第二十六話 結成!ほっぷすてっぷ探検隊!
波の音が聞こえる……。
ここはたくさんの夢が眠る
そしてこれは、その街に住む、二人の少女の物語。
「ねえー、スワロー。スカイスワローってばー」
ごちゃごちゃと物のある秘密基地のような部屋の中で、少女の声が響いた。
「……聞こえてる。なにか用、フラワーズ?」
「用はないけど、暇だよねーって」
「そうね。依頼成功率一桁の、駆け出し探検家に依頼してくる人なんて、よほど切羽詰まってるか、変な人くらいだから。私達が暇なのは当たり前」
本を読みながらばっさりと切り捨てる薄青髪の少女……スワローに、「それは、そうだけどさぁ……」とソファーに寝そべったまま口を尖らせるオレンジブラウン髪の少女、フラワーズ。
見た目も口調も、それこそ仕草ひとつ取ってみても、真逆に見える二人の少女達が、駆け出し探検隊“ほっぷすてっぷ探検隊”の二人だった。
なお、今までに受けた探検依頼の数は十二回ほどである。
「二人とも、入るわよ」
仕事もなくだらだらしていた二人の耳に、聞き慣れた女性の声が届く。
その瞬間、だらけきっていたフラワーズはもちろん、本を読んでいたスワローですらビシッと姿勢を正し、ドアから入ってきた女性に「こ、こんにちは!」と二人で頭を下げていた。
「二人ともこんにちは。今日も依頼はないの?」
「は、はい……」
「そう。まあ、駆け出しの頃は認知度も低いし、依頼がない日も多いから仕方ないけど」
「すみません、カメリア先輩。初めての探検の時からお世話になっていたのに、こんな不甲斐ない状況で……」
「スワロー、それ以上は言わないの。自信はありすぎてもダメだけど、なさ過ぎるのもダメなの。わかった?」
尊敬する先輩……赤髪の熱血探検家カメリアに窘められ、スワローは「……すみません」と少し落ち込んだように謝った。
その後、元気なフラワーズとの掛け合いを楽しんだカメリアは「じゃあ、またね」と笑顔で部屋から出て行く。
静かになった部屋の中で、二人は「先輩にお世話になったお礼をしたいなぁ」と、声を重ねるのだった。
それから数日後、いつも通りスワローが部屋の中で本を読んでいると、バァンと豪快な音を立てながら、「スワロー! スカイスワロー!」とフラワーズが部屋に叫び入ってきた。
“こういう場合は碌な事がない”と、辟易した様子で「……何?」とスワローが一応聞き返すと、フラワーズは「すっごい話を聞いたの! 願いが叶うお宝の話!」とキラキラした顔で言葉を紡ぐ。
しかし、予想出来ていたことだったのか、スワローは「そう、良かったわね」と読みかけの本に視線を戻した。
「えぇぇ、聞いてよー! 願いが叶うんだよ!? すごいお宝じゃんかー!」
「……そういった話はたくさんある。そして、そのほとんどが与太話。だから、聞くだけ無駄」
「でも、ほとんど、なんでしょ!? だったらそうじゃないかもしれないじゃん!」
「ぐっ……それはそうかもしれないけど」
「だったら探しに行こうよ! そして、見つけたら先輩にプレゼントしようよ。ね、スワロー」
笑顔でそう話すフラワーズに、スワローは大きく溜息を吐いてから「仕方ない。カメリア先輩のためなら、付き合ってあげる。……あくまでカメリア先輩のために」と本を閉じたのだった。
☆☆☆
「こ、ここが宝のある場所、なんだけど……」
「かつて伝説になった少女達が研鑽していた学園、アカデミーオブキラ。廃墟になってから、すでに数百年が経ってるらしい」
準備を整えた二人の前にそびえ立つのは、壁一面に蔦が這う、おどろおどろしい廃校舎。
しかし、なにか不思議な力でも働いているのか、校舎の中は綺麗なままで、それがより一層、二人にとっては不気味だった。
「とりあえず行ってみよう。何もなかったらそれで終わりだし!」
「いやいや、ちょっと待ってフラワーズ。行くって目的地はどうするの?」
「あー、うーん……こういうときは、まず高いところだよ!」
「え? あ、ちょっと、フラワーズ!?」
理解が追いつかず、スワローが一瞬固まってしまったその隙に、フラワーズは意気揚々と校舎の中に飛び込んでいく。
その背中に掛ける制止の声も聞かず、ズンズンと進んでいくフラワーズに、スワローは溜息を吐きつつ、ついていくのだった。
そうして二人が辿り着いたのは……最上階の中で、最も豪華な扉の前。
アカデミーオブキラの学園長室前だった。
「フラワーズ、いい? どんなことが起きるか分からないんだから、慎重に」
「たのもー!」
「フラワーズ!?」
慎重に事を進めようとするスワローの気持ちなんてまったく関係無く、フラワーズは勢いのまま扉をバァンと開け放った。
その勢いの良さに、スワローはガクリとうな垂れて、「またこのパターン……」と力なく零す。
しかしそんなスワローの想いも知らず、フラワーズは「豪華な机だ! なにもない? 本当にない?」と部屋の中を縦横無尽に走り回っていた。
「フラワーズ! 変な物に触らな――」
「あっ」
「いでって言ってる間に……」
「え、えへへ……。押しちゃった」
呆れて大きく溜息を吐くスワローと、そんな彼女に“やっちゃった”と言わんばかりの作り笑いを見せるフラワーズ。
“そんなフラワーズに、今度こそしっかり言い聞かせよう!”と、スワローが顔をあげた直後、ブォンと音がして、部屋の壁に何かが映し出された。
「これ……君……夢を掴み……ろう。……ゼントだ。伝説……、……の力に触れれば、きっと……手に……。…………飛びつか……鳥たちの憩い……ッ!」
ぶつ切りでノイズも酷いその言葉は、正直何を言っているのかすら分からなかったけれど、“何かがある!”という確信を二人の心に刻み込む。
そしてそれはつまり……半信半疑のままだったスワローの心にも、火を灯すのだった。
「スワロー!」
「ええ、分かってる。見つけよう、二人で」
「うん! 行こう!」
「ダメ、フラワーズ。どこに行くのか今度はしっかりと決める。これは冒険じゃない、探検なのだから」
部屋を飛び出して行こうとするフラワーズの手を掴み、スワローはしっかりと彼女を引き留める。
そして、こういう時のために準備しておいた手帳とペンを取り出し、思考を纏めるのだった。
「さっきの声、なんて言ってたかフラワーズは覚えてる?」
「え? えーっと……夢を掴み~とか、力に触れれば~とか」
「その通り。聞き取れたのはその部分と、伝説って言葉。あと最後に鳥たちの憩いって聞こえた」
「あ、うん! 飛び~ってその前に聞こえたかな」
フラワーズの言葉を、「なるほど」とスワローは手帳に書き留めていく。
そして少し思案した後、「最後は場所を示してる?」と何かに気付いたように呟いた。
「スワロー、何か気付いた?」
「ええ。でも情報が少なくて、確定までは……。きっとこの、飛び~鳥たちの憩いって言うのが、宝へのヒントになってる」
「そ、そうなの!? えー、うーん……鳥たちの憩い~?」
「フラワーズ、何か思い付かない?」
「うう~……鳥、鳥……。ダメだー、いつも広場で餌をあげてる鳥達のことしか思い出せないよー!」
ムムムと考えていたフラワーズが、まるで頭から煙を出すかのように感情を爆発させて、プシューっとその場にへたり込んだ。
そんなフラワーズに呆れ交じりな笑みを返していたスワローが、「ん?」とまたしても何かに気付く。
「広場……広場が正解かもしれない。ねえ、フラワーズ。この学園の地図とか、あったりしない?」
「地図? 分かんないけど、探してみよう!」
「ええ」
そうして学園長室の中を手分けして探し始めた二人を、部屋の外で聞き耳立ててチェックする黒髪少女がいた。
その少女は、二人の会話を聞いてニヤリとほくそ笑むと、「ヒントは頂いたわ、お間抜けさん達」と小さく呟いて、静かにその場を去っていくのだった。
☆☆☆
「ついた。ここが噴水広場……のはずなんだけど」
「噴水? どこにあるの?」
「……廃墟になって数百年も経ってるから。でも、地図の絵と同じ形の物があるし、ここで間違いないはず」
「じゃあ、ここに何かあるかもってことだよね!」
学園長室で見つけた地図を頼りに、ヒントの指し示す場所と思わしき場所へと到着した二人。
しかし二人の前には、蔦や枯葉や枝などが散乱し荒れ果てた広場が広がっているだけだった。
だがフラワーズは、再度地図を確認したスワローの言葉に勢いよく頷いて、広場の中を縦横無尽に探索し始める。
そんなフラワーズに、“元気だけは一人前なんだから”と笑い、スワロー自身も探索を開始するのだった。
「枯れ葉がすごい! 集めたらベットになりそう……」
「なに、疲れた?」
「ちょ、ちょっとだけ。えへへ……」
「フラワーズは騒ぎすぎ。余計な体力使ってるんじゃない?」
「よ、余計って! ちゃんと探してるよー!」
言いながら積もり積もった枯れ葉をしゅばばばばっと手で払ってみせるフラワーズに、「それは探してるんじゃなくて、暴れてるっていうの」と、スワローは嗜める。
そんなスワローの言葉にムッとした顔をみせるフラワーズが、「もうっ!」と勢いのまま積み重なった枯れ葉を吹っ飛ばした。
「こら、フラワーズ! 言ってるそばから!」
「だ、だってー! って、あれ? ねえスワロー、これって」
「……見つかったわね」
フラワーズが吹き飛ばした枯れ葉の下から古びた紙が一枚ヒラリ。
それこそ二人が探していたものであり……今回もご丁寧に、謎が仕掛けられていた。
「えーっと……今度は“輝きの集う場所”?」
「輝きが何を指すのかはわからないけれど、集う場所という言葉から、何かの物を表してそう」
「集う……うーん集うかー。みんなが集まる場所なんて酒場とか料理店くらいしか思い付かないよー!」
「フラワーズは……。でも、酒場か料理店なら近いところがあるし、そこに行ってみよう」
「え、どこどこ!?」
スワローの提案に驚いたような声をあげるフラワーズ。
そんなフラワーズに笑いつつ、スワローは「食堂よ」と、校舎とは別の方向を示すのだった。
★★★
フラワーズ達が広場でヒントを見つけ出した頃……学園長室で二人の会話を盗み聞きしていた少女は、別の場所へとやってきていた。
そこは広々としたステージのある講堂の中だった。
「ふふふ。今頃あの二人は、わたしの用意した偽の情報に惑わされ、全然違う場所に行っているはず。その隙に正しい答えへと辿り着き、お宝をゲットするのはこのわたし、探検家ランスロー家の長女、スキップよ!」
そう、先ほどフラワーズ達が入手したヒントは、この黒髪少女……もとい、ランスロー家のスキップがすり替えた偽のヒントだったのだ!
つまり、本来のヒントはスキップの手の中にあり、その答えがこの場所だとスキップは考えたのだった。
「ヒントは“孤独な戦いの場”という一文だけ。内容はよく分からないけれど、戦いが出来るほどの広さは、この場所くらいしかないし……あるとすればここなのよね」
一応、広い場所であれば体育館もあるが、スキップは“逆に広すぎて、孤独とは違う”と、候補から外していた。
そしてそれは幸を成す。
舞台袖にある、幕を動かす機械の横へ、表から隠すようにヒントが張り付けられていたからだ。
「さすがわたし。スキップ様にかかればこの程度、造作もないわね!」
そう声高に笑い、スキップはヒントを読み上げる。
そして、すぐに場所が分かったのか、跳ねるような速度で講堂を後にしたのだった。
☆☆☆
スキップがヒントを見つける少し前のこと。
フラワーズ達はヒントを見つけることができず……へばっていた。
「だめだー、見つかんないよー!」
「おかしいわね。もしかしてここじゃないのかも」
「えー!?」
「でもそうなると、ちょっと場所が分からないわ」
「んー……じゃあ、少し休憩しよ!」
言うが早いか、フラワーズは悩むスワローの手を取って食堂を飛び出す。
そして、同じ建物にある……唯一鍵の空いていた部屋へと飛び込んだのだった。
「ふ、フラワーズ!」
「へへーん! 疲れた時はゆっくり休まないと! ここならベッドもあるし、休憩にぴったりだよね!」
「そ、そうだけど……」
「さっき食堂に向かう最中に空いてるの見てたんだ。えへへ、少しだけおやすみなさーい!」
「ちょ、ちょっと!」
スワローの言葉も無視して、フラワーズは一瞬で夢の国へと旅立っていく。
呑気に眠るフラワーズに一瞬怒りが込み上げてきたが……スワローは「はぁ」とため息をついて、反対側のベッドへと転がるのだった。
☆★☆
「ほえ~……。みなさんすごいのです~」
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう!?」
「かのんさんは、普段と同じでとてもイキイキしてます~。可愛いです~」
「ふふん!」
かのん達と一緒にドラマを見ていたひなが、CMに入ったタイミングで息を吐きながら感想を零した。
その感想は、ひならしい少しズレた感想で……聞きながらツバキは“褒められてないわよ”と、溜息を吐くのだった。
「でも、つばめはすごいわね。ドラマの中なら、ちゃんと表情も変えられるんじゃない」
「がんばった」
「いつもあれくらい変われば分かりやすいのに」
「あれはツバキを参考にした。口調とかも」
そう言ってから「おかげでやりやすかった。ありがとう」と頭を下げるつばめに、ツバキは「……え?」と反応に困ってしまう。
何かを求めるようにあゆみの方へと顔を向けたツバキに、あゆみは「あはは……」と苦笑だけを返し、それ以上は何も言わない。
それはつまり……あゆみには“つばめがツバキを参考に、演技していた”ということが分かっていたということだった。
「ちょ、ちょっと、私ってあんな感じなの!?」
「あ、そろそろ始まるみたい」
「え、ちょっと!」
「ほら、ツバキも静かにして。始まるよー!」
かのんの言葉のすぐ後に、ドラマは再開され……ツバキは腑に落ちないような表情を見せつつも、静かに画面へと集中するのだった。
☆☆☆
「……はっ! 寝て、た?」
ベッドに横たわっていたスワローが、ビクッと震えたかと思うと、そう呟きながら起き上がってくる。
そしてすぐに外を確認し……十分ほどで起きれたことに胸をなで下ろしたのだった。
「ん、んん~……」
「フラワーズ、起きて。のんびりしてると夜になっちゃう」
「ん、ふあぁ……おはよ~……」
「早くないわよ。ほら、日がある内に探しに行きましょう」
「ふぁーい……」
あふあふとあくびをしながらフラワーズはベッドから降り、部屋を出ようとするスワローの後ろを付いていこうとして……何かに躓いてズルッと頭から床に倒れ込む。
ゴンッという低い音と、「ふぎゃ!」というなんとも醜い声が重なり合った不思議な音が響き、スワローは額を押さえつつ大きく溜息を吐いた。
しかし、転んでもタダでは起きない少女が……フラワーズだった。
「いたた……あれ? ベッドの下に何かある?」
「え?」
「壁側の足に何か張り付いてるみたいだけど、よく見えない……」
「持ち上げてみましょう。ほら、フラワーズも手伝って」
「あ、はーい!」
フラワーズの言葉にすぐ反応したスワローは、ベッドの縁に手を掛けつつ、床に転がったままのフラワーズに指示を出す。
元気よく返事をしたフラワーズもまた、スチャッとベッドの縁に手を掛け……二人でタイミングを合わせてベッドを持ち上げた。
そうしてよく見えるようになった奥の足には……なにかカードのようなモノが貼り付けられていた。
「フラワーズ、ちょっと支えてて! 取ってくる!」
「えっ!? が、がんばる!」
「力抜いたら私が潰れるからね!」
「それは~困るうぅぅー!」
フラワーズが返事をするよりも先にスワローは手を離し、ベッドの奥へと滑り込む。
そしてカードを取ってスワローがベッドの下から抜けたと同時に、ドンッとベッドを床に置くのだった。
……良いベッドというのは、えてして重たいモノである。
「ふ、ふへー……」
「ありがとう。助かったわ」
「わ、私に出来るのは体力仕事くらいだから、気にしないで……でも少し休ませて……」
「ええ、考えてる間は休んでくれて良いわ。頭脳労働が私の仕事だからね」
スワローが胸を叩いて笑ったのを見て、フラワーズは「よろしく~」と床に座り込んだ。
そんなフラワーズに微笑みつつ、スワローは手に持ったカードを確認するのだった。
「“遙かなる空を望む場”か。空を望むってことは屋内じゃなさそうね。そうなると最初の答えだった噴水広場以外の場所だろうし……校庭か中庭か、庭園?」
そこまで考えて、スワローはそれとは別の違和感に気付いた。
それは、“なぜこの部屋にヒントがあったのか”ということ。
スワローがその違和感から、一つの可能性を考えた時……休んでいたフラワーズが「何か聞こえる……」と呟いた。
「フラワーズ、イチかバチかになるけど……それでも良い?」
「え、うん。スワローが考えてくれたんなら、私はそれを信じるよ」
「なら答えは……」
スワローはなぜかフラワーズの耳元で小さく囁くと、意を決した顔を見せてから扉へと進み……「行くわよ!」と開け放った。
その行動にフラワーズは首を傾げつつも、「おー」と返事して部屋を飛び出す。
しかし直後、二人の背後から「全く、運の良いこと」と声が響くのだった。
「……やっぱり居たわね」
「す、スワロー。やっぱりって」
「さっきのヒント、全然違う場所で見つけたでしょ? つまり……」
「そ。あなた達が噴水広場で見つけたヒントは、わたしが作った全くの偽物ってわけ。まさかその先の答えの先に辿り着くなんて、予想外だったけど」
スワローの言葉を引き継いで、廊下の先から歩いてきたスキップがネタをバラした。
その言葉にフラワーズは驚き、一歩後ろに下がる。
だが、すぐさまスワローがフラワーズの前に立ち塞がり、「残念だったわね」と不敵に笑ってみせた。
「す、スワロー?」
「……フラワーズ、場所は分かるわね?」
「え、うん。大丈夫だと思うけど……」
「ならそっちは任せるわね。私はここで足止めするから」
そう言って、スワローは腰の鞄からロープを取り出してビシッと構えた。
その姿にスキップは「へぇ……」と楽しそうに笑うと、「手加減できないから、素直に渡して欲しいんだけど?」とダガーを抜き、構えを取る。
しかしスワローは一歩引くどころか、さらに一歩前へと足を滑らせ、「フラワーズ」と名前を呼ぶ。
そして――「信じてるから!」と、スキップへと飛び掛かるのだった。
☆☆☆
スワローの信頼を背に、フラワーズは走り……なんとか庭園へと辿り着いた。
しかし、休んでいる暇はない。
全力疾走して笑いそうになる膝を叩いて、フラワーズは周囲の散策を始めるのだった。
「ここも違う。ここでもない。……こっちも違う」
“そうなると後は……”と、庭園の中央へと視線を向け、急ぎ歩みを進める。
そこには、まるで不思議なオーラで包まれているかのような、小さくとも幻想的な建物が建っていた。
「休憩所、なのかな? あと調べてないのはここくらいなんだけど……」
そう呟きつつ建物の中へと足を踏み入れた瞬間、柱や椅子が光り始め、建物の中心に一人の女性が現れた。
実態のないその姿に、フラワーズは“最初に見た映像みたいなものなのかな?”と一人で納得し、光のおさまった椅子へと腰掛ける。
すると、座るのを待っていたかのように、女性はフラワーズの方へと向き直り、にっこりと笑いかけてくるのだった。
「……雛鳥よ、あなたはなぜ、夢を掴もうとするのですか?」
「え? 雛鳥? それって私のこと?」
急に話しかけられ、フラワーズは挙動不審な動きを見せながら、そう聞き返す。
しかし映像の女性は「……雛鳥よ、あなたはなぜ、夢を掴もうとするのですか?」と、全く同じ言葉を掛けてくるのだった。
「夢、夢かー……。最初はお世話になった先輩のために、お宝ゲットしてお礼をしたいって思ってたんだけど、今は少し違うかも」
「……」
「えっとね、今はなんていうのかな。スワロー……あ、相方のことね。スワローが信じてくれたから。私はその信頼に応えないとって思ってる。二人の力を合わせてお宝ゲットしたいから、スワローが信じてくれてるなら、私はその信頼に応えてお宝ゲットしなきゃって。だから今は、先輩と相方のため、かな?」
「あなたの想い、受け取りました。良いでしょう、夢を追うあなたに、こちらをお渡し致します」
映像の女性がそう言うと、フラワーズの前に、一枚の板が現れる。
フラワーズがそれを受け取ると、女性はふっと微笑み……「憧れは何物にも代えがたい、強い力をくれます。夢を諦めないで」と残し、薄く消えていった。
その不思議な光景に少しボーッとしていたフラワーズは、走ってくるような音に気づき、急いで板を鞄へと仕舞い、建物の外へと飛び出すのだった。
☆☆☆
「へえ、やるじゃない! まさかロープ一本で、わたしがここまで足止めされるなんて……ねっ!」
「――ッ! 足止めだけを考えてるからよ。私達は二人で一つ。勝つ必要はないもの」
「ふふっ、そういう考え方は嫌いじゃないわ。でも、」
言いながらスキップはダガーを素早く突き出し、スワローの頬を掠める。
薄く赤い線がスワローの頬へと生まれ、そこから小さな赤い血が垂れた。
“早い……!”と、スワローは驚愕を覚えながらも、すぐさま後ろへと退がり、距離を取ってみせる。
「そういう甘い考えは、早いうちに直しておいた方がいいと思うね。じゃないと早死にしちゃうよ?」
「……私は退かない。少なくとも、フラワーズがお宝を手に入れるまでは、あなたをここで足止めしてみせる」
「なるほど。意志は固い、か。なら、ちょっと痛い思いしてもらうしかないね!」
またしても突き出されたダガーを、スワローはロープでダガーを絡め取り、動きを封じる。
しかし、スキップはすぐさまダガーから手を離し、足を払うようにしゃがみこんで蹴りを放った。
だが、スワローはそれを予想していたのか、身体をひねりスルリと避けてみせる。
これにはスキップも少し驚いたのか、チッと舌打ちしたのがスワローの耳へと届いた。
「……はぁ、もうさすがに時間切れかな。あの子が飛び出してから、二十分は経ってるし」
「それはつまり、諦めてくれるってことかしら?」
「仕方ないね。今日のところはビギナーズラックってことで譲ってあげる。でも、次は無いからね?」
「ええ、その時はまた相手してあげるわ」
お互いに笑顔を見せながら、スッと距離を取ると、スキップはダガーをしまい、背を向けて歩き去る。
そんなスキップの姿が見えなくなった瞬間、スワローの身体には一気に疲れが押し寄せてきた。
「少し休憩したいけど……そうも言ってられないわよね」
緊張から解放され、折れてしまいそうな膝を奮い立たせ、スワローはゆっくりと歩き始める。
そしてその速度は次第に速くなり……終いには駆けるように廃墟の中を走り抜けた。
数分ほどで庭園にたどり着いたスワローを待っていたのは、笑顔でピースする、フラワーズだった。
☆☆☆
あの探検から数日が経ったある日のこと。
フラワーズは、先輩であるカメリアを連れて、自室へと帰ってきた。
部屋の中は綺麗にせいりされており、以前のごちゃごちゃ感がなくなっていたことに、カメリアは少し驚く。
しかし、そんなカメリアの気持ちには気付くことなく、フラワーズは「先輩、これを見てください!」と、あの板を取り出すのだった。
「これを見てって言われても……この板がどうかしたの?」
「実はこれ、お宝なんです!」
「先輩も聞いたことないですか? アカデミーオブキラのお宝の噂」
テンション高く話すフラワーズの言葉を補足するように、スワローが静かにそう言った。
その言葉に、カメリアは「もちろん聞いたことはあるけど……」と苦笑しつつ、「でも、そういうのって大体誇張されてて、実際のお宝は全然違うものってことが多いでしょ?」と、ベテランらしい反応を見せる。
そんなカメリアにスワローは頷き、「ええ、その通りです」と口にした。
「だったら別に……」
「いえ、違うんです! や、噂が本当だったってことじゃないんですけど……でも、違うんです!」
「違うって何が?」
「それはこれを見てからのお楽しみ! だよね、スワロー?」
「ええ、そうね」
なにが違うのか……その説明をせず盛り上がる二人に、カメリアは困惑したような顔のまま首を傾げる。
そんなカメリアをよそにフラワーズは板を木箱の上に置くと、その板の表面をなぞった。
すると、板が光始め……空中に女性の姿を投影しはじめるのだった。
「こ、これって」
「そう! この板は、映像投影ができる板なの! 仕組みとかはよくわかんないんだけど」
「それって、すごいお宝じゃない!」
「でも、もっとすごいの! 先輩、映像見てて!」
言われるままに映像へと集中しはじめたカメリアの耳に、なにかの音楽が聞こえ始めた。
かなりの年月が経っているからか、所々ノイズ混じりな音になっているものの、始めて聞く音楽に、カメリアは不思議と引き込まる。
そして、映し出された女性が音に合わせ歌い始めた時……カメリアの心臓は、大きく高鳴り始めるのだった。
「……すごい」
「でしょ! 音楽とか歌とかもすごいけど、それに合わせて踊っちゃうのもすごいよね!」
「踊りからも、気持ちが伝わってくる。だから、私も踊る」
「あっ、スワローずるい! 私も私もー!」
投影されるステージに感動するカメリアの横で、フラワーズとスワローがへんてこな動きをし始めた。
映像が終われば、また再生して……途中からはカメリアも踊りはじめ、部屋のなかに楽しい笑い声が響く。
そのことがとても楽しくて、フラワーズは“求めていたお宝とは違ったけど、でももっと良いお宝に出会えたのかも”と、不思議と溢れてきた涙をそっと拭き、二人へ笑顔を見せるのだった。
ここはたくさんの夢が眠る
そしてこれは、その街に住む、二人の少女の物語。
☆★☆
「ふえ~……。良いお話だったのです~」
ドラマが終わり、エンディングが流れ出したところで、ひなが涙声でそう口にした。
そんなひなの感想に、ドラマに参加していた四人はホッと胸を撫で下ろすと、「良かったー」とお互いに笑いあうのだった。
「お仕事の都合で、ひなちゃんだけ参加できてなかったのが、すこし悔しいけど……楽しんでくれたなら良かったよー」
「うんうん。次はみんなで参加できるといいね」
「え、次……!?」
「こら、つばめ。そんな“今回だけでも大変だったのに、次なんて”みたいな顔しないの。それともつばめは楽しくなかった?」
いじわるなツバキの質問に、つばめは少しムッとしながら「楽しかったに決まってる」と、返す。
そんな言葉と表情が合ってないつばめに笑いつつ、ツバキは「私も楽しかったわ」と、頷いた。
「でも、こうやってドラマになってるのを見ると、やっぱりあゆみちゃんがすごいなぁ……」
「えぇ!?」
「そうね。自分と全然違う役をしっかりと見せきってる。でも、退くシーンは優しさも感じられて、あゆみらしさも感じられたわ」
「戦ってて、すごく楽だった。失敗しても、すぐそれに合わせてくれるから、失敗してないみたいに見えてた」
「さすがあゆみさんです~」
いきなり全員から褒められ、あゆみの顔はすごく真っ赤になってしまう。
「そ、そんなことないよ」とか「みんなも上手だったよー」とか……顔を手で隠しながら言うあゆみは、本人の意図しないところで可愛らしさを振り撒いたのだった。
☆★☆次回のスタプリ☆★☆
十月も半ばとなったある日、ハルの番組にキセキがゲストとして呼ばれることになった。
しかもそれは生放送らしく……キセキに憧れるかのんは、みんなを誘ってモバスタで放送を見ることに。
しかしその放送で、キセキからとあるイベントの告知が行われるのだった!
第二十七話 ―― 敵か味方かライバルか ――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます