第十六話 ペン先のダンス

「つばめちゃーん! レッスン室いこー!」

「うん、踊りたい」

「ツバキー! つばめちゃんも来るってー!」


 つばめとかのんが友達になってから、すでに数日が経ったある日。

 HR後のもはやお決まりとなった光景に、ツバキは軽く呆れつつ「はいはい。言わなくてもわかってたわよ」と手を振って応える。

 そんなやりとりを見つつ、あゆみは“ツバキさんは面倒見がいいなぁ”と、以前は自分が思われていたであろう事を、ツバキに対して思っていた。


「カノン、今日はなにをやる?」

「うーん……」

「いや、悩むくらいなら昨日と同じ曲を練習しなさいよ。ようやく、通しで踊れるようになったんだから」


 ツバキの助言に、「それもそうだね!」とかのんは頷き、つばめは「踊れるならなんでもいい」と、すでにポジションでポーズを取っていた。

 そんな三人に、あゆみとひなは「仲良いね」と笑いつつ、三人から少し遅れてポジションにつく。

 それを見たかのんが、モバスタから曲を流し始めた瞬間、「Heeeeey! ベイビー!」とマイク先生がレッスン室の扉を開け放った。


「わひゃ!? マイク先生!?」

「今日もレッスン、頑張ってるじゃねェかベイビー! エアマスターを学園長が呼んでるぜッ! ……って、ガン無視で踊ってやがる」

「あはは……つばめちゃんは、いつもこうなので」


 飛び込んできたマイク先生すら完全に無視して、つばめはモバスタから流れる曲にあわせ軽やかにステップを踏む。

 完全に一人の世界に入り込んでしまったつばめが、マイク先生の存在に気づくのは、一曲踊り終わってからだった。


「私を学園長先生が?」

「ああ、それともし一緒なら、お前達も一緒にってよ」

「私達も?」


 マイク先生はお前達と言いながら、かのん達四人を目で示した。

 その動きに呼応するように、ツバキは声を上げ、かのんと顔を見合わせて困惑する。

 しかし、「呼ばれている以上、行くしかないわね」と困惑を打ち切り、「ほら、とりあえず着替えに行くわよ!」と、かのんとつばめの手を取った。


☆☆☆


「失礼します」


 学園長に名指しで呼ばれていたつばめを先頭に、かのん達は学園長室の中に入った。

 学園長室の中には学園長とマイク先生がおり、姿を見せたかのん達に、「ヨォ! 待ってたぜ、ベイビー!」とマイク先生の快活な声がかかる。

 その声につばめは身体をビクッと震わせたものの、“自分が止まったら迷惑になる”と、なんとか固まるのを防ぎ、学園長の前まで辿り着いた。


「やあ、皆さん。急に呼び出して申し訳なかったね」

「いえ、大丈夫です。まだレッスンを始めたばっかりでしたから」

「そう言ってもらえて助かるよ。……さて、用件を話そうか。まずは久世君、これを見てくれたまえ」


 そう言って、学園長は机の引き出しから一通の封筒を取り出し、つばめへと渡す。

 つばめは特に表情を変えることなく、中に入っていた紙を引っ張り出した。


「……きら星学園の先生、はじめまして。わたしはつばめちゃんの大ファンです。つばめちゃんがわたしの住むまちにある、きら星学えんに引こしてきたと知って、お手紙をおくりました」

「つばめのファンからの手紙みたいね」

「これってファンレターなの!? すごい! さすが、つばめちゃんだね!」

「あら? かのんはまだファンレターなんかは貰ってないの?」


 ストレートなツバキの言葉に、かのんは「うぐっ!」となにかに貫かれたような声を出して、膝を折った。

 そして、「満塁ホームラン……だ」と、よくわからないことを言う。

 そんなかのんに手を貸して起こしつつ、「……まぁ、とりあえず続きを聞きましょう」とツバキは苦笑した。


「うん。お手紙を出したのは、つばめちゃんと会えるようなイベントがあるといいなーと思って、おねがいのために出しました。つばめちゃんと先生、おねがいします!」

「というファンレターが、学園に届いたのだ」

「でもこれは、ファンレターというよりも、イベントのお願いじゃないですか?」

「はい~。ひなもそう思います~」


 あゆみの言葉にひなは笑顔のまま頷いて、学園長の方へと視線を戻す。

 学園長はそんな二人に微笑みつつ、「そこで、久世君にはファン交流イベントを行ってもらおうと思う」と、本題を始めた。


「今回は、今まで遠くて交流ができなかったファンと交流するということで、サイン会とステージのイベントにしようと思っている。久世君はサインの方は大丈夫と聞いているが……」

「問題ないです。東京の方では、色々なイベントでサインを書いていましたので」

「はいはーい! 学園長ー!」


 二人の会話を聞きながら、かのんが突然手をあげて声をあげる。

 そんなかのんに苦笑しつつ、学園長は「立花君、なにかな?」と訊いた。


「サインって準備しておくものなんですかー?」

「……そうか、立花君はアイドルについて疎いんだったね」

「おいおい、スタンディングフラワー! サインは大事だぜェ! なんてったって、ファンが持って帰れる、一番分かりやすい交流アイテムだからなァ!」

「ほぇ?」


 力なく苦笑した学園長の代わりに、マイク先生がサインの重要性をかのんに教えてくれるが……当のかのんには、まったくピンと来ていなかった。

 首をかしげたかのんに「かわいいです~」と微笑んでいたひな以外は、全員が苦笑を顔に浮かべる。

 そんな中、ツバキは「もう慣れたわよ」と、指で眉間を揉みつつ大きくため息を吐いた後、「サインは絶対に同じものがないの。だから、同じアイドルのサインをもらったとしても、そのときそのときで少しずつ違うわ。だから、ファンにとっては嬉しいのよ」と説明してくれた。


「うーん……よくわかんないけど、大事なことってことはわかった!」

「まあ、今はそれでいいわ」

「それでは話を戻そうか。先程言った通り、久世君にはファン交流イベントをやってもらおうと思っている。そこで、君たちさえよければ、久世君のイベントを手伝って貰えないだろうか?」


 学園長のその言葉に、“一緒にイベントをやってもらえないだろうか”と、言われると思っていたツバキが、すごく間抜けな声で「……はい?」と聞き返していた。

 しかし、そんなツバキとは対照的に、かのんの方は「はーい、やりたいです!」と、元気に返事していた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、かのん」

「ん? なにかダメだった?」

「学園長。そのイベントはいつの予定なんでしょうか?」


 あまりにも猪突猛進なかのんに、ツバキが止めに入る。

 そんないつも通りの光景に苦笑しつつ、あゆみは言われていない大事なことを確認した。

 あゆみの言葉に学園長は「あっ」と声をあげて、「すまない。来週末の予定だ」と少し申し訳なさそうな声で言うのだった。


★★★


「良かったじゃないですか、学園長」

「ああ。立花君は受けてくれると思っていたが、他のみんなも引き受けてくれたのは予想以上だったよ」

「そうっすかねェ。スタンディングフラワーが受けりゃ、全員受けると思ってたぜェ? 全員のスケジュール空いてるところを狙ったんでしょう?」


 かのん達が退出したあと、学園長とマイク先生は、学園長室で先程の話について話し合っていた。

 “最悪、立花君とあと一人でも”と思っていた学園長としては、マイク先生のその言葉に驚きを隠せず、「それはどうして?」と聞き返した。


「まあ、カミシロはスタンディングフラワーのお目付け役みたいなもんを自覚してやがるし、ステップガールは自分の予定がなけりゃ、スタンディングフラワーの行く先についていくだろうよ。読めねェのは、リトルバードくらいだが、最近のあいつはあのメンバーで過ごすのが楽しそうだしなァ」

「なるほど……。マイク先生が、しっかりと生徒を見てくださっていることに私としては嬉しい限りですよ」

「よしてくれよォ。俺はこれが仕事なんだからよォ……」


 言いながらも、マイク先生は照れた様子で学園長から顔を逸らす。

 そんなマイク先生に微笑みつつ、学園長はイベントの準備のためにモバスタを取りだし、どこかへと電話をかけるのだった。


☆☆☆


 一方その頃、学園長室からレッスン室へと戻ったかのん達は、来週末のイベントの話……ではなく、サインの話をしていた。

 きっかけはかのんの言った「みんなサインって持ってるの?」という言葉。

 その言葉に頷いたのはツバキとつばめだけであり、あゆみやひなも持っていないことが判明したのだった。


「あら、あゆみとひなはもう作ってるものだと思ってたけど……」

「あはは……作らなきゃとは思ってるんだけど、なかなか難しくて」

「はい~。ひなもあゆみさんと一緒です~」


 そう言って、あゆみは持ってきておいたライトノベル小説ほどの小さなメモ帳を広げて見せる。

 これは、“かのんちゃんのことだから話をしそうだなぁ”と思ったあゆみが、更衣室でレッスン服へ着替え直した際に、持ってきておいたのだ。

 そんなあゆみのメモ帳の中には、いろんな形のサインが何ページにも渡って書かれていた。


「結構がんばって考えたんだけど……どうもパッとしなかったり、書きにくかったり、他の人と似てるものだったりで」

「確かに、これだっ! っていうものがないわね」

「でも、これとかかわいいと思うよー?」


 ペラペラと捲っていたページを数枚ほど巻き戻し、かのんがあるページのサインを指差す。

 そこには、ハートをつかった可愛らしいサインが描かれていたが、あゆみはおろか、ツバキも「これは……」と言葉を濁らせた。


「これじゃダメなの?」

「違ったら申し訳ないんだけど。あゆみ、このサインって星空先輩のものを参考にした?」

「あはは……やっぱりわかるよね」


 苦笑しつつ、あゆみはツバキからの問いに頷き、モバスタでキセキのサイン写真を出して横に並べて置いた。

 その二つのサインは、文字こそ違うものの、全体的な構造やイメージが似かよっており、それを見たかのんは「あー……」と、納得したような声を出す。

 その声にまた苦笑して、あゆみはモバスタをしまい、「というわけで、決まってないの」と言った。


「ツバキさんと~、つばめさんのサインは、どういうものなのですか~?」

「私はこうね」

「こんな感じ」


 ひなの言葉に頷き、あゆみに断ってから、二人はメモ帳へサラサラっとサインを書く。

 ツバキのサインは、椿の花と枝に絡めるように漢字で名前が書いてあり、とても達筆な格好いいサイン。

 そして、つばめのサインはアルファベットで横書きのサインを横に貫くように一羽の鳥が飛んでいく、スタイリッシュなサインだった。

 二人のサインに、他の三人は「おおー!」と感嘆の声をあげ、あゆみはそのページをモバスタで撮影していた。


「二人のサイン、どっちも格好いいね! いいなー!」

「どちらも、名前とモチーフやイメージを合わせてるんですね。ツバキさんは椿の花、つばめさんは……ツバメですか?」

「そう、ツバメ」


 あゆみの言葉に、つばめはそう淡々と返し、頷いた。

 一緒にレッスンをするようになってから数日経つこともあって、あゆみはつばめが感情を出すのが苦手なことは分かっているが……どうにも慣れることができなくて、苦笑してしまう。

 けれど、あゆみの幼なじみであるかのんは、そういうことをまったく気にすることもなく、「私も作りたい!」とペンを手に気合いをいれていた。


「良いんじゃない? 私も考えてあげるから、あゆみとひなも一緒に考えてみたら?」

「踊りたいけど、イベント手伝ってもらうから、私も手伝う」

「うんうん! あゆみちゃんも、ひなちゃんも一緒に考えようよー!」


 ツバキとつばめに背中を押されたこともあり、かのんはいつもよりも五倍増しくらいのキラキラした瞳で二人を見る。

 “そんな目で見られたら断れない”と、あゆみはクスッと小さく笑い、「うん、いいよ」と答えて、隣のひなに「ひなちゃんもやろう?」と、笑いかけた。


「はい~。考えたいです~!」

「よし、じゃあ決まり! ……でも、どうやって作ったらいいの?」

「あはは……。ひとまず場所を変えた方がいいかな? レッスン室でずっと話してるのもなんだか悪いし」


 「それもそうね」と、ツバキはあゆみに賛同し、さっさとレッスン室から出ていこうとする。

 それに続くようにあゆみやひな、かのんも立ち上がったが、つばめは名残惜しそうにレッスン室を見て立ち上がらない。

 そこで、かのんは「終わったら一緒に踊ろう!」とつばめに手を差し出すのだった。


☆☆☆


 あれから教室へと移動したあと、三人はツバキのサイン作成方法の授業を受けつつ、つばめの感覚作成術に首をかしげつつ……なんとかサインを作り上げることができた。

 それからのかのんは、毎日サインを書く練習をしながらイベントの準備やレッスンに励んでいた。

 そうして、ついにつばめのサイン会&スペシャルステージのイベント当日がやってきたのだった。


「つばめちゃん、もうすぐ開始だけど大丈夫そう?」

「うん。問題ない」

「結構お客さん入ってるわよ。かなりの枚数書かないといけないかもね」


 サイン会の舞台裏で開始を待っていたつばめのところに、外の状況を見たかのんとツバキが帰ってきた。

 ツバキの言葉に、つばめは小さな声で「うっ……」と呻き、助けを求めるようにかのんの方へと視線を向ける。

 しかし、かのんとしてもどうもできず困ったように顔を曇らせたあと、「がんばって!」と満面の笑みでつばめを励ますことにしたのだった。


「そろそろ開始だよ。かのんちゃんとツバキさんも列整理手伝って」

「人がいっぱいなのです~」

「はーい! じゃあ、つばめちゃん。またね!」

「がんばりなさいよ」


 あゆみとひなの要請に、かのん達も舞台裏から出ていく。

 それからすぐ、つばめのサイン会は開始された。


「つばめちゃん! 会えて嬉しいです!」

「こちらこそ。来てくれてありがとう」


 次から次へと来るファンと話しながら、ツバメは色紙にサインを書いていく。

 一枚にかかる時間は十秒程度。

 その間、しっかりと相手とコミュニケーションを取るつばめに、かのんは“すごいなぁ”と、憧れに似た感情を抱いていた。


 そんなときである。

 列整理をしていたかのんに、突然「あ、あのかのんちゃんですよね!」と、声がかけられた。

 その声に驚き、「は、はい!?」と、上ずった声で振り向いたかのんの前には、同い年くらいの女の子が二人、色紙とペンを持って立っていた。


「私たち、かのんちゃんのファンです! あの、これにサインいただけませんか?」

「え!? 私のファン!? ……いたんだ」

「ええー、いますよー」


 素で驚いてポカーンと口を開いたかのんに、ファンの女の子達はクスクスと楽しそうに笑う。

 その声にハッと我に帰ったかのんは、「まだ練習中だから遅いし、下手かもしれないけど……」と、色紙とペンを受け取った。


「ぐぬぬ……ほっ、てりゃ!」

「わぁ! 大胆なサインですね」

「できたー! これで大丈夫かな?」


 色紙全体を使って書かれたアグレッシブなサインを、かのんはファンの女の子達に渡す。

 それを見て、ファンの女の子達は「ありがとうございます!」と笑顔でかのんにお礼を言ってくれた。


「そういえば、どうして私がいるって知ってたの? 今日はつばめちゃんのイベントなんだけど」

「あ、それはですね……えーっと、ほら、ここを見てください!」

「んー? ……イベントスタッフとして、神城ツバキや成瀬あゆみ、皐月ひな、立花かのんも参加してるかも……って!?」


 ファンの女の子がスマホの画面で見せてくれたイベント告知画像の下側に、小さくそんな言葉が書いてあり、かのんは驚いて目を見開いた。

 そして、そんな小さな文字を見て……しかも、“参加してるかも”という確定じゃない情報を元に来てくれたファンに、かのんは嬉しくなって思わず笑みがこぼれる。

 そんなかのんの笑顔を見て、ファンの女の子達も嬉しくなり、みんなが笑顔になった。


「みんな、来てくれてありがとう! 今日は私のイベントじゃないけど、つばめちゃんのステージもあるし、最後まで楽しんでいってほしいな!」

「はい! でも、今度はかのんちゃんのステージが見てみたいです」


 笑顔でそう言ってくれるファンの女の子達に、かのんは嬉しさが爆発して、ぎゅーっと抱き締めてしまう。

 「きゃっ」と少し驚きはしたものの、笑顔で受け止めてくれたファンの女の子達に、かのんは“今度は私もイベントをしたい”と強く思うのだった。


☆☆☆


 かなりの数のサインを書いたつばめは、ぐったりと舞台裏で疲れを癒していた。

 つばめにはこの後ステージも待っている。

 だからこそ、今はとにかく体力を回復させないと……と、スタッフは思っていたのだが、当のつばめは“踊りたい。一刻も早く踊りたい”と、ステージが待ち遠しくてたまらなくなっていた。


(今日のステージはどうしよう? 全力の私でいくか、それとも引っ越してきたということを強調するために、スクールコーデか)


 そう頭で考えて、つばめはすぐに“答えは決まっている”と、モバスタを操作する。

 選んだのは、スクールコーデ。

 今日来てくれたファンにとって一番嬉しいのは、自分達のすぐ近くにつばめが来たという事実、それを示してくれること。

 だからこそ、つばめは今回もまた、スクールコーデを着ることにしたのだ。


「さあ、心よ。舞い踊れ!」


 ついに待ち遠しかったステージの時間。

 つばめはモバスタをセットし、開いたゲートへと駆け込んだ。


☆★☆編入生、お披露目ステージ -久世つばめ- ☆★☆


 つばめが進んだ先に待っていたのは、たくさんの観客が待っていた野外ステージ。

 歓声が響き渡るなか、つばめは右手で鉄砲を作り、右腕を真横へと伸ばす。

 すると観客の声がおさまり、代わりに秒針の音が響き始め……音が消えた。

 

  ――


   Break[c]lock Time


   ah-a,aah- aaah- a ah-

   ah-a,aah- aaah- a- aah-


   動き始める 時間はここで

   奏で始める 音は 私に


   さあ、腕をあげて

   さあ、誰よりも高く


   掲げた手は 夢に近く

   遥かな空を進む


   鳥はもう 振り向かない

   あの稜線へ


   辿り着くと 誓ったから

   (ah- a,aah-)aaah- a ah-

   ah- a,aah- aaah- a- aah-


  ――


☆☆


「相変わらず、悔しいほどに世界を見せてくるわね」

「つばめさんは~、いつも楽しそうです~」

「うーん! やっぱり、一緒に踊りたくなるね!」


 三者三様の感想に、あゆみは「あはは……」と笑いつつ、ステージ上のつばめを見つめる。

 完全にダンスへと道を決めて輝くアイドルの姿。

 その姿は、“女優業へと力を注ぐ、自分の目指す姿に近いのかもしれない”と、あゆみは輝きを目に焼き付ける。

 そんなあゆみの姿を見て、ツバキは“あゆみも目指す先が決まってきたのかもね”と、無言で頷いた。


☆★☆☆★☆


「イベントの方はどうだったかな?」


 週明けの月曜日、学園長室へと呼ばれた五人は、にこやかに訊いてくる学園長に顔を見合わせて「楽しかったです!」と笑顔を見せて答えた。

 そんな五人の姿に、学園長は大きく頷いて「それは良かった」と、微笑んだ。


「でも学園長。どうして告知の件、教えてくれなかったの?」

「ええ、会場で声をかけられて驚いたわ」

「ひなもです~」


 実はあの日、かのん以外の三人も自分のファンという人たちに会っていた。

 つばめもそんな告知を出ているとは知らなかったらしく、イベントが終わった後、かのんからこの話が出て驚いていたのだ。


「ああそれは、その方がいい経験になるかもしれないな。と思ったからだね」

「いい経験って……全員サインを作っていたから問題なかったですけど、出来てなかったら大変でしたよ?」

「しかし、君たちなら別の方法でファンを楽しませることくらいは出来ただろう。だからこそ、問題ないと思っていたのだよ」


 そう言われてしまい、ツバキは「そう言われれば、そうですが」と、言葉を詰まらせた。

 そんななか、かのんは唐突に「学園長! お願いがあります!」と手と声をあげる。

 いきなりの声に、かのん以外の全員が驚いたものの、学園長はすぐ気を落ち着けて「お願いとは、なにかな?」と訊いてくれた。


「私もファンイベントをやりたいです!」

「……唐突だね。それはまた、どうして?」

「イベントの時なんですけど、ファンの女の子に、“今度は私のライブが見てみたい”って言われて」


 少し照れたみたいに頬を染めつつかのんが言った言葉に、学園長は「ふむ」と考える。

 そして、「そうだね、やってみようか」と頷いてくれた。


「で、できるんですか!?」

「ただし、告知もしっかりやってもらうからね?」

「はい! どんとこいです!」


 そう言って胸を叩いたかのんに笑いつつ、学園長は「じゃあ、今週のテレビ収録のゲスト、よろしくね」と、突然爆弾を落としてきた。

 言われた瞬間、あまりの急展開にかのんがフリーズし……そして「ええー!?」と、爆発したのだった。


☆★☆次回のスタプリ!☆★☆


 初めて自分のファンと交流をしたかのんは、自分のイベントのため、なぜかテレビに出ることに!

 さすがにかのん一人では、とツバキとあゆみも一緒に参加してくれることになったが、その番組はなんと先輩の冠番組で!? 


 第十七話 ―― 雪解けを待つツボミたち ――

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