第二十二話 開幕!フレッシュアイドルカップ!
「てりゃりゃりゃりゃりゃりゃー!」
「あー、あー! あーああー!」
「わんつーわんつーわんわんつー!」
「かのん、うるさい。大会も近くなって気合い入るのはわかるけど、もっと集中して」
まさに猪の如く、勢いよくレッスンに励むかのんに、ツバキがピシャリと注意を飛ばす。
しかしかのん自身は「ほえ?」と呆け顔を晒しただけで、よもや自分の口から声が出ていたことすら、分かっていないようだった。
だが、かのんに気合いが入るのも仕方がないこと。
なぜなら、かのんも参加するフレッシュアイドルカップが、今週末まで迫ってきていたのだから。
「そういえば、みんなはドレスや曲って決めた?」
「ええ、もちろん。“End game...”と“ブルーフラムコーデ”で出るわ。でも、このタイミングで決まってなかったら大変よ?」
「わたしも決めたよ。やっぱり慣れてるし、“悠久ロマンチカ”と“リトルフラワーコーデ”かな。ひなちゃんは?」
「ひなは~、“箱庭の夢”と“リトルサンライトコーデ”です~。登録が遅かったので、新しく準備する時間がなかったのです~」
参加が一年生だけとはいえ、学園で行われる大きな大会だからか、みんなステージで使用したことのある曲とドレスを選択していた。
しかしそんななか、つばめが「曲は決めてる。ドレスはまだ」と話の流れを変えるのだった。
「あれ? そうなの?」
「うん。曲はいつも通り“Break[c]lock Time”。でも、ドレスは悩んでる」
「そういえば、つばめちゃんって……どのブランドをよく使ってるの? 編入してから、ずっとスクールコーデだったよね?」
「言われてみれば、確かに見てないわね。東京でイベントステージしてる時には、どこか使ってたんでしょう?」
ツバキの言葉に、つばめは軽く頷いてモバスタを操作すると、「“
そこには、機械仕掛けのような装飾が施されたスタイリッシュなドレスが表示されており、かのん達四人のドレスとはまた一味違う雰囲気を放っていた。
「えっと、くろの……すてっぷ?」
「そう。“Chrono'stEp”は元ダンサーの“ステップ時空”という人が、デザイナーになって立ち上げたブランド。茶色やワインレッド、セピアカラーなどの暗めの色に、機械仕掛けのアンティークモチーフを合わせたドレスが特徴で、新しい古さを感じさせてくれる。それに、元ダンサーである“ステップ時空”さんがデザインしていることもあって、踊りやすいのも特徴。動きに合わせて、歯車がスポットライトに光るのがとても面白い。なにより、私の好きなダンスポップ“Break[c]lock Time”に、イメージもピッタリなのが、控えめに言っても最高」
「う、うん!」
「はあ。とりあえず、つばめがそのブランドを好きなことはよく分かったわ。ならそのブランドのドレスを着て出ればいいじゃない」
普段は比較的落ち着いているつばめが、早口で勢いよくまくし立てる言葉の数々に、かのんは押され押されて、とりあえず頷くことしかできなかった。
しかし、ツバキはかのんと違い、つばめの話を理解した上で“悩む必要ないじゃない”と呆れていた。
そう思って言った言葉に、あゆみ達も「わたしもそう思う」「ひなもです~」と少し遅れて頷くのだった。
「着てもいい? 本当に?」
「なによ。まさか、自信がないの?」
「そうじゃない。……着ると私のステージが完成する。ツバキにはそれがどういうことか、分かってるはず」
ツバキを見つめるつばめの発言に、視線を交わすツバキの目がキッと鋭いモノに変わる。
まるで火花でも散っているかのように交わされる視線に、かのん達三人はゴクリと唾を飲んだ。
「むしろ好都合ね。勝つなら本気の相手じゃないと意味がないもの」
「同感。私も本気のツバキを見たい」
「私はいつだって本気よ? そうじゃないと、応援してくれてる人に失礼だもの」
バチバチと闘志を燃やし合う二人に、かのん達三人は“どうすればー!?”とオロオロするばかり。
しかし、そんな三人の戸惑いも無視して、二人は「ふふふ」と笑い始め、笑いの三段活用のように次第に声を大きく変化させた。
そうしてひとしきり笑ったところで、二人は無言で握手を交わし、「レッスンを再開するわよ!」とかのん達へと振り返るのだった。
☆☆☆
そして、日は昇り、そして沈み……また昇って沈みを繰り返し、ついにフレッシュアイドルカップの前日夜が訪れた。
早めに眠りに入ったあゆみと違い、なぜか眠れなかったかのんは、気づけば寮を出て、寝間着姿のまま庭園へと足を運んでいた。
「こんばんは。かのんちゃん」
「っ、こんばんはです。キセキ先輩」
かのんが庭園の中央にある、洋風な東屋の傍へと近づいた時、中からキセキの声がかかる。
その声に驚いたかのんは、ビクッと身体を揺らしたものの、なんとか普通に返事することが出来た。
ちなみに、時刻は夜の十時を回っており、声をかけたキセキ自身も、まさか人と会うとは思っておらず、実はパジャマ姿であることを密かに恥ずかしく思っていた。
「かのんちゃんは、そんな姿でどうしたの? もっとも、私も人のことを言えるような身なりはしてないんだけどね?」
「あっ! あはは……えーっと、ちょっと眠れなくて……」
「明日がフレッシュアイドルカップの本番だもんね。緊張しちゃうのは分かるよ」
そう言って微笑むキセキに、かのんは前回キセキと
“楽しいって想いを感じられるアイドル”に、少しでも近づいているんだろうか?
(私はみんなのように輝けるのかな?)
あゆみ達四人と共にレッスンをすればするほどに、かのんの中でその想いは大きく膨らんでくる。
ツバキが話した“かのんの輝き”も、かのん自身にはやっぱりよく分からない。
だからきっと、今かのんが感じているのは……緊張ではなく、不安なのだ。
自らの夢に、辿りつけるかどうか分からない不安なのだ。
「でも、ステージの上って楽しいよね? ドキドキしてワクワクして、始まるまでは少し怖いのに、終わるとまたやりたくなっちゃう」
「キセキ先輩も不安とか緊張とかあるんですか?」
「あるよ。すっごくある。でも、それと同時に“絶対大丈夫!”っていう自信もある。だって、そのために毎日レッスンしてきてるんだもの」
言いながらかのんの前へと躍り出たキセキは、星の瞬く夜空を見上げながら「かのんちゃんは違うの?」と虚空に投げかける。
その言葉に少し躊躇った自分に渇を入れて、かのんはずいっとキセキの隣へ身を躍らせる。
そして、「違いません! 私だって!」と夜空の星に叫んだ。
「なら、大丈夫。きっと良いステージになるよ」
「はい!」
見上げる夜空に、スッと流れる星。
その軌跡も輝きも、すぐに消えてしまうけれど、なくなってしまうわけじゃない。
(私の日々は、私のレッスンに費やした時間は……きっと、私の力になるから)
☆☆☆
「公正な抽選の結果ァ、今日のステージ順はこうなったぜェ! 恨みっこなしだぜェ!」
フレッシュアイドルカップ当日の朝、講堂で発表されたステージ順は……まさかのツバキスタートだった。
そして、さらに運命の悪戯か……ラスト直前がかのん、そしてトリはつばめのステージに決定!
まさに、最後まで気の抜けない戦いになること間違いなしのセットリストだった。
「勝敗は最後までお預けってことね」
「うん。本気で来て、ツバキ。じゃないと、私がステージを見せる前に勝敗が決まっちゃうから」
「ご心配なく。あなたにも負ける気は無いわ、つばめ」
互いに見つめあい、バチバチと闘志の火花を散らす二人を、周りの生徒達は遠巻きに見ていた。
参加した生徒達はみな、実力ではこの二人が飛び抜けていることは理解しており、その上で、自分の実力を測ることができたらと参加していたりする。
もちろん中には、二人よりも上に行ってやると意気込んでいる生徒も、少数いたりはするが……。
「ツバキ達、熱いねー」
「二人供、優勝候補って言われてるみたいだし、レッスン中からお互い意識はしてたみたいだもんね。そういえば、ひなちゃんもだよね?」
「はい~。でも、ひなは楽しければそれでいいのです~」
「ひなちゃんらしい」とあゆみは笑い、それにつられてひなも微笑んだ。
そんな二人にほっこりしつつ、「しょうがないなー」とかのんは睨み合うもう一方の二人へと近付き……スルッと間に入り込む。
結果、急に間に現れたかのんに、ツバキは驚いた声を上げ、つばめは息を呑んだのだった。
「きゅ、急に出てきたら驚くじゃない!」
「……カノン、心臓に悪い」
「あはは、ごめんね。でも二人だって、ずーっとお互いのことしか見てないんだもん。もう、折角のイベントなんだから、笑顔で楽しまないと!」
「そうは言っても、」
「大丈夫、楽しんでる。もちろんツバキも」
言葉を遮るように断言したつばめに、ツバキは「ぐぬぬ……」とうめき声を上げつつも頷いた。
ちゃんと頷いてくれたツバキに、かのんは“良かったー”とホッと胸をなで下ろす。
しかし直後、ツバキはキッと表情を真剣なものに変え、「しっかりと私の本気を見ておきなさい!」とかのん達に背を向けて歩いて行くのだった。
☆★☆フレッシュアイドルカップステージ -神城ツバキ- ☆★☆
フレッシュアイドルを冠するに相応しい、可愛らしく華やかな円形ステージの上に青色の炎が灯り……ツバキは姿を現した。
このステージがイベントの始まりを飾る。
つまり、“それに相応しいだけのステージを見せつけなければならない”と、ツバキはステージの上で一人楽しげに微笑んだ。
――
夢を見ていたの ずっと昔から
気付かないほどに 強く願いながら
歩き続けてたの ずっと昔から
最初から敷かれてた レールの上
嗚呼 やっと気付いた 本当の道
飛び出そう 今 自分の夢へ
私はもう 後ろを向かない
作っていく 道をこの足で
空高くに夢があるなら
きっと飛べると信じて
今できる最高のライブを
さあ、遊びは終わりだ
見せてあげる
本当の私の チカラを
――
☆☆
「フゥ! カミシロ、やるじゃねェか!」
「“End game...”に“Crescent Moonのブルーフラムコーデ”。これはステージガールオーディションの時と、同じ組み合わせのようです」
「ええ。ですが、あの頃よりもずっと洗練されていて、見応えのあるステージになっていますね」
「約半年でここまで成長するとは……この後の生徒達にとっては、なかなか厳しいスタートですねぇ」
「だが、なんにしても神城君のパフォーマンスは素晴らしい。この先が楽しみだよ」
審査席でステージを見守る講師陣+学園長も、ツバキのパフォーマンスには好印象ばかりらしく、誰も口には出さないものの、“さすが優勝候補の一角”と同じ事を思っていた。
ちなみに、今回の勝敗決定は講師達の審査と、ステージを見に来てくれたお客さんの興奮度による採点も含まれている。
まさに、スタァシステムを使った、アイドルのステージならではの採点方法だ。
「さあ、それでは得点と行こうじゃないか!」
☆★☆☆★☆
審査席にいた学園長の言葉を受けて、ツバキの立つ講堂のステージ奥に巨大なモニターが降りてきた。
そして、そのモニターの中央に神城ツバキの名前とともに、ゲージが一本。
“見た目で分かりやすい、良いデザインね”と、ツバキは、自身の後ろに表示された画面を見て笑った。
「今回のイベントでは、我々講師陣の採点と、会場の興奮度を元にした採点の二種類を合わせた合計点数で順位を決めていきます」
「つまり、技術だけじゃねェってことだぜェ、ベイビー!」
「その通りね。アイドルとはファンや、応援してくださるお客様あってのもの。故に、どれだけ技術が良くても、会場の興奮度が低ければアイドルとしてはダメダメってことね」
「ちなみに最高点数は三万点。審査に対する基準点は、今回の神城さんが基準だけれど……彼女を基準にすると少し厳しいかもしれないわねぇ」
学園長に続き、マイク先生達講師陣が採点方法について説明を行っていく。
数分程度で説明が終わり……ついにツバキの得点発表へと話が移る。
ダララララララというドラムロールの後に伝えられた点数は……!
「
マイク先生の驚きの声に、ツバキはフッと笑みを漏らし、ステージの上で深く頭を下げた。
その仕草は、まさに“当然”と言わんばかりの余裕を見せつけるようで、“ツバキの後の人は大変そうだなぁ”と、かのんでさえ同情してしまう。
しかし、そんなかのんの隣で、つばめはただひとり、静かに闘志を滾らせ……イベントのラストに行われた、つばめのステージで爆発させるのだった。
☆☆☆
「本気の私。物語の主役たるカッコいい私に、私はなる」
かのんのステージの裏で、つばめは不敵に微笑む。
つばめの手にはモバスタがしっかりと握られており、そこにはつばめが本気になった証でもある、ブランド“Chrono'stEp”のドレスが表示されていた。
それは“Chrono'stEp”らしいセピアカラー基調ではあるものの、“ナポレオンコート”と呼ばれる形をショート丈にしたジャケットに、時計モチーフのスカート風ショートパンツや、ミニハットといったおしゃれ感もある、“グロリアスメモリーズコーデ”という素敵なドレスだった。
「総合的な技術ではツバキ。歌はヒナ、演技はアユミ。そして、アイドルの素質はカノン。けれど、私だって負けていない」
ギュッと握る拳に、高鳴る鼓動に、聞こえてくる歓声に、確かな熱を感じる。
さあ、遂に出番がやってくる。
見せつけろ、私の……私だけの輝きを!
「さあ、心よ。舞い踊れ!」
☆★☆フレッシュアイドルカップステージ -久世つばめ-☆★☆
つばめがステージへと現れた直後、時計の針が音を刻み始めた。
それは観客をつばめの世界へと誘うカウントダウン。
次第に早くなり、そして唐突に世界から音が消えるのだった。
――
Break[c]lock Time
ah-a,aah- aaah- a ah-
ah-a,aah- aaah- a- aah-
動き始める 時間はここで
奏で始める 音は 私に
さあ、腕をあげて
さあ、誰よりも高く
掲げた手は 夢に近く
遥かな空を進む
鳥はもう 振り向かない
あの稜線へ
辿り着くと 誓ったから
(ah- a,aah-)aaah- a ah-
ah- a,aah- aaah- a- aah-
――
☆☆
「これは……すごいですねぇ」
「ええ、世界観の作り込みが素晴らしい。ドレスと歌を、自分の出したい世界観にしっかりと合わせてあるのが良いポイントですね」
「だが、歌はお世辞にもウメェとはいえねェなァ! 良くて中の上あたりだぜェ!」
「たしかに、ダンスがパフォーマンスの半分以上を占めているといっても過言ではないでしょう。もちろん、ダンスだけでこれだけの世界観を出せるのは素晴らしいことですが……」
「ダンスの興味が薄い観客へは、アプローチが弱いみたいだね。しかし、久世君の見せる世界に、私達ですら一度見惚れてしまったのは素晴らしいと言わざるを得ないだろう」
自らの目指すべき姿をしっかりと見定めたうえで、突き抜ける個性を放っている。
しかし、惜しむらくは……イベントのトリを務めることになってしまったという、彼女の実力以外の要素に結果が反映されてしまったことだろう。
それは、総合力を上げてきた“神城ツバキ”、歌だけであれば学園トップと言っても過言ではない“皐月ひな”……この二名の印象が、観客の心の中に強く残ってしまっていたこと。
(これが勝負に潜む、時の運というものか)
自らの思考にキリをつけ、学園長は重々しく頷いた。
そして、それはつまり……つばめの得点集計が終わったということでもあった。
☆★☆☆★☆
肩で息をしながら、つばめは歓声に手を振り返す。
その表情は、まさに“やりきった”と、そう言っているような自信に満ちた表情だった。
「それじゃ、ラストのステージを飾った、エアマスターの得点と行くぜェ!」
壇上へと姿を現したマイク先生が、観客を煽るようにギターをかき鳴らすと、呼応するようにドラムロールが響き始めた。
現在のトップはツバキ。
まさに今回のイベントは、二人の一騎打ちだった。
「ここまで圧倒的点差で勝ち残ってきたカミシロに、エアマスターは届くかァ!? 集計はこれだァ!
モニターに表示されたスコアは、文句なしの高得点。
だが、問題はそこではなく……得点を読み上げたマイク先生も「おいおい、マジかよ……!」と、予想外の展開に驚いたような声を漏らしていた。
なぜなら、この点数は、
「ツバキと同じ?」
「ったく、この状況はどうすんだァ……?」
そう、それはツバキの出した点数と全く同じ点数だった。
壇上で進行を務めていたマイク先生もそれに気付き、頭を掻きながら次の動きに悩む。
そもそも、今回の大会は講師陣の採点に、会場の興奮度から算出した得点が加算され、点数になるものだ。
それはつまり……普通であれば合計点が同じになるなど、ありえないほどに低い確率。
まさにミラクルな展開としか、言えない状況となっていた。
だがしかし、そんなミラクルな展開に慌てふためいている場合ではない。
“これもまた、時の運というものなのだろう”と、このイベントの決着を付けるべく、学園長は壇上へと上がるのだった。
「こんにちは、みなさん。今日のステージは楽しんでいただけましたでしょうか? まさかこのような結果になるとは、採点を行っていた私達講師陣も、驚きの気持ちで一杯です。本来であれば、最高点を出した生徒一人を優勝者として表彰する……それが今回の結末となるはずでした」
そこで学園長は後ろのモニターへと振り返り、「しかし」と、首を振る。
「トップバッターを務めた神城君、そしてトリを飾った久世君。共に、素晴らしいステージを見せてくれました。そこで、今回は二人を優勝者として、表彰させていただこうと思います! 神城君、久世君。こちらへ!」
ミラクルな出来事には、ミラクルで返すと言わんばかりに、学園長はミラクルを起こした二人を壇上へと呼ぶ。
もっとも、つばめは壇上にいたため、実際に呼び出されたのはツバキだけであったが。
二人が壇上で学園長と対面する形で並ぶと、学園長は「トロフィーも賞状も一つしか作っていない。また後日二人に渡すからね」と小さく呟き、二人が頷いたのを見て柔らかく笑った。
「では、フレッシュアイドルカップ。優勝者は、神城ツバキ君、そして久世つばめ君の二人で決定だ! おめでとう、二人とも!」
「「ありがとうございます」」
「これからも素晴らしい輝きを期待しているよ」
手渡された賞状とトロフィーを片方ずつ受け取り、ツバキ達は観客の方へと振り向く。
その瞬間、講堂は歓声と拍手の音で埋め尽くされた。
そんな轟音を受けとめつつ、ツバキ達はそれぞれに「ありがとうございます」と笑顔を見せ、トロフィーや賞状を掲げて見せるのだった。
☆★☆次回のスタプリ!☆★☆
ツバキとつばめが同点一位という、まさかの展開で幕を閉じたフレッシュアイドルカップ。
大歓声が講堂を包むなか、かのんは友人達との差を改めて実感する。
漠然としたものではなく、確かな数値として出たその差に、かのんは……。
第二十三話 ―― 八月三十一日、天気曇り ――
★★★
「失礼します。おや? 何か観られてましたか?」
フレッシュアイドルカップ当日の夜、とある部屋に一人の男性が入ってきた。
二十歳過ぎの細身な男性は、部屋の奥にある机で、楽しそうにモニターを眺めていた同年代の女性へと近づき、「ああ、彼女ですか」と頷く。
それは、男性にとって上司である女性が、アイドル“立花かのん”のステージを見ているのは、もはや日常的なほどになっているからこその反応だった。
「おや? いつの間にいたの?」
「さっき、失礼しますって入りましたよ。相変わらず、彼女のステージを観てるときは、まったく反応しなくなりますよね」
「ははっ、仕方ないよ。だって、かのんちゃんのステージはキラキラしていて、とても輝いてみえるからね!」
“ようやく反応を返したとしても、これだ……”と、男性は苦笑ぎみに頭を振る。
そして、彼女の机に書類を置いて、「用件ですが」と本題を切り出した。
「新作のお披露目CM&ステージの候補アイドルの一覧になります。一応、あなたが言っていたコンセプトに近いアイドルを選んであります。目を」
「いや、かのんちゃん。彼女でいこう。それがいい」
「は? いや、新作ですよ!? 実力の乏しいアイドルに任せるのはっ」
戸惑い、声を荒げる男性に笑いつつ、女性は「一等星に一番近いのは彼女だと思ってる」と、かのんの写真をモニターへと映し出す。
そして、「だからこそ、ボクが選ぶのは彼女だ」と、にっこり笑ったのだった。
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