第十九話 私の目指す姿は

「ヨゥ、ベイビー! 今日はとっておきのイベント告知だぜェ! スタンディングフラワー、エーンド、カミシロ! お前達のイベントの開催決定だァ!」


 朝のHR時間に、勢いよく飛び込んできたマイク先生が、ギターをかき鳴らしながら、そんな爆弾を投下した。

 あまりにも突然すぎる告知に、かのん達本人はおろか、他の生徒達も驚き固まってしまう。

 しかし、かのんの「えええええ!?」という声を皮きりに、全員が驚きと、祝福の声を上げた。


「ヒュウ! 朝から元気なベイビーに、俺もパワーを貰っちまうぜェ! 詳しい話は学園長から聞きなァ! そんじゃ、今日も仕事にレッスンに、頑張れよベイビー!」


 ギュイーンとギターをかき鳴らし、マイク先生は入ってきた勢いに負けない勢いで教室から出て行く。

 そんなマイク先生を、全員で呆気に取られたまま見送り、その後かのんとツバキは、アイコンタクトで“ひとまず、学園長のところに行こう”と頷きあい、席を立った。

 そしてあゆみとつばめもまた、かのん達の話が気になり、後を追うことにしたのだった。


「天之川学園長ー!」

「あっ、こら、かのん!?」


 バァンと大きな音を立てながら、またしてもかのんは学園長室へと勢いよく飛び込んでいく。

 その音に驚いた学園長は、声を上げそうになったものの、かのんの後ろに続くツバキの姿を見て、グッと堪えることに成功するのだった。


「今日も突然だね、立花君?」

「イベント、イベントが! イベントなんです!」

「すみません、学園長。イベントの詳細を教えてほしいんですが……」

「そう、それです!」


 慌てすぎて言葉を忘れたかのんにため息をつきつつ、ツバキがそう補足すれば、かのんは勢いよく頷く。

 そんな二人のやり取りが面白いのか、学園長は笑顔を見せてから、「また後に、こちらから呼ぼうかと思っていたんだよ」と、リモコンを操作した。


「二人ともよく頑張っているみたいだね。神城君はオーディションの合格率が非常に高く、仕事のオファーも同学年ではトップクラスの成績で、業界からの信頼もとても高いようだね。これからもこの調子で頑張ってほしい」

「ありがとうございます。これからも精進させていただきますわ」

「うんうん。そして立花君は、“ラクウェリアス”の複数CMに加え、ここ最近のテレビやステージの評判が、とてもいい感じだね。神城君と比べると、ファン数や仕事数は少ないながらも、着実に積み重ねていると言えるだろう」


 データを出しながら話す学園長に、かのんは嬉しそうに頭を下げて「ありがとうございます!」と笑った。

 「良かったじゃない」と笑顔で祝福するツバキに、照れたような顔を見せて、かのんは「ありがとうー!」と笑顔を咲かす。

 そんなかのんを見る学園長もまた、嬉しそうに喜ぶ彼女の姿に喜びを感じていた。

 かのんが落ち着くまでたっぷりと時間を取った後、学園長は「それじゃあ、イベントの話に戻ろうか」と、話を進めた。


「イベントはそんな二人のファンのために開催する予定だよ。内容としては、サイン会に加え、二人でのステージを企画している」

「二人でのステージですか? そういえば、かのんと二人だけのステージはしたことがなかったわね」

「うん! うわぁ、楽しみ!」

「会場は、前に久世君のイベントに使ったところと、同じ会場を押さえているよ。学園としても、君たちのイベントをサポートする予定だから、レッスンやサイン会の準備はしっかりとしておいてね」


 「はい!」と元気よく答えたかのんと、「わかりましたわ」と丁寧に頭を下げるツバキ。

 そんな二人を見て、学園長は微笑み「期待しているよ」と、話を終わらせた。


☆☆☆


 レッスン室へと場所を移したかのん達は、学園長室の外で待ってくれていた三人と合流し、五人でレッスンを開始していた。

 曲は、レッスン曲の定番“spring star”であり、二人のレッスンしている曲の中で、唯一被っている曲でもあった。

 かのんとツバキは好みがあまり被らず、かのんの好きなポップで可愛い曲は、ツバキにはあまりピンと来ず、ツバキの好きなクールで盛り上がるバンドロックは、かのんにはあまり……。

 そんなわけで、二人共が歌って踊れる曲となると、この曲しかなかったのだ。

 だがしかし。


「カノン、ツバキ。ダンスから何も感じられない」

「ツバキさんは、ビシッと決まってて良いんだけど……」

「かのんさんは~、時々違うステップで楽しそうです~」


 “それはつまり、踊れていないということでは”と、ひなの感想に全員が苦笑する。

 そんななか、一足先に気を取り直したツバキが、「共通のコンセプトが必要そうね」と呟いた。


「共通のコンセプト?」

「同じステージに立つなら同じ方が良い。バラバラだと何も伝わらない」

「つばめの言う通りよ。何を伝えたいかってことを、かのんと私で合わせるべきだと思うわ」


 そう言って、ツバキはモバスタで“spring star”の歌詞を表示すると、「例えばこの歌詞から受けるイメージをコンセプトにするとか」と、かのんの方へと視線を送る。

 ツバキの視線を受けて、かのんは「うーん……」と悩み、首を傾げた。


「そもそも、この歌詞って……どういう内容なの?」

「かのんちゃん……考えずにレッスンしてたの?」

「えっ……うん」


 おずおずと頷いたかのんに、あゆみとツバキ、そしてつばめも驚いたような顔をして、お互いに顔を見合わせた。

 ちなみにひなは「そんなかのんさんも、素敵です~」とほんわかと笑っていた。


「ねえ、かのん。もしかして今までの曲、全部?」

「ううん。“輝く明日へ”と“憧れの輝石”はちゃんと歌詞を見てるよー! 応援されてるみたいで、すごく好きな歌詞なんだー!」

「その二曲ってことは……かのんちゃん、入学試験で歌った“up.up.step.jump”は?」

「え、えへへ……リズムは好きなんだけど……」


 はにかみつつ答えたかのんに、三人はまた顔を見合わせて、大きく溜息を吐いた。

 そして、ツバキが「なら、まず歌詞の勉強からやりましょう」と宣言するのだった。


「……~というわけなの。わかった?」


 十五分ほど使い、歌詞の意味やどういったイメージの曲なのかを説明したツバキは、最後にそうかのんに確認を取る。

 しかし、当のかのんは「ほへー……」と口を開けたまま放心しており、どこからどうみても分かっていないようにしか見えなかった。


「あ~……これは、ダメかも。ごめんね、ツバキさん。夜にでも部屋でゆっくり伝えておくから」

「え、ええ。お願いするわね。でもこれ、どういう状態なの?」

「ん~、多分“曲を作ってる人すごい!”っていう感情と、“歌詞を作ってる人すごい!”って感情と……“それがひとつになってこんなすごい!”みたいな感情が合体して、“すごい!”になって爆発したんだと思う」

「……どういう状態よ、それ」


 まったくもって説明になっていないあゆみの説明に、ツバキは思わず吹き出して笑ってしまう。

 そんなツバキにつられてあゆみ達も笑い、少し経って復活したかのんが、「えっ? えっ? なんでみんな笑ってるの!?」と驚き、余計に笑いを誘うのだった。


☆☆☆


「それで、かのんはちゃんとコンセプトを考えてきたの?」

「うん、もちろん!」


 次の日、レッスン室に集まった五人は、昨日途中で終わってしまった話を再開していた。

 もちろんただ終わらせたわけではなく、ツバキはあゆみを通してかのんに宿題を出していたわけだが……。


「楽しいステージとイベントにしたい!」

「そんなことだろうと思ってたわ」

「ええと、あのツバキさん。その、これでもかのんちゃんは、結構頑張って考えてて……」


 フォローするように口を開いたあゆみを、ツバキはそっと撫でて「大丈夫。頑張ったわね」と微笑む。

 その妙なほどに落ち着いた大人の風格に、あゆみはおろか、近くで見ていたひなも頬を紅く染め、「ほわ~……」とツバキに見惚れていた。

 しかし、そんなツバキ達を放って、つばめはかのんへと近付き「楽しいステージとイベント、楽しくて良いと思う」と、いつもの抑揚の薄い声でかのんを褒めるのだった。


「えへへ。そうだよね、楽しくて良いよね!」

「でもカノン。楽しいはどうやって伝える?」

「ほえ? うーん、こうしゅばばばって……でも時々ビシッてカッコよくて」

「こう?」


 かのんの言葉に頷きつつ、つばめは曲もなくその場で踊り出す。

 その姿を見て、かのんは「そうそう! そんな感じ!」と、楽しそうにはしゃいでいた。


「カノン、楽しい?」

「うん! つばめちゃんのダンスはカッコいいし、ワクワクするんだー! 音楽と一緒だと、まるで物語を見てるような気持ちにもなるよね」

「ダンスは言葉を発しない。けれど、見ている人に想いを伝えることは出来る。歌とダンス、二つが合わされば最強」

「最強……!」


 ビシッとポーズを決めながら言い放った言葉を、かのんはキラキラとした目で繰り返す。

 おおよそ、アイドルのレッスン中とは思えない発言に、ツバキは大きくため息を吐いたのだった。


「はいはい。最強とかどうでもいいから、コンセプトを決めるわよ」

「ええー!? 最強だよ? ツバキも最強になれるかもしれないんだよ!?」

「なってどうするの……それに、そもそもアイドルの最強ってなんなのよ。熊でも倒すの?」

「熊! 倒してみたい!」


 ツバキの例えにガバッと飛び付き、かのんは目を輝かせる。

 そんなかのんに押されつつ、ツバキは「倒してどうするのよ、倒して……」と呟いた。


「熊を倒せるアイドルは強い」

「強い!」

「その強さって、アイドルに必要な強さなの!?」


 つばめとかのんの天然パワーに、ツバキは声を荒げながら反論を入れる。

 そんな三人に、あゆみは苦笑し、ひなは楽しそうに微笑んでいた。

 数分ほど、およそアイドルがレッスン中にする話ではない話で盛り上がり、ツバキが諦めたように「もう、なにも言わない……」とぐったり倒れこんだことで一応の決着がつくのだった。


「カノン、最強のためには技術がいる」

「技術……!」

「心技体揃えば最強。でも、カノンは心と体しかない」

「心と体」

「そう。だから、カノンは技術を身に付けなくては」


 「最強になれない……!」と、かのんはつばめの言葉を引き継ぎ、ガクッと両手を床につけてうなだれる。

 そんなかのんの背中を撫でるように、つばめはそっと寄り添い「そんなわけで、ツバキの指導を受けよう」と、ストレートに後押しをしていた。


「そこで、私に振るのね」

「ダンスなら負けない。でも、総合力はツバキ」

「はい~。ツバキさんはすごいのです~」

「私よりすごいものを持ってる二人に言われてもね……。でも、いいわ。かのんの指導は、私がずっとしてきたもの」


 腑に落ちないような声でツバキはそう言うものの、顔が少し紅くなっていて照れ隠しなのがバレバレだった。

 けれど、誰もそれは指摘せず、ツバキの言葉にうんうんと頷くだけにとどめる。

 そして、有無を言わせない早さで、あゆみはモバスタから曲を流すのだった。


「それで、コンセプトは?」

「たのしい! 私もツバキも、もちろん見てくれる人も!」

「大雑把なコンセプトね」

「でも、それが一番じゃない?」


 「まあ、確かにそうね」と、ツバキは躍りながら、諦めたように笑う。

 そんな話をしながら踊っても姿勢の崩れないツバキに比べ、話す度にリズムもステップもズレていくかのん。

 まさに、かのんには技術が足りなかった……。


「もはやこれは技術というより、センスね」

「センスが足りない……!?」

「ええ。絶望的に」

「絶望的に!?」


 衝撃を受けたように弾かれ、かのんはまたしても両手を床につけてうなだれる。

 “センスがない”というのは、今までどんなスポーツもすぐに上手くなり、助っ人として呼ばれてきたかのんにとって、初めての衝撃。


(“ラクウェリアス”に受かる前も、全然上手くなれなかったから、なんとなくは分かってたけど……)


「でも、かのんはアイドルだと思うわ」

「ほえ?」

「私が“Crescent Moon”のミューズオーディションに落ちたとき、トップデザイナーのアリシアさんにアイドルの輝きがないって言われたの、覚えてる?」

「うん。たしかツバキは覚悟って」


 かのんの言葉に「そうね」とツバキは頷いて、かのんに手を差し出す。

 そんなツバキの手を取ってかのんが立ち上がると、ツバキはしっかりとかのんの目を見て、「アイドルの輝きって聞いて、一番最初に思い付いたのは、かのん。あなただったわ」と笑った。


「私? でも、私に覚悟なんて、」

「かのん、覚悟だけが輝きを生むわけじゃないわ。私が輝くためには覚悟が必要だっただけ。けど、かのんの輝きはきっと別の何かから生まれているの」

「私の輝き……」

「だからこそ、私もあゆみも、ひなもつばめも。かのんのそばにいたいって思うのかもね?」


 ツバキの言葉にかのんは周りを見回し、みんなの笑顔に気づくと、かのん自身も満面の笑みを咲かせる。

 そして、「よーし! やるぞー!」と、かのんはテンション高く飛び跳ねたのだった。


☆☆☆


 そうして迎えたイベント当日、かのんはイベント会場の裏にあるスタッフ専用テントの中で、ウズウズとはやる気持ちを抑えていた。

 “かのんの気持ちも分かるけど”と、ツバキは少し苦笑して、「かのん、少し散歩に行かない?」と、かのんへと手を差し出す。

 そんなツバキの誘いに、かのんは少し困惑したものの、“ここにいても落ち着かないだけだし”と、ツバキの誘いに乗るのだった。


「ほら、かのん見て。あそこ、イベントステージの待機列」


 待機列が見える、少し高くなった場所で、ツバキは隠れるようにしゃがみこんでかのんを呼ぶ。

 ツバキの動きを真似するように、静かに動くかのんは、待機列が見えた瞬間「わっ」と驚いたような声を出した。


「結構来てくれてる!」

「これだけの人が、私達のイベントを楽しみにしてくれているの。ひとりひとり、自分の貴重な時間を使って」

「うん。だから精一杯返さないとね! このイベントに来て良かった、楽しかったって思ってもらえるように」


 きらきらとした笑顔を見せるかのんに、「ええ、もちろん」とツバキが頷く。

 そして、数分ほど待機列を見ていたかのん達は、最後に「イベント、頑張ろう」と気持ちをひとつにして、スタッフ専用テントへと戻るのだった。


 イベントのスタートは、ステージでのパフォーマンスライブ。

 時計が昼の一時を指した時、ツバキは勢いよく椅子から立ち上がった。


「それじゃ、行くわよ」

「うん! 楽しもうね、ツバキ!」


 ツバキの言葉に応えたかのんも、勢いよく椅子から立ち上がり、ふんっと気合いを入れる。

 そんな二人のモバスタには、色違いのスクールドレスに加え、今回のイベント用に作成された、野外ステージのデータが表示されていた。

 

「立花かのん。誰よりも輝いてみせる!」

「神城ツバキ! 私達の道は、私達が作る!」


 隣り合ったまま、ツバキとかのんはハイタッチをして、モバスタをセット。

 開かれたゲートへと、並ぶように駆け出した。


☆★☆立花かのん・神城ツバキ、ツーマンイベント野外ステージ -立花かのん・神城ツバキ- ☆★☆


 二人がステージに現れた瞬間、たくさんの歓声が響き、ステージを揺らした。

 その勢いに少し驚いたものの、二人は大きく手を振りつつ、自らのポジションへと進み、パフォーマンスを開始するのだった。


  ――


   夢の扉は すぐそこ

   駆け出して つかみ取ろう


   太陽は いつも私を見てる

   時には 曇ることもあるけど

   それだって いつか私を育てる

   本当に 大切な日々!


   広い大地は 硬いこともあるけど

   頑張って咲いた花に 負けない輝き

   夢を心に抱いて 今走り出す


   始まれ私の 青春の日々

   悩んだり 泣いたり いっぱい繰り返して

   私の道の先 明るい大空の下

   夢の扉は すぐそこ

   駆け出して つかみ取ろう


  ――


「みんなー! ありがとー!」

「ありがとうございます!」


 “spring star”を歌い踊り終わった二人は、笑顔で歓声をあげてくれるファンの人達に、また大きく手を振って応える。

 そんな二人に、ファンの方からも「ありがとー!」という声が返ってきて、かのんはすごく嬉しく感じ、ぶんぶんぶんと力強く腕を振った。

 かのんのテンションにツバキは少し呆れつつ、「このあと、サイン会を行いますので、よろしくおねがいします」と、告知を行っていた。


☆★☆☆★☆


「かのんちゃん、応援してます!」

「ありがとうございます! じゃあ、私も応援します!」

「えっ!? あ、ありがとう?」

「はい! これからも頑張ってください!」


 不思議な会話を繰り広げながらも、かのんはしっかりとサインを行い、ファンの人達に笑顔を届けていた。

 ツバキは、隣のブースから聞こえてくるかのんの不思議な会話に気を引かれつつも、顔や声には出さないようにサインを描いていたのだが……失敗が多くできていた。

 “確実にかのんのせいね”と、心の中でだけ溜息を吐いて、次々来るファンの人たちに笑顔を届ける。

 そんなとき、かのんのブースの方から「かのんちゃん! 今日も会いに来ました!」と、元気な声が聞こえてくるのだった。


「わわ、ありがとう!」

「さっきのステージ、すっごく可愛かったです!」

「ホントですか!? よかった~、ツバキがビシビシッって格好いいから、私は見られてないと思ってた」

「ええー、かのんちゃんをじーっとみてましたよー! あっ、これファンレターです! いっぱい話したいことがあるけど、私ばっかり時間もらっちゃダメだから」

「ファンレター!? 初めてもらうよー、嬉しい!」


 照れたり笑ったりと表情がコロコロ変わるかのんに、ファンの女の子も楽しそうに笑う。

 差し出されたファンレターの代わりに、サインを書いた色紙を渡して、かのんは「今日は来てくれて本当にありがとう!」と女の子を見送ったのだった。


「あれ? ツバキちゃん、ちょっと嬉しそう?」


 そんなかのん達のやり取りを隣のブースで聞いていたツバキは、気づかない内に出ていた微笑みを指摘されて、少し驚きつつ「ええ、少し」と笑う。

 そして、心の中でかのんを祝福しながらも、サイン会は順調に進んでいくのだった。


☆☆☆


 イベントも終わり、数時間が経った夜の庭園に、かのんは一人、ぼーっと夜空の星を見上げていた。

 誰かとの待ち合わせでもなく、ただ今日は、こうして大事なこの場所の空気を感じていたい。

 そう思って、庭園へと赴いたかのんだったが、そんな静寂の時は、十分ほどで終わりの足音を告げるのだった。


「かのんちゃん? こんな夜にどうしたの?」

「なんとなく、星を見たくて。そういうキセキ先輩は、どうされたんですか?」

「うーん……私も、星が見たかったのかも」


 地べたに座り込んでいたかのんの隣にキセキは腰を下ろし、そう言って笑顔を見せた後、空を見上げた。

 そのままなにも言わず、二人は肩を並べて星を眺め……流れ星が一つ空を駆けた後、かのんが「私、今日ファンレターを貰いました」と話し始める。

 かのんの声に、キセキは空からかのんへと顔を動かし、「良かったね」と笑った。


「はい。すごく嬉しくて、心が暖かくなって、アイドルって楽しいなって」

「そうだね。私も初めてファンレターを貰ったとき、同じ気持ちになったよ」

「キセキ先輩も?」

「うん。すごく楽しくて、そんな気持ちがファンの方にも届いていることが嬉しくて、アイドルって良いなって……そう思ったよ」


 憧れの先輩と同じ気持ちになれたことに、かのんは心がすごく熱くなった気がした。

 それと同時に、“私の気持ちは、間違ってないんだ”と、ぎゅっと拳を握って、シュバッと拳を空へと突き上げる。

 突然の奇行にキセキが少し驚いたのも無視して、かのんは「私、目指そうと思います!」と口を開いた。


「ふふっ。かのんちゃん、何を目指すの?」

「楽しいって気持ちを感じられるアイドルを目指します! キセキ先輩は憧れですけど、私にはまだまだ手の届かない存在なので……まずは自分のできることをしようと思いました」

「かのんちゃんらしくて良いと思うよ。私も、そんなかのんちゃんのステージが見てみたいな」


 そう言って微笑んだキセキに、かのんは満面の笑みを晒し、「はい! 絶対楽しませちゃいますから!」と言い切るのだった。


☆★☆次回のスタプリ!☆★☆


 イベントを通して、自身の目指すべきアイドル像を見つけたかのん。

 そんなかのんに待っていたのは……五人揃っての休日だった!


 第二十話 ―― マイスポット探求日! ――

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