第一部 勇太side⑨ 森のきのこ
「勇者様、ここから先は慎重にいかなければなりません。もう魔王の国ですので村に泊まる事もできませんので今日からは野宿になると思います。」
森の中の小さな空き地なような場所に荷を下ろす。野宿か……まぁ我儘も言っていられないだろう。仕方ない。
「野宿だって!?なぜ私がそんなことをしなければならない!私は貴族だぞ!?」
お前は貴族じゃないだろうこの中二病め!つーか嫌ならなんで着いてきたんだよマジで!
「嫌ならお帰り頂いて結構ですので。」
俺と全く同じことを思ったらしいサラさんがボソッと零す。目が死んでる。大丈夫か!?
そう言われてはレオンも言い返せないようで渋々自分の上着を地面に敷いてその上に座る。
マスカットさんは手慣れているようでサラさんの火起こしとかを手伝っている。なんかキャンプみたいだな。普通の状況だったら楽しめそうなんだけどなぁ。グダグダしてはいるが俺は3日後には魔王と対峙しなければならないのだ。本当に大丈夫だろうか。いやまぁここまで来たら逃げれないしなんとかやるしかないんだけどさ……不安だ。もし倒せなかったらどうしよう。もし死んだらどうしやう。死んでそのまま帰れないのが一番の悲劇だそれだけは避けないと。
今のところ魔王も人を殺しているという話は聞かないから大丈夫だと信じたい。もしやばかったら全力で逃げよう。そしてできそうなら倒そう。
そんな緩い決心をしながら俺は3日後のことについて思いを馳せた。
国境を越えて2日目。初めての野宿でちょっと身体の節々が痛いようにも感じるがまぁ大丈夫だろう。
それよりも心配なのはサラさんだ。顔色が悪く、どこか上の空。どうしたのか聞いても大丈夫の一点張りでは仕方ない。仕方ないから俺とサラさんとマスカットさんで山手線ゲームをしながら歩く。因みにレオンは一人で喋っている。
流石に国境を越える前よりは警戒をしているが、そこまでではない。山手線ゲームしてるしな。
相変わらずの森で鬱蒼としているのはいつもだが今日はより鬱蒼としているように見える。太陽が見えないからだろうか。雨でも降りそうな天気だな。
サラさん達も思ったのか普段より少しだけ歩調が早い。俺もそれに合わせて少しだけ早歩きをする。しかしそんな俺らを嘲笑うようにぽつりぽつりと雨が降り始めた。
生憎傘やらレインコートやらみたいなものはない俺たちは、大きく、あまり葉と葉の間に隙間がない木の下に入った。小さな雨粒がたまに落ちてくるくらいでほとんどの雨は凌げているようだ。あー早く止んでくれよ。
走るタイミングで山手線ゲームも中断してしまったのでなんとも言えない空気が漂う。いやまぁレオンはなんか言ってるけど。あーなんか気まずい。どうしよう。
なんてボーっとしていると急に誰かが木の下に入ってきた。
「あー凄い雨だ結構降られちまった!」
50、60代くらいのおじさんだ。しばらく自分の頭を拭いていた彼が顔をあげると俺たちと目があった。
「えっと……どうも。」
軽く会釈をする。これ大丈夫かな?敵に見つかったみたいになんないかな?なんて不安なことを考えるがそれは杞憂だったようでおじさんはニカリと笑って声をかけてきた。
「先客がいたようだね、どうも!」
俺は戸惑いながら、苦笑いをする。
「いやぁそれにしても凄い雨ですねこれは。急に降られるから困っちゃったよ!」
「そうですね、結構急でしたから……」
サラさんもレオンもマスカットさんも僅かにおじさんを警戒しているように見える。まぁ敵国の国民だからな。
でもこの人からはそんなに悪い感じはしない。なんか田舎の農家にいる陽気なおじさんみたいな雰囲気だ。背負った籠にはキノコみたいなのが入ってるからキノコ狩りの帰りみたいな感じなのかな?
「ん?にいちゃんキノコ好きなのか?」
「あ、いえそういうわけでは……」
ジッと見てたから勘違いされてしまったようだ。俺は別にキノコ好きではない。どちらかというとタケノコ派だ。
俺の言葉にショックを受けたようにおじさんは目を見開く。
「あんたキノコ好きじゃないのかい!?なんてもったいない!!ちょっとうちへ来な!!上手いキノコ食わせてやっから!!」
おっとこのおじさんはどうやらキノコ過激派だったらしい。
流石にここは敵国。良い人そうではあるが家に入るのはやめておいた方がいいだろう。
サラさんもレオンとマスカットさんも絶対やめろみたいな目してるしな。
「いえ、せっかく誘っていただきましたが申し訳ないので……」
「申し訳ない訳ないさ!キノコ好きが増えるんならむしろ得ってもんよ!!ほら、俺の家すぐ近くだからこんくらいの雨だったら突っ切っていけそうだ!行くぞ!!」
「え、いや、ストップ!ウェイト!ウェイトォォォオオオオオオ!!!!」
「えっ!?ゆう……!ま、待ってください!!」
「っ!!我が同士よ!今助ける!!」
「嘘でしょ!?何やってるのもぉ!!!」
そして俺はおじさんに肩を組まれ、半強制的に家へと連行されていった。つーか雨凄いって言ったよな!?あんた雨宿りしてたよな!?なんでいけると思ったんだよ!!
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