『拾ったバイクと元ヤン彼女⑥』


 翌日の早朝にコンビニへ出勤した。


「お早う、田辺君」

「お早うございます。店長」

「ああ、紹介しておくよ、こちらが新しくアルバイトに入った福山充ふくやまみつる君。大学三年生だそうだ」

「福山です。よろしくお願いします」

「田辺光一です。十八歳です。よろしくお願いします」


 見た目は線が細くて優しくて真面目そうなどこにでもいる大学生と言った印象だ。眼鏡こそ掛けていないが長い髪をナチュラルに分けた気の良いお兄ちゃんと言った雰囲気である。


「それじゃ、田辺君。少し福山君に仕事教えて貰えるかな」

「はい」


 僕は作業を教えながら開店準備の清掃を始めた。

 会話をし始めてすぐに判った。福山さん見た目通り真面目で気の良い人だった。僕達はすぐに仲良くなり互いの話をする仲になった。

 ただし、彼は今時の大学生らしく「いやー、連日コンパばかりでお金なくなっちゃってさ……。逆にバイトに入ってれば断る理由にもなるし一石二鳥でしょ。ははは」と、ちょっと乗りの軽い人だった。


 少し遅れて生島さんも出社して来た。

 福山さんは「お姉さんみたな美人と仕事出来て本当に幸せです」と言い寄り生島さんに思いっきり引かれていた。まあ、勤務態度自体は真面目そうなので良いムードメーカーになりそうな人である。

 僕と生島さんは交代で彼にレジ打ちや商品補充や整理の仕方を説明した。



「おう、光一。勉強やってるか」


 夕方になり美香さんがお店にやって来た。


「はい、お陰様で問題集四十五点はコンスタントに取れるようになりました。あ、そうだ今日用意してたのでお金払います」


 僕はポケットの中から用意していた封筒に入れたお金を美香さんに手渡した。


「おう、毎度あり。ところで……」

「はい?」

「後ろで青い顔してぶるぶる震えてるのはなん?」


 後ろを振り向くとバックヤードの物陰から福山さんが覗いていた。


「新しくアルバイト入った福山さんですよ。あ、逃げちゃった……」

「ま、良いか。おうラッキー一つくれ」

「はい、ありがとうございます」

「あら美香ちゃん。いらっしゃい」

「おう、チナっち。よろ」


 その時、福山さんと入れ替わる様にして生島さんがバックヤードから出て来た。僕は煙草の代金をレジに打ち受け取った。


「……んでよ、んでよ、そしたら店長がよ……」「え? でもそれって……」美香さんと生島さんのカウンターを挟んでの世間話が始まってしまった……。この二人は本当に仲が良い。お店には他に人も見当たらないので問題は無いだろう。


 僕はそっと後ろに下がりそのままバックヤードに引っ込んだ。ん? 倉庫の隅で福山さんが青い顔をして震えている。


「どうかしましたか」僕は福山さんに声を掛けた。

「いいいい、今の人。もしかして久留世モータースの美香さん」

「ええ、そうですよ。それがどうかしました」

「田辺君知らないの?」

「何がですか」

「彼女はアンタッチャブルと呼ばれてたんだよ」

「アンタッチャブル? それってどういう意味ですか」

「触らぬ神に祟りなし……。最近この辺りで見かけないから大丈夫だと思ってたのに。僕は何て不幸なんだ……」福山さんは頭を抱えた。

「大丈夫ですよ。美香さんそんなに悪い人では無いですよ」

「でも、先程お金渡してたよね。もしかして、タカられて……」

「違いますよ! さっきのは僕のカブのタイヤの代金ですよ。それに今、あの人に修理も教えて貰ってますよ」

「そうなの……」

「はい」

「そうなんだ……」


 落ち着きを取り戻した福山さんは訥々とつとつと語り始めた。


「僕はこの山の麓にある高校の出身なんだけど。そこの先輩達がいつも噂をしてたんだよ。久留世モータースのミカチナコンビには絶対手を出すなって。恐ろしい目に合うからって」

「へー、そうなんですかー……」棒読み気味に答えてしまった。


 僕は運よく今回美香さんの難を逃れた福山さんが、すでにチナさんの方に手を出している事を黙っておくことにした。

 それにしてもミカチナコンビって……。あの人たちは何をやらかしたのだろう?


 それからしばらくして夜の人達と交代して僕はコンビニを後にした。そして、家に帰り明日の試験に備えて勉強した。



 翌日、朝から母の車で免許センターへ訪れた。午前の試験開始は十時から。母にはそのまま買い物に行ってもらい、僕は受付で受験料を支払った。そして、試験会場に入り問題集を読み最期の詰め込みをした。


 〝ビー〟とブザー音が鳴り、荷物を全て足元に置くように指示された。問題用紙と○×式のマークシートが配られる。


「それでは始めてください」試験官の号令と共に試験が開始された。


 問題自体は左程難しいものはなかった。むしろ、問題集と全く同じ文言の問題が多くあったのに驚いたくらいだ。判断に迷ったのは三問程だった。僕は確かな手ごたえを感じたまま試験を終えた。


 喫茶スペースでジュースを飲みながら三十分程時間をつぶす。結果発表を見る為、試験会場の前にある電光掲示板へとやって来た。


「これから発表を行います。合格者は受験番号表と引き換えに受付で申請用紙の確認を行ってください」先程の試験官が大声を上げた。


 僕の番号の明かりは無事点灯した。受付に並びプリントアウトされた申請用紙の内容を確認して再提出。

 そのまま列に並び免許が完成するまでの間に適性試験と原付講習を受けた。


 一時間ほどして受講料と交付手数料を支払い、真新しい免許を受け取った。

 渡された免許証には原付とだけ書かれたいた。


 初めて手にした免許証は自分が社会の一員として認められた証に見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る