた。
「感謝の言葉も大事だけれど、過去の私や、今の君たちのようなアイドルは、きっと全力でぶつかっていくことが大事なんだろう。そして、ファンの方々と同じ想いを共有出来たとき……初めて、素晴らしいステージが出来る。その時の高揚感が、今でも私を駆り立てているのかもしれないね」
そう言って、かのんへとしっかりと目を合わせ、学園長は頷いた。
学園長の言葉をしっかりと受け止めて、かのんは「ありがとうございます」とビシッと頭を下げる。
そんなかのんの動きに、そばで見ていたキセキは「ぷっ」と吹き出してしまうのだった。
「あはは! ごめんね、なんだかすごい姿勢が綺麗だったから、つい」
「え、そんなに綺麗でした? ……もしかして私、頭を下げる才能があるのかも?」
「そんな才能あってどうするのよ。営業にでもなるつもり?」
「カノン、営業?」
ツバキの軽口に反応したつばめへ、かのんは「違うよ!?」と、慌てて否定する。
そんな三人の掛け合いも面白かったのか、キセキはまた「あはは!」と、笑った。
「久しぶりにこんなに笑っちゃったかも。ごめんね、かのんちゃん」
「いえ、全然気にしてないですけど……最近、あんまり笑えてないんですか?」
「うん。嬉しいことだけど、仕事が一杯入ってるから、あんまり友達と話したりする時間も取れないし、なかなかね。でも、ツラくはないかな?」
「えっ、そうなんですか!?」
かのんは、キセキの言葉に、つい大きく声をあげて驚いてしまう。
それは、キセキの話してくれたことが、かのんにとっては結構つらいことだったから。
かのんはまだまだ遊びたい盛り……仕事ばっかりだと、楽しくても疲れてしまうのだ。
「そんなに驚かなくても……。そうね、目標もあるから。だから今は、それに向かって一生懸命になりたいの」
「目標……」
「先輩。もしよかったら、その目標を教えてもらえませんか? 私達にも参考になるかもしれないので」
「あっ、はい! ツバキと一緒で、私も気になります!」
真剣な目をして、キセキへとお願いをするツバキに、かのんもビシッと手を挙げて賛同した。
真剣な顔をした二人から、他の一年生三人へと目を向ければ、三人ともそれぞれに頷いてみせる。
そんな五人の反応に、キセキはまた「ふふっ」と笑いが込み上げてきてしまうのだった。
「私は昔からアイドルに憧れてて、絶対アイドルになるんだって思ってきたの。テレビの前で踊ったり歌ったり……そんな思い出ばっかりなんだ。そんなとき、本当の意味で憧れる人に出会ったの」
「キセキ先輩の憧れの人……!」
「憧れは夢を追うためのすごい力をくれる。その力を借りて、私はずっとあの人を追いかけているの。どれだけ離れているかは分からないけれど、少しでも近づけるように」
「だから今は、こうやって頑張ることが一番楽しいかな」と、キセキは最後に付け足して、にっこりと笑う。
その言葉に、かのんは"ああ、私も同じなんだ"と、心の奥に湧き上がってくる温かいものに笑顔が零れた。
誰よりも、一番納得したような顔を見せているかのんに、キセキはあえて何も言わず……心の中でだけ"がんばってね、かのんちゃん"と応援を送った。
「ありがとうございます。星空先輩。確かに、憧れるものがあれば、一心不乱に頑張ることも楽しく感じられる気がします」
「そう言う神城君は、最近どんどんモデルとして成長しているみたいだね。雑誌モデルや広告モデルなど、一年生とは思えないほどのオファーが来ているよ」
「本当に感謝しかないですわ。今はまだ未熟ですが、皆様の期待に応えたいと思っています」
「うんうん。神城君だけでなく、成瀬君も、皐月君も……これからの未来が楽しみだね。そしてなによりも、立花君と久世君には、ユニットとしてもソロとしても活動を広めていって欲しい。期待しているよ」
学園長からかけられた突然の言葉に、あゆみとひなは驚き、慌てつつもお礼を返す。
そんななか、かのんとつばめは「うーん……」と二人で顔を見合わせ唸っていた。
……そう、本来はCDのテーマを決めていたということを思い出したのである。
「CDのテーマ……憧れとか?」
「ダメ、広すぎる。それに"style keep"と合わない」
「だよねぇ……。たしか"style keep"は、いつも通りを歌った曲なんだよね?」
「それもある。でも、もっと先。成長と変化を歌った曲」
つばめの言葉が、かのんはよく分からず首を傾げる。
そんなかのんにツバキはため息を吐きながら、「いつも通りは変化していくってことよ。成長して変わっていく自分と環境が当たり前になる、だからそれに対してありがとうって」と、歌っている本人達よりもしっかりと歌の説明をして見せるが、やっぱりよく分かってなさそうなかのんに、またため息を吐くのだった。
「かのんちゃん。わたし達は今年から中学生になって、さらにアイドルになったよね?」
「うん。そうだけど……」
「でも、それって気付いたら当たり前のことになってたよね?」
「あっ! そういうことかー!」
あゆみの説明に、ようやく理解を得たのか、かのんは満面の笑みで「なるほどー!」と口にする。
かのんの笑顔につられて笑顔になってしまっていたキセキは、少しだけ頭を振って気持ちを切り替えると、「それじゃあ、私はこの辺りで」と学園長に頭を下げて部屋から出て行こうとする。
しかし、出る直前で何か思い付いたような顔をして……クルリとかのん達へと振り返ると、「今日の夜に、私の生放送ステージがあるの。配信されると思うから、是非見てね」と笑いかけるのだった。
☆☆☆
「キセキ先輩のステージってもうすぐだったよね?」
「うん。たしかそろそろ始まると思うよ」
学園長室から、場所をかのんとあゆみの部屋に移した五人は、"ふれっしゅびーと"のCDのテーマについて、話し合いを続けていた。
しかし、あーだこーだと話していても、なかなか良い案は思い付かず、気付けばキセキのステージが始まる時間になっていた。
「今考えても同じことばかりになりそうだし、一度クールダウンを兼ねてステージを見ましょうか」
「うん! キセキ先輩も、見てねって言ってたし!」
「かのんの場合は、見てって言われてなくても見るでしょ……」
テンションの高いかのんに苦笑しつつも、ツバキはモバスタを取り出し、キセキの出演する番組を映す。
そこには、いつもと同じように笑うキセキが映っており、ゲストとして場を盛り上げていた。
その盛り上がりも、ステージ直前となるとピークを迎え、拍手や歓声がすごいことになっていた。
(やっぱりすごい人気なんだなぁ……)
自分と二つしか変わらないのに、その立ち振る舞いも、表情も……そして、人気さえも、大きくかけ離れている。
そのことに、かのんは強く憧れを抱くと共に、追いつけるのかと不安を感じるのだった。
☆★☆“ミュージックonステージ”生放送ステージ -星空キセキ- ☆★☆
ネオンで煌びやかに彩られたステージの上に、キセキはゆったりとした足取りで現れる。
その瞬間、大きな歓声と拍手が送られ、キセキは「ありがとうございます」と柔らかな微笑みを浮かべながら手を振り返した。
「今日、このスタジオにくる前に、とある人達とお会いしました。夢を追う、可愛らしい後輩アイドル達です」
静かな声でキセキが語り出したのは、つい先ほどの学園長室での話。
かのん達へと伝えた言葉は、偽りのない言葉ではあったが、全部が本当というわけではなかった。
つらくない訳がない、寂しくないわけがないのだ。
けれど、かのんにとっての憧れはキセキであり、そのことはキセキ自身、しっかりと分かっていた。
分かっていたからこそ、今もまだ憧れ続けているアイドル……学園長が、かつてキセキへと見せてくれた輝きを、キセキは見せたいと思ったのだ。
(たぶん、少し天然が入ったかのんちゃんは、分からないかもしれないけれど。それでも……)
君の憧れた存在は、今もまだ輝いているよ、と。
頑張って近づいておいで、と……キセキは想いを込め、言葉を紡ぐ。
「夢への辿り着き方は人それぞれで、きっと彼女達もまた、それぞれの方法で夢へと手を伸ばすのでしょう。……私を憧れと言ってくれた人や、いつも応援してくださっているファンの方のため。そして、私自身の憧れた夢へ近づくために、全力で歌います。聴いてください。新曲、“星のカンテラ、夜の月”」
――
夜のとばりに
舞い散るかけら
そのひとつひとつが瞬いて
あなたへと夢をみせてくれる
月のあかりは はるか遠くて
その手に掴むこともできない
水面にうつる その輝きでは
こころを満たす 光になれないのなら
いま君の手の中にひとつ
勇気の代わりに魔法をあげる
星のあかりをなかに宿した
くらやみ照らす 星のカンテラ
歩きだす 最初の一歩
踏み出せる そのちからはきっと
あなたにもある だから大丈夫
月のあかりを 目印に
――
☆☆
モバスタから流れ出る旋律は、柔らかな音を奏でるピアノを中心に奏でられるバラード曲。
緩やかながらも、芯を感じさせるキセキの声が、心の中に確かな熱を送ってくれる。
「不思議な歌……まるでそっと背中を押されてるような、不思議な気持ちになるわね」
「うん。なんだかとても温かい曲。"Solo"とは全然違うね」
「はい~。ひな、おじいちゃんの牧場で見た星空を、なぜか思い出しちゃいました~」
ツバキ達の感想を聞きながら、かのんはキセキのステージをしっかりと目と耳に焼き付けていく。
"やっぱり、キセキ先輩はすごい!"なんて、いつもの感想を抱き……気付けば、心の中にあった不安も消えていた。
それはきっと、キセキが見せてくれたから。
夢を追う暗闇の中、何も見えない空に……目印になる月の光、行く手を照らす星の輝きを。
(いつかキセキ先輩に、ちゃんとお礼をしたい! ん? お礼?)
「あー! そっか、これだ!」
「か、かのん!? 急にどうしたの!?」
「かのんちゃん!?」
かのんがあげた突然の叫び声に、キセキの歌に心安らいでいた四人が、驚いて耳を塞ぐ。
そんな四人に「ご、ごめんなさい!」と、勢いよく頭を下げてから、「でも、思い付いたよ!」と、かのんは笑顔を見せた。
「思い付いたって何が?」
「CDのテーマ! 感謝ってどうかな!? 今まで、いろんなことをありがとうって」
「またすごい抽象的ね……」
「でもカノンらしくて良い」
かのんの思いつきに、ツバキはうーんと悩むものの、つばめは親指を立てて賛同する。
そんな二人の姿に、ツバキはまた大きくため息を吐きつつ、「ならその方向で考えるから、もう少し具体的な案を出していきましょう」と、キセキのステージが終わったところで、モバスタをしまうのだった。
☆★☆次回のスタプリ!☆★☆
CDのテーマを決めたかのん達は、ついにレコーディングへと駒を進める。
初めてのレコーディングもあり、戸惑うかのん達だったが、どうにか収録は終わり、ついにCDの発売日がやってくるのだった!
しかし、そんなかのん達に……新たなる企画が舞い込んでくる!?
第三十五話 ―― 大切なみんな ――
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