『拾ったバイクと元ヤン彼女⑦』
「免許取りました」
「あら、おめでとう」
翌朝、僕はコンビニで生島さんに原付免許の取得を自慢した。
「だったら、早くあのカブ直さないといけないわね」
「そうですね。取り敢えずキャブを直せば動くようになるそうですから。修理して登録を目指したいと思います」
「がんばって」
「はい。あれ、そう言えば。今日は福山さん来てないですね」
「うん、今日は外せない講義があるらしいわよ」
「そうですか……」
どうやらあの後も福山さんは
今日は店長もおらず、もう一人の女性店員である
夕方になり、〝ピポピポパポーン ピポピポポーン〟とチャイムが鳴る。
誰も見当たらないのに自動ドアが開き、ゆっくりと閉まっていく。別に心霊現象でも何でもない。
カウンターの下から小さな手が出てきて黄色い帽子が見えてくる。
「ママー!」
辻井さんのお子さんの
「あらあら、まあまあ。頼音、そこに登っては駄目ですよー」
「うん」
辻井さんがバックヤードから飛んできた。
ちなみにこの頼音君は非常に聡明で大人しく聞き分けの良い子供である。では、何が問題かと言えば……。
「頼音君! いらっしゃいー」
生島さんが猫可愛がりするのでレジに立ってくれなくなるのだ。これから夜のシフトの人達が来るまでの約一時間、僕一人でお店を回さなくてはいけない。
「はあー」思わずため息をつてしまった。
「おいおい、しけた
気が付くと美香さんが丁度店内に入ってきた。
「あれ、美香さん。今日は早いですね」
「おう、近くに配達があったからな。今日はそのまま上がりだ」
「そうですか。あ、免許は合格しました」
「そりゃよかったな。んで、何で暗い顔してんだよ」
「いえ、今、頼音君が来てまして……」
「何……」
そう言って美香さんはお店の奥へと行きプリンとポッキーをレジに持って来た。僕は無言でレジを打つ。
「おう、ちょっと邪魔するぜ」
美香さんはそう言い放ち問答無用にバックヤードへ入って行った。
「あら美香ちゃん」「おう、頼音元気かー」「わーい……」バックヤードから楽し気な会話が聞こえてくる。
もう勝手にしてくれ……。僕は無人の店内で商品の整理を始めた。整理をしながら補充品のチェックをしていく。
ん? 気が付くと今度はレジの前にパピコを持った頼音君が立っていた。
「買うの?」僕は聞いてみた。
「うん、これ頂戴」
「百円だよ」
「はい」
僕はお金を受け取った。頼音君はその場で袋を開けて一本だけもぎ取ってリングを引っ張ってキャップを外した。そしてパピコに齧り付く。
「お母さんたちは」
「中でお話してる」
「そっか」
「ねえ、お兄ちゃんは何で一人なの」
「ん? それはね……みんなが仕事してくれないからかな……」
「ふーん、でも大丈夫だよ。僕がちやほやされるのは幼稚園のうちだけだから」
「え……?」
「小学校に上がったらきっと皆には相手にされなくなるよ」
「そ、そうなの……」
「うん、だから今度はいっぱい勉強して優秀な成績を取って注目を集めるんだ」
「……」
「これあげる」
そう言ってもう一本のパピコを僕に差し出した。
「ありがとう……」
「どういたしまして。それじゃお兄ちゃんお仕事頑張って」
「うん」
そう言い残し頼音君はバックヤードへ消えて行った。
頼音君は想像以上にませたガキだった……。
それから幾人かのお客さんの相手をしてやっと夜シフトの人達が出社して来た。引継ぎを済ませ辻井さん達は先に帰って行った。ほっこりと癒され顔の美香さんと生島さんが二人揃ってバックヤードから出て来る。実に幸せそうだ。
どうしようこれから美香さんのところに行って……。と思案をしていると美香さんが話しかけてきた。
「あー、すまねえ光一。今日はこれから妹の買い物に付き合う約束しちまった」
「え? 妹さんいたんですか」そっちの方が驚きだ。
「ああ、ちょっと歳が離れてるんだがな。あたいの所為で一杯迷惑かけてっから約束は破れねえんだ」
「いやいやいや、いいですよ。そっちを優先してください」
「ああ、悪りーな。何なら明日は大丈夫だ」
「でしたら明日の夕方に伺います」
「おう、そうしてくれ」
そして、その日の仕事を終え、僕は家へと帰って行った。
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