第三十三話 レジェンドの輝き

「"ということで、お二人にはCDのテーマを考えて頂きたいのです"って、言われたんだけど、ツバキ~どうすればいいのー!?」

「ツバキ、教えて」

「あのね、二人とも……。なんでも私に聞くのやめなさいよ」


 食堂で五人揃って夕食を食べていると、今日CD打ち合わせがあった二人が、そんなことを言い出し、ツバキは苦笑気味にそう答えた。

 ツバキの言葉に、「ぐう……っ」とぐうの音をもらしたかのんだったが、直後に「だって、テーマってよくわかんないもん……」と、拗ねたような顔を見せる。

 そんなかのんを見ながら、あゆみは苦笑し、ひなは「かのんさん達のCD、楽しみです~」と微笑むのだ。


「まあ、良いけど……テーマって言うのは、"どんなCDにしたいか"っていうことを、詳しく決めるって感じかしら」

「どんなCDにって言われたら、楽しくて笑顔になるようなCDにしたい!」

「踊りたくなるようなCD」

「うんうん! 聴いてたら踊りたくなる、キラキラした感じ!」


 楽しそうに話すかのん達に、ツバキは「抽象的過ぎる……」と頭を抱える。

 そんなツバキをフォローするように、あゆみが「今までのアイドルのこと、調べてみたら良いんじゃないかな?」と助け船を出した。


「今までのアイドル……?」

「かのんちゃんはアイドルのこと、全然知らないだろうし、つばめさんもダンスのことは詳しいけど、他のことはあんまり注視してきてないと思うの。だから、先輩アイドルのCDとかDVDとかを参考にしてみたら良いんじゃないかなって」

「ん、確かに。私、ダンス以外はあんまり詳しくはない」

「なるほど……うん! そうしてみようかな!」


 一筋の光明を得たと言わんばかりに頷くつばめと笑顔を咲かせたかのんが、揃って椅子から立ち上がろうとして……「で、それってどこで調べれるの?」と首を傾げる。

 そんな二人にツバキはため息を吐き、あゆみは苦笑すると、二人で口を揃えて「資料室」と答えるのだった。


☆☆☆


 さすがに夜の資料室はあゆみが嫌がったこともあり、翌日のお昼に五人は資料室へと来ていた。

 そこは、さすがアイドルの学校、綺羅星学園と言わんばかりの資料数であり、古いものでは百年近く前の芸能資料から、直近のアイドル資料までが、所狭しと整理されて収められていた。

 正直、この資料室を全て調べようと思うと、一年掛かっても無理かもしれない……そう思えるほどの量だ。


「ふわぁ~……。これ、全部がアイドル関係の資料? すっごいあるんだけど……」

「全部を見る必要はないわ。CDやDVD、BDなんかの音楽や映像に関しての資料だけを選んで調べましょう」

「うん、そうだね。あと、レコーディングに対してのインタビュー記事なんかもあると良いかも。かのんちゃん達は、レコーディングも初めてのはずだから、参考になると思うの」

「はい~。ひなも探すの手伝います~」


 元々読書が好きなつばめは、何も言わずすぐそばの本を手に取って黙々と読み始めたが、他の四人は、それぞれ散らばって本を探すことに。

 そうこうして、三十分も経たないうちに、資料室にある机の上には、うず高く本が積まれるのだった。

 ……しかし、これを読むのも、丸一日は掛かりそうである。


「関連資料だけでもこれだけあるのね……さすが綺羅星の資料室だわ」

「こんなに読むの……? えっと、本当に?」

「あはは……ちょっと驚きだけど、わたしも手伝うから、頑張って読んでみよう?」

「はい~。ひなも読みます~」


 相変わらず黙々と読み続けるつばめに苦笑しつつ、四人もそれぞれ本を手に中身を確認していく。

 「ここ、CDレコーディングのインタビュー載ってるよ!」と、毎回見せてくるかのんや、「レコーディング、楽しそうです~」と微笑むひなとは対照的に、ツバキやあゆみは、読んで参考になりそうなところをどんどんメモに書き出していく。

 その関係か、かのんやひなが一冊読む間に、ツバキとあゆみは次々に本を片付けていくのだった。

 もっとも、一番読む速度が早いのはつばめだったが。


「……大体集まったわね。目の休憩ついでに、少し話し合いましょうか」

「うん、そうだね。と言っても、ツバキさんとわたししかメモにはまとめてないんだけど……」

「まあ、正直予想はしてたわ。だって、かのんもひなも、あまり本を読みそうにないもの」

「うぐっ」


 まさに図星な言葉に、かのんは呻きつつ机へと突っ伏した。

 そんなかのんの隣へとやってきたつばめが、「本は面白い。知らない世界が見えるから」と、追い打ちをかける。

 つばめの発言にツバキも賛同し、「これからは、少し本を読む癖をつけたら良いんじゃない?」とかのんにトドメを刺すのだった。


「それで、つばめ。何か良いテーマは見つかった?」

「テーマ?」

「……もしかして、本を読むのが楽しくて何も考えてないとか、言わないわよね?」

「……輝きが道を照らす」


 ツバキの問いに間を開けてから放たれた言葉を、「それ、今読んだ本のタイトルでしょう!?」と、ツバキは本を見せつつバッサリと切り伏せる。

 そんなツバキから目を逸らし無言を貫くつばめに、あゆみは苦笑しつつ「まあまあ、ツバキさん」と間を取りなした。


「とりあえず、わたしが調べてて分かったのは、どのアイドルも"なにかの一貫した想い"をCDの作成やレコーディングでは決めてるみたい。例えば、愛とか勇気とか」

「そうね。それは私も分かったわ。あと、他にも"どういった時に聴いて欲しいか"とか、"どんな人に聴いて欲しいか"みたいなことを、インタビューではよく訊かれてたわね」

「んー……楽しいって想いを込めたいし、つらいときとか悲しいときとかに聴いても笑顔になって欲しいかなぁ……」

「うん。思わず踊りたくなる。そんな気持ちにしたい」


 二人揃って口に出すのは、最初から変わらない気持ちで、ツバキは「結局そうなるのね……」と呆れつつも笑みを見せる。

 そんななか、あゆみは「あの、もし良かったらなんだけど……」と、一枚のDVDを取り出した。

 机の上へと置かれたDVDは、持ってきた本と比べても随分と古いもののようで、かのんは「あゆみちゃん、これは?」と首を傾げる。


「本を探してるときに、確認も兼ねて読んでた本の何冊かに、レジェンドアイドルって上げられてた男性アイドルのものなの。ステージとかが参考になればと思って……」

「つまり、昔の凄いアイドルってこと!? わぁ、気になる!」

「ええ、そうね。かのん達だけじゃなく、私達のパフォーマンスに対しても参考になるはずだわ」

「ひなも見たみたいです~」


 無言ながらも頷いたつばめも含めて、みんなから賛同を得られたあゆみは、少し照れつつも「それじゃ、資料室の奥に、再生できるスペースがあるみたいだから」と席を立ち上がり、みんなを誘うのだった。


☆☆☆


 再生スペースでDVDを見るかのん達は、レジェンドのステージから目を離せなかった。

 ステージの上で歌い踊る姿は、カッコよくもあり、時にお茶目で、またあるときは楽しげな少年のようにも見えて、ソロライブとは思えないほどの楽しみがそこには詰められていた。

 そしてファンのボルテージも上がっていき、DVDの再生中盤辺りでかかったイントロで爆発するのだった。


☆★☆DVD"ミルキーウェイを飛び越えて"中盤ステージ☆★☆


 ドームの中を色とりどりのレーザーが飛び交い、ファンの振るサイリウムが色とりどりな光を見せる。

 そんなステージの中央で、男性はただ一人……全ての視線を奪い取っていた。


 ――


   今すぐ君に 会いに行くから


   変わり映えのない日々に

   押し寄せてくる難題に

   戸惑う君の姿を

   僕は何度だって見てきた


   明るく笑う笑顔に

   救われてきたハズの僕が

   君に手を差し伸べられない

   なんて男だ 酷い人だよ

   そんな僕に君は言うんだ

   「大丈夫、私は平気」だ、なんて


   今すぐ君の元へ行くから

   そんな哀しい顔はやめてよ

   僕の知らない、君の姿を

   守る為に、今生まれ変わろう


   今すぐ君に会いに行くから

   ミルキーウェイ 飛び越えて

   流れ星に飛び乗って

   織り姫の君に伝えたい


 ――


☆★☆☆★☆


「これが、レジェンドアイドル……凄まじいパフォーマンスだわ」

「悔しいけど、レベルが違う。でも、負けない」

「すっごくカッコいいのです~」


 口々に感嘆の声を上げるみんなを余所に、かのんは一人"すごい。こんなにすごい人もいたなんて……!"と、声も出せず感動していた。

 その感動は初めてキセキのステージを見た時と同じくらいの衝撃を持っていて、"いつか追いつきたい!"と思えるほどに、輝いていたのだ。

 五人がそんな感動に包まれているうちに、男性のソロライブは終わってしまうのだった。

 

「すごかったなぁ……。どうやったらあんなライブが出来るんだろう……」

「そうね。普段のレッスンの積み重ねもそうなんでしょうけど、自分の中でブレない意思があるんじゃないかしら?」

「意思?」

「ええ。絶対にこうなるんだ、とかね」


 ツバキの言葉にかのんは「うーん」と考え始める。

 "楽しいステージにしたい"とか、"笑顔にしたい"とか、そういったものは思いつくものの……どれも抽象的で、上手くまとまらない。

 "そもそも楽しいってなんなんだろう"とか考え初めて、かのんの頭はオーバーヒートしてしまうのだった。


「かのんちゃん、大丈夫?」

「うん……でも全然分かんなくなっちゃった……」

「考えて答えがでないなら、聞きに行っちゃうのも良いんじゃないかな?」

「聞きに行くって、誰に?」

「え? この人だけど……」


 そう言ってあゆみが持ち上げたDVDは……さっきまでかのん達が感動していたレジェンドアイドルのものだった。


☆★☆次回のスタプリ!☆★☆


 レジェンドアイドルのソロステージ映像を見たかのん達は、その輝きに衝撃を受ける。

 しかし、なぜ自分たちとあれほどに違うのか……?

 それを知るために、かのん達は学園のとある場所へと向かうことに。


 第三十四話 ―― 輝くことの意味 ―― 

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