『僕と彼女の青い空③』
こうして僕達は一緒にロングツーリングに出かける事になった。
日程は彼女の休日に合わせゴールデンウイーク中の四日間とした。その日程で行ける場所……。
目的地は四国・高知県・室戸岬に決定した。
雰囲気を味わう為、基本キャンプツーリングする予定である。
僕はソロで何度もツーリングに行っているので勿論、道具類は揃っている。テントだけ二人用の物を買い足せば問題は無いだろう。
しかし、音羽の方は初めてのロングツーリングだ。先ずは色々と揃えないといけない。
早速、翌日の就業後に二人でキャンプ用品店へと向かった。
先ずは二人用テント。収納サイズ・重量と機能性を考えて前室のあるモンベル社製の物を選んだ。
次に寝袋。メンテナンスと保温性を考えてスリーシーズンのマミー型で化繊の物をチョイスした。
収納性の良いインフレータブルマットも必需品である。
ストーブは緊急時を考えて赤ガスが使用できる物。コッヘル・食器類は携帯性と使用後の洗浄を考えて選ぶ。ライトは両手が使えるヘッドライト……。
「こんな物かな……。収納は家で使ってない予備のタンクバッグとシートバッグがあるからそれを使うとして、後はナイフかな……」
「ナイフ? 何に使うの」
「色々さ……。例えば料理や薪の枝打ち。ロープを切ったり、食器にもなる」
「ふーん、それでどれが良いの」
「初心者はオピネルかな。値段も安いしメンテも楽だし」
そう言って僕はオピネルの#9ステンレスを手渡した。
「フランスでは子供が成長して最初に渡すナイフがオピネルなんだ」
「ふーん、良く知ってるわね」
「うん、ファーストナイフって言うらしい。という事で、これは僕がお金を出すよ」
「私を子ども扱いするのね」
「違うよ、怪我をしませんようにと願って渡すんだよ。そう言う風習」
「ふーん……」
どうやら彼女の機嫌も良い様だ……。微妙にぎこちない笑顔を浮かべてる。
このツーリングの話をしてからはふさぎ込む様子も見られなくなった。良かった一安心だ。
そう、もう旅は始まっているのだ。
旅に出かけると決めた時から旅は始まる。予定を立てて準備を始めて、その間のドキドキやワクワクもすでに旅なのだと僕はそう思う。
幾先の景色に思いをはせる。その先の出会いに希望を抱く。それがすでに旅をすると言う事なのだ。
彼女にもそんな気持ちが伝わっていると思っておこう……。
そして、翌日は百円ショップに行って消耗品を買いそろえ、バイク用品店で荷張りコードとオイル類を買ってきた。
その次の日の休日はバイクのメンテナンスを行った。
二人のバイクのオイルを交換して、ケーブル類に注油する。サスのグリスも練り込んで、チェーンのオイルを吹き付ける。ボルトの締め増しをして各部に問題が無いかチェックをしながら清掃する。
ブレーキパッドやチェーンのハリも問題ない。タイヤも八分は残ってる。
後は実際に荷物を
「あれ、荷物はこれだけ。何か少ない様な気もするけど」僕は音羽に質問した。
「残りはディバックに入れて背負うつもりよ」
「それは駄目だよ。ロングツーリングの場合はウエストバッグ以外は身に付けない」
「どうして」
「荷物を背負うと疲れるんだ。特に長距離になるとね。だから極力荷物は身に付けない。財布に携帯。あとライトにナイフ。それ以外は基本バイクの方へ乗せるんだ」
「わかったわ」
荷物をまとめ直し、バイクに縛り付けてみる。固定もしっかりできている。
「うん、これで良し。音羽、乗ってみて」
「ええ、でも、これ安定しないわ」バイクを左右に振りながら音羽が答える。
「タンデム(二人乗り)してる時と同じだよ。少し前の方へ座ってバランスを取る。バイクはなるべく寝かさない。止まる時もバイクを倒すとあっさりとコケてしまうから注意して」
「わかったわ」そう言って音羽はXRのセルを回した。
音羽を乗せたXR250は問題なく走り出す。最初はふらつきながら……。次第に安定していく。その辺りを一周して帰ってきた。
「どう?」
「まだ、不安定だけど何とかなりそうよ」
「そう、後は常に重心を意識するのと、ブレーキの制動距離を多めに取る事を意識する。それ以外は走ってるうちに次第に慣れてくるよ」
「ええ、わかったわ」
「来週が楽しみだね」
出発は四月の最終週、来週の日曜日。そこから四日間がツーリングの日程だ。
「ええ……」
何故か気のない返事が返ってきた。
「もしかして、不安」
「そうね……今はまだ怖いかしら」
「心配しなくても大丈夫だよ。僕も一緒に行くのだから。すべて大丈夫とは言わないけど、大抵のトラブルは経験済みだ。だから任せて貰えばいいよ」
「ええ、わかった」
「旅を楽しもう」
「はい」
そして、ツーリング初日。
その日は朝から雨が降っていた……。
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