第十一話 演じられない役者

「こんにちは~。かのんさん、いらっしゃいますか~?」

「あら、ひな。かのんなら、そこでぐったりしてるわよ」

「……うぅ」

「かのんさん~? どうかされたんですか~?」


 お昼時の時間だというのに机に突っ伏して、動こうとしないかのんに、ひなはトテトテと近づいて、首を傾げる。

 そんなひなに「聞いてよ~」と、かのんが今の状況を説明しだした。


「今度、演技のレッスンでテストがあるのー。それで、あゆみちゃんに教えてもらおうと思ったのに、あゆみちゃんが無理ってー」

「あゆみさんがですか~?」

「こら、かのん。それじゃ、あゆみが悪いみたいになってるわよ。実はね、あゆみに新しいドラマのオファーが来てるの。今までと違うキャラだから難しくて、役作りに専念したいからって」


 かのんの代わりに説明してくれたツバキに、ひなは「なるほどです~」と頷いてみせる。

 そして、しょんぼりしているかのんの頭を撫でてから、「ひなもお手伝いします~。だから頑張りましょう~」とかのんを励ました。


「うん。頑張る……頑張る!」

「そうね。あゆみが集中できるように、私達も頑張りましょう」


 その言葉に、三人は顔を向き合わせ、「頑張るぞー! おー!」と、ハイタッチを交わした。


☆☆☆


 そんな三人とは離れ、個人用のレッスン室で、あゆみは台本を読み込んでいた。

 しかし、その表情は暗く、あゆみの顔を見慣れていない人でも、“なにかあったのではないか”と、気になってしまうほどだった。


「どうしよう……。このキャラクター、わたしには演じられない」


 今回のドラマは、原作のないオリジナルドラマであり、台本を渡されるまでどんな役をやるのかが、あゆみには知らされていなかった。

 そのため、受けると決めた後に台本を渡され……あゆみは頭を抱えることに。

 なぜなら今回の役は、普段のあゆみと性格が似ている女の子の役だったからだ。


(前回演じた“みき”は、わたしと全然違うキャラクターだった。だから逆に、なりきる事が出来たけど……。今回のキャラは、わたしと似すぎてる。だから、どうしてもわたしが顔を出しちゃう)


 つまり、あゆみは、このキャラになりきれない。

 だから、求められている以上に感情が揺れすぎてしまい、あゆみは全然“演技”が出来なくなってしまっていた。


「どうしよう……。どうすればいいの……?」


 あゆみが零す言葉は、誰にも届かず、ただ狭いこの部屋の中で反響しただけだった。


☆☆☆


「わけわかんないよー!」


 あゆみが一人レッスン室で悩んでいる時、かのんはツバキやひなと一緒に、演技の特訓をしていた。

 しかし、かのんはいつまでたっても演技が出来ず……言ってしまえば完全な大根であった。


「かのん、まずは役を頭に入れるの。このシーンの時、このキャラはどんな気持ちなんだろうとか、そういったことを考えて」

「かのんさん~、頑張ってです~」

「うううう……考えるって言われても、別の人の気持ちなんてわかんないよー!」

「まぁ、普通はそうよね。だからこそ、それが出来る人はすごい役者なんだから」


 “例えば父やあゆみのような”と、そう考えてから、ツバキはふとドラマで見た“あゆみの演技”に違和感を覚える。

 まるで、完全にあゆみではないみたいな、役者に対して思うのは、少し不思議な違和感。

 そのことが気になって、ツバキはかのんに「ねぇ、かのん。あゆみって昔演技の勉強とかってしてたの?」と訊いてみた。


「あゆみちゃん? ううん、してなかったと思うよ」

「そうなの? それにしては随分と上手だったわね」

「うん。でも、それは昔からそうだったと思うよー」


 何かを思い出したみたいにそう言ったかのんへ、ツバキは「昔から?」と話を広げる。

 そんなツバキに、かのんは少し昔を懐かしむような顔を見せながら、「幼稚園の時に、学芸会みたいなことでお芝居をやったんだー」と話を始めた。


「シンデレラだったんだけど、あゆみちゃんはお姫様をやってて、すごい上手って褒められてたの」

「へえ、あのあゆみが主役をやるなんて。その頃から演技に興味があったのかしら」

「うーん……全然そんな素振りはなかったと思うけど……。たしか最初は主役とか嫌がってた覚えがあるし」


 困惑しながらそう言ったかのんに、ツバキは驚いた顔を見せる。

 そして、「それは少しおかしいわね……」と、口に出した。


「ツバキ、おかしいって何が?」

「初めて演技をする人は、照れや緊張が混じって、多少なりと演技臭さが出てしまうものなの。でも、あゆみがドラマで演じた役に、そんな素振りは一切なかったわ」

「はい~。ひなもこの間見ましたけど~、あゆみさん、すごかったです~」


 ツバキの言葉に、近くでずっと話を聞いていたひなが、笑顔で同意する。

 そんな二人を見つつ、かのんは“何がおかしいんだろう……?”と首を傾げていた。


「そうね……。仮に演技の才能があったとすれば、こんなに埋もれてる訳がないわ。少なくとも、入学試験のステージではもう少し良い成績を取っているはずよ」

「ステージ? 第六話この間のステージは凄かったけど……」

「ええ。演技の才能があれば、あれくらいは出来るでしょうね。でも、入学試験の時の成績はそうじゃなかったわ」


 そう言ってツバキはモバスタを操作すると、入学試験の時のステージデータを画面に出し、かのん達に見せる。

 そこには、各人ごとに審査員が審査した結果が、ランキング順にずらりと並んでおり、ツバキが一位、ひなが四位……そして、あゆみが真ん中辺りの二十三位にいた。

 ちなみに、かのんは学園長の特例で入っただけあって、最下位である。


「なんども聞いてたから知ってたけど、ツバキがトップって本当のことだったんだねー」

「当たり前でしょ? まぁ、もっとも全てでトップにはなれなかったわけだけど」

「それは~、本当にごめんなさいです~」


 困ったような顔で頭を下げたひなに、「別にいいわよ。ちょっとした冗談みたいなものだし」と、ツバキは笑う。

 そして、わざとらしく咳をしてから、「それよりも、あゆみの順位よ」とあゆみの項目を選択し、詳しい得点表を画面上に出した。


「よく見て。あゆみの得点はどれも平均的でしょ? もちろん、どこかの誰かさんとは違って、充分な合格点は出してるけれど」

「むぅ……。いいもん、私はこれからだもん」

「はいはい、分かってるわよ」


 むくれたかのんに笑いつつ、ツバキはかのんの頭を撫でる。

 そんな状況にのんびりと微笑んだひなを横目にみつつ、かのんはあゆみの演技を思い出していた。


(んー、そういえばあの時って、あゆみちゃんがなかなか台詞言えなくて先生が困ってたっけ?)


「かのんさん~? 難しい顔をして、どうかされたんですか~?」

「うん、そういえばって思って。たしかあゆみちゃん、劇の最初の方はすごく叱られてたような気がするなぁって」

「叱られてたって、先生に?」

「うん。でも、途中からすごい上手になって、先生も驚いてた気がするよ」


 かのんの話に、ツバキは眉間に手を当てて頭を巡らせる。

 そして、「もしかして、そういうことなのかしら」と、なにか思い付いた様に呟いた。


「んー? ツバキ、どうかしたの?」

「ええ、ちょっとね。あゆみがあんなにすごい演技を出来た理由に心当たりがあったの」

「ツバキさん~。才能とかですか~?」


 ひなの言葉に、ツバキは「一種の才能だと思うわ。でも、それだけじゃ役者はやっていけないの」と、少し焦ったように返す。

 そして、「こうしちゃいられないわ!」と、駆けるようにレッスン室を飛び出していった。


☆☆☆


「はぁ、どうしよう。かのんちゃん……」


 もう手の打ちようがないと言わんばかりに、あゆみはレッスン室の壁に背中を当てて座り込む。

 先ほどから何回も何回も、それこそ何回も台本を読んで演技してみても、そこには“等身大のあゆみ”が見えるだけで、配役されたキャラクターは影すら見えない。

 目印となる光もない闇の中を歩き続けるような、そんな感覚に、あゆみは遂に折れてしまい、こうして壁に寄りかかり、うな垂れることしか出来ていなかった。

 しかし、そんなレッスン室に、突然ガラッと音が響き、一人の少女が飛び込んできた。


「あゆみ! 大丈夫!?」


 そこにいたのは、あゆみが求めていた快活な少女ではなく、赤く燃える闘志を瞳に宿した少女……ツバキだった。

 ツバキは、力なく自分の方を見たあゆみに急ぎ足で近づくと、あゆみの身体をぎゅっと抱きしめる。

 そして、「大丈夫、大丈夫だから」と優しく語りかけた。


「ツバキさん? えっと、どうして?」

「オファーがあった役。あゆみ、演じられないんじゃない? ……あゆみと似ていて」


 身体を離し、まっすぐとあゆみを見てそう言ったツバキに、あゆみはビクッと身体を震わせる。

 そんなあゆみの反応に、ツバキは“やっぱりね”と、小さく息を吐くと、「あゆみはなりきることが上手なのよね? 特に、自分とは全然違う役を」と、訊いていく。

 全て分かってると言わんばかりの質問に、あゆみは無言を貫くことを諦めて「うん。そうだよ」と、答えた。


「わたしじゃないわたしになるのは、すごく簡単なの。だって、わたしはわたしに自信が持てないから」

「だから、自分を消して、他の人になり切れる。でも、」

「大丈夫、分かってるの。それだけじゃ、この世界は難しいって」


 「でも、」とあゆみは言葉を詰まらせる。

 そんなあゆみに、ツバキはわざと高圧的な態度を見せ、「だったら、この役を降りるの?」と、意地悪く訊いた。


「それは……」

「ほんと、呆れたわ。降りたくないなら、降りたくないって言いなさいよ」

「でも、わたしは、役が……」

「役を演じれるか演じられないかは、今関係ないの! あゆみは、どうしたいの!?」


 いつもよりも語気の強いツバキに、あゆみは少し涙目になりながらも「降りたくない、です」とハッキリ言い切る。

 その言葉を聞いて、ツバキは「なら、よかったわ」と笑顔を見せるのだった。


 それからあゆみが落ち着くまでの間、ツバキは横であゆみの手を握りつつ、“この後、どうしようかしら”と考えていた。

 正直、あゆみの演技力は自分に自信がない故の才能……だからこそ、こうして自分に似たキャラクターは演じられないわけで……。


「そうだわ! あゆみ、ちょっと付き合ってくれないかしら?」

「え? で、でもレッスンが……」

「どうせ、俯いて座り込んでるだけなら、出かけた方がよっぽど有意義だわ。ほら、早く」


 突然立ち上がり、手を引くツバキに、あゆみはされるがままに、レッスン室から連れ出されてしまう。

 そうして、ツバキが言うままに服を着替え、校舎から飛び出し……マイク先生の運転する車へと飛び乗った。


☆☆☆


「着いたわ!」


 そう言って車から降りた二人とマイク先生は、目の前にそびえ立つビルの前で、その大きさに少し圧倒されていた。

 しかし、その高さは三十階以上あるように見えるビルこそ、ツバキがあゆみを連れてきたかったビルだった。


「あの、ツバキさん……ここって?」

「ここは、ブランド“Dreaming Girl”の本社よ。あゆみはまだ挨拶に来たことがなかったでしょ?」

「そ、そうだけど。もしかして、行くの!?」

「もちろん!」


 驚いたまま、尻込みしそうになっているあゆみの手を引いて、ツバキはズンズンとビルに向かっていく。

 あゆみも少しは鍛えているといえど、子供の頃からしっかりと鍛錬してきたツバキにはかなわず、もはや引きずられるようにそのビルへと入っていった。


 そうして、受付でマイク先生が対応し、流されるままにあゆみはビルの最上階、三十五階に辿り着いていた。


「ようこそ。綺羅星学園の方々。私は“夢見せいじ”、“Dreaming Girl”のトップデザイナー兼社長をやらせていただいております」


 フロア一階分まるまる一部屋にしたような広い部屋の中心で、木製のデスクの奥に座った女性が立ち上がり、にっこりと笑いかける。

 トップデザイナー“夢見せいじ”と名乗った茶髪ショートの女性は、あゆみの姿を確認すると、とても嬉しそうにデスクを飛び越えて、すぐ傍までやってきた。


「あゆみちゃん! 来てくれてありがとう!」

「あ、え? 夢見さん、わたしのことご存じなんですか?」

「もちろんよ。あなたが持っている“リトルフラワーコーデ”は私の作品だもの」


 そう言って、夢見はデスクの上に置いてあったリモコンを操作する。

 すると、デスク横の空中に、ピンクを基調とした可愛らしいドレスが映し出された。


「この“リトルフラワーコーデ”は、花開く前のつぼみをイメージした、“Dreaming Girl”の特製ドレス。つぼみの持つ無限の可能性をピンクグラデーションで表現しつつ、未熟さをアシンメトリースタイルで見せているわ。キュートなのにどこかセクシーな、まさに大人になる一歩前の少女にピッタリのドレスよ」

「へえ、あゆみが着てる時も可愛いドレスだと思いましたけど、こうしてドレス単品でみるとまた違う印象がありますね」

「ええ、そうなんです。ですから、私としては成瀬さんのこと、結構注目してるんですよ」


 夢見はあゆみに笑いかけながら、そんな爆弾を落としてみせる。

 トップデザイナーが注目するアイドル……それはつまり、このブランドを背負うだけの実力を発揮する可能性があるということ。

 そんな事実に、あゆみはとても驚いて目を見開かせると、「そ、そんな、わたしが」と、顔の前で手をブンブンと振っる。

 しかし、あゆみのそんな姿にすら、夢見は強く頷いて「良い反応だわ!」とテンションをあげていた。


「ねえ、あゆみちゃん。夢に向かう女の子達はとても輝いていると思わない?」

「え、えっと……そう、ですね?」

「そうよね! だから私は、そんな女の子達が夢に近づけるようにお手伝いがしたいって思ったの。“Dreaming Girl”はそんな私の想いが詰まって出来たブランドよ」


 そう言って、夢見は誇らしげに胸を張る。

 そんな夢見に驚きつつ、あゆみは宙に映し出されていた“リトルフラワーコーデ”へと、もう一度目を向けた。


(可愛いけれど、どこか力強さもあって……)


「つぼみは、大輪を咲かせるために生きているわ。もちろんつぼみだけの力では、大輪は咲かない。雨や太陽のように、つぼみを育ててくれる存在や、しっかりと支えてくれる土も大事よ」

「……はい」

「あゆみちゃんが着てくれた時の“リトルフラワーコーデ”は、艶やかで愛情の強い花が咲いたように見えた。けれど、私はそれと同時に、まだまだつぼみな“あゆみちゃん”が見えた気がしたわ」

「わたし……?」


 夢見の言葉に、あゆみは少し驚き、夢見の方に顔を動かす。

 そんなあゆみに夢見は微笑み、「あゆみちゃんの未来は、あゆみちゃんにしか作れない。私達ができることは、ドレスを作ってあゆみちゃんの力になることだけ」と、頷いた。


「わたしの未来は、わたしにしか作れない……」

「あゆみちゃんはどんな花を咲かせたい?」

「……まだ、よくわかりません。でも、かのんちゃん……友達の輝きに負けないくらい輝いて、隣りに立っていたい」


 そう言ったあゆみの顔は、なんだか晴れ晴れとした顔で、夢見はもちろん、すぐ近くで成り行きを見守っていたツバキやマイク先生も、ほっと胸をなで下ろす。

 しっかりと夢を見据えたあゆみに、夢見は「もし俯いてしまいそうな時は、私のドレスを思い出して。きっと力になる」と微笑み、空中に投影していたドレスを消したのだった。


☆☆☆


「あゆみちゃん! 今日の撮影もよろしくね!」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 “Dreaming Girl”本社に行った日から、すでに一週間が経過し、あゆみは新しいドラマの撮影に大忙しだった。

 毎朝スタジオに入り、夕方まで撮影、もしくは見学を繰り返し、学校に行く暇も無いほどに、ドラマ漬けの生活。

 しかし、あゆみはへこたれることなく、少しずつ……少しずつ、自らの演技に力を付けていっていた。


「それじゃ、あゆみちゃん。第三話シーン二十七の後半、“あおい”の心境に変化が訪れるシーン、やってみようか!」

「わかりました」


 ドラマ“まだつぼみの君たちへ”は、原作のないドラマオリジナル作品で、あゆみ演じる“あおい”を取り巻く環境や、学校生活がメインの物語。

 第三話シーン二十七は、主人公“あおい”が、自分の想いを胸に一歩踏み出す、ドラマ序盤の重要シーン!

 たった独り、教室に差し込む夕日を背に受けながら、あゆみは口を開いた。


「きっと私には手の届かない存在だけど……諦めるのは、もう嫌なの……!」


 逆光に暗く陰っていたあゆみの顔が動いたことで、オレンジの光に当たり、目から零れ落ちる雫を輝かせる。

 そして一歩、また一歩と窓辺に近付き、あゆみは零れる涙も無視して、ふっと笑った。


「だから、もう諦めない。またいつか挫けてしまう時が来ても、この陽の温かさが、零れ落ちる涙が……つぼみだった私を、咲かせてくれるはずだから」


☆☆☆


 来月七月から放送開始となる、ドラマ“まだつぼみの君たちへ”は順調に撮影が進み、六月末のこの日、ついに放送直前会見が行われていた。

 主演であるあゆみはもちろん、監督や助演の方々なども参加し、ドラマへの想いや撮影の様子などを話しながら、つつがなく会見は進み……ついにクライマックスイベントである、あゆみの特別ステージの時間となった。


「わたしを支えていてね」


 舞台裏で、あゆみはモバスタに小さくキスをする。

 その画面には、“Dreaming Girl”の“リトルフラワーコーデ”が表示されていた。

 まだ小さなつぼみだとしても、目指したい輝きがある。


「成瀬あゆみ! 信じて、私の夢」


 見開いた目に光を灯し、あゆみはモバスタをセット!

 そして、逸る気持ちを抑えつつ、ゲートへと進んだ。



☆★☆“まだつぼみの君たちへ”放送直前会見特設ステージ -成瀬あゆみ- ☆★☆


 飛び込んだ先に広がっていたのは、青空がまぶしい、広々とした草原。

 その中に作られていたステージにあゆみが現れると、周囲からは歓声と拍手が鳴り響く。

 あゆみはそんな状況に少し驚きつつも、にこやかに笑みを浮かべた。


 ――


   私の紡ぐ ステップの物語

   あなたに見せたい もう一人の私

   情熱的で でもどこか儚げで

   あなたの知らない もう一人の私


   いつだって 二人は一緒にいた

   だけど時は無情に 二人を遠ざける


   ねぇ、私はここにいるわ

   あなたを見ているわ

   ひたむきで 輝いた あなたを見ているわ

   いつかまた二人が ともに夢を見て

   並んで歩ける


   そんな日をずっと 待っている

   道よ交われ ロマンチカ


 ――


☆☆


「あゆみちゃん、可愛いね」

「ええ、本当に。悠久ロマンチカこの間と同じ曲だけど、印象が全然違うわ」

「わ~、あゆみさん。素敵です~」


 ステージで歌い踊るあゆみを、三人は教室の中、モバスタを通して見ていた。

 会見特設ステージなだけに、直接は見れなかったものの、ネット上で配信はされており、三人とは違う場所ではあるものの、マイク先生や学園長もまた、このステージを見て頷いていたりする。

 そんななか、“やっぱり、意識の違いがステージに現れてるのね”と、ツバキはひとり頷いて、優しく微笑んだ。


「ツバキ、なんだか嬉しそう?」

「そう?」


 「たぶん、だけど」と曖昧に答えたかのんに、ツバキはまた笑い、「たぶん、そうかも」とモバスタへと視線を戻す。

 そこには、ステージを終えて笑顔を見せる、あゆみの姿が映っていた。


☆★☆次回のスタプリ!☆★☆


 あゆみがドラマの撮影を頑張っていた六月中旬。

 その裏では、ツバキのお気に入りブランド“Crescent Moon”では、とあるオーディションが開催されていた!

 

 第十二話 ―― 三日月のアイドル ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る