第一部 麗side⑦ 騎士団

 今日は騎士団に行きます。

 俺はペンを置く。やばい、来てからもう一週間たった。何がやばいって、時間が経ったのに気が付かないことと、何もしてないということ!買い物と、仕事しかしとらん。大人になったらこんな感じなのかな。いやもっと仕事が忙しいのかね、こんなのんびりはしねぇな、どうだろう?

 あー、時計がないと不安になる。もう寝なきゃいけないのかどうかとか。

 本当にこの世界時間意識なくて、どっちかというと、やらなければいけないことから成り立ってるとみえた。だからケンタさんも、いつ時間を取ろうじゃなくて、あそこまで仕事が終わったら連絡しようって思ってるんだな!待ってるこっちの気にもなってみろ!

 俺がイライラしてもしょうがないけど。

 ポジティブポジティブ。あ、1つ進展があったね、昨日仕事が見事に終わり、それを騎士団に届けることになった。犯罪者の刑をずらっと書いた紙と騎士団になんの関係があるのかわからないけど。

 フィストさんとは初めて彼と出会ったお店、というかバーで待ち合わせてる。時間わかんないから、テキトウに行くことになる。普段だったら人を待たせることを懸念してできるだけ早く行くけど、今は先に行ってフィストさんを待つほうが辛い。悪いけど、ギリギリまで部屋に留まるつもりだ。



 とはいえ、待たせてると思うと部屋の居心地も決して良くなく、程なくバーに向かう。バーまで行くのは慣れた感ある。そういや俺は、馴染もうと思う気持ちが大きいかもな。いいのか悪いのかは知らんけど。

 案の定、フィストさんは先にいて、いつかの日のように書類とにらめっこしていた。騎士団と言っても色々あるんだろうな。

 んー、この前と同じ、ように思われる、緑のパーカーを着てる。

 恥ずかしがってもしょうがないので、頭を空にして話しかける。

「フィスト、おはよー。」

「おはよう。」

 フィストさんは書類を片付け始める。

「お待たせ……遅くなってごめん。」

 え、何でそこで不思議そうな顔をするの?めっちゃ普通だったよね!?

 やっばりこの世界の礼儀価値観がわからん。

 俺はカウンターの隣の席に座る。



 そしてこれだよ。慣れたと思っても慣れない!

 無限に階段を下り続ける。18階建てだっけ?ん、違うこと考えよ。ああ、これから騎士団に行くんだよね。さっき仕事を見直したけど、よくこなしたと思う。やっぱりフィストさんとやると捗るし?うんうん

 ……

 思ったんだけどさ、フィストさんとの話しやすさは前と全然変わってないんだよな。なんでだろ。むしろ、初めの方が話そうという意識があってよかった。

 初心忘れるべからず、ってかぶっちゃけ暇だから、話しかけてみる。

「あのさ、騎士団までどれくらいある?」

「もう少しだから頑張れよ。」

 なんか応援された。ん?てことはこのビル内にあるっぽい感じ?

 とりあえずテキトーに返しとこ。

「いやさ、下りるのはいいけど上るのはきついなって。」

「まあな、俺は騎士団の訓練やってたら慣れたけど、こんな時飛べたらいいよな。」

「確かに。」

 そこで、何かの音が聞こえてくる。機械音、色々あるな、高い音から低い音まで、壁の方から響いてくる。階段を二曲がりするたびに各フロアがちょっとずつ見えてたんだけど、見えなくなっった。工場とか?灰色のコンクリート壁を見ながら考える。

「訓練所か、懐かしいな。レイは、15歳だっけ?」

「うん。」

「じゃあ、検魔場の方も行ったのか?」

「んん。」

 んんん。検魔場って何!?これはピンチ、濁し方が酷い!

「え?」

 聞き直すな!誤魔化したのに!!えっと、

「まあね。」

 何がまあねなんだよ!本当に嫌になる!なんだこれ!

「まだ行ってないのか?」

 そうだよー。もう何も答えたくなくて、ただ頷く。

「じゃあ能力をまだ知らないのか?あ、自分で見つけた人か?」

 これはバレたな。ごまかせるかもしれないけど、本来の目的をわすれちゃいけない。もういいや、どうにでもなれ!

「ねえ、能力って皆持ってるの?」

「え?そりゃな、大丈夫だ、お前も何かしらもってるはずだぜ。」

「なんで?」

「なんで?ってどういうこと?」

「ううん、気にしないで。じゃあ、能力って遺伝するの?」

「ああ、だからお前も親の能力から自分の能力予測したらいいんじゃねえか?」

 遺伝か……そうだろうな。

 それとフィスト、さっきから俺のこと、まだ自分の能力を見つけられない人だと思ってるけど、訂正したほうがいいかな。もしかして、このまま正体を明かさずいけるかな。

「あのさ、どんな種類の能力があるんだろ。」

「そうだな……多いのは、やっぱ、名前を書いてどうにかするやつとか、特定の物質をどうにかするやつかな。わかんね、色々あんだろ。」

 うーん、色々あるのか。

 お、階段も終わりかな?うっし。

「なあ、お前の両親の能力聞いてもいいか?」

「……わかんないんだよね。」

「ああ、そっか。」

 鉄の扉を開けると、片壁が透明になった通路がある。ガラスの向こうからは、大きな音が聞こえてくる。天井はとても高い。そこで、何人かの人が動いている。

 一人が、思いっきり飛び上がった。そして、天井付近までいく。

 超能力……凄い、こんなの普通に生きていて見ることになるとは。どういう能力なんだろ。

「ここは、訓練所だ。」

 俺は、振り返らずいきなり話し始めたフィストさんの方を見る。

「……レイ、ファミリーネームを聞いてもいいか?」

 どうしたんだろう。やっぱり怪しかったか、でも疑われるのは覚悟の上だから何も怖くない。

「榊、だけど。」

「そうか。」

 それきり黙ってしまう。

 ビルの外に出ると、程よい快晴。思わず後ろを振り返って、ビルの上を見上げる。成る程高い。フィストが、行くぞと声をかけてくる。俺はポケットに手を突っ込んで、後を追いかける。

 フィストは俺を見たまま、待っている。

「レイ・サカキ。お前、あの国から来たのか?」

 まあ困った。なんだか申し訳なってくる。

「どう思う?」

 俺は、足を進めながら、問うてみる。フィストも足を動かしながら、答える。

「違ったら悪いんだけど、この国では普通フルネームを言わないだろ。それに、15歳でまだ検魔場にもいってない、ましてやこのビルに来たのも今が初めてとみた。なあ、お前はどこから来たんだ?」

 この状況で不自然にならないようにするなんて不可能だろうよ。

「フィスト、俺がこれから話すことをなかったことにして欲しいんだけど……?」

 傍白。

「それは、約束できないな。」

 正直だね。

「騎士団員として、念頭に置くのは国の平和だからな……まあ、行くぞ。」

 何かのスタジアムのような建物の入り口へ入っていく。ドアがなかった。

 中では人が数人行き来している。皆そろって緑のジャージを着ている、制服、か。

「団長、判決表持ってきました。」

 フィストさんが、大きな声を出して呼ぶ。

 誰も返事をしない。そのまま受付、のカウンターみたいなところに歩いて行って、もう一度声をかける。

 「団長、起きてください。」

 俺もこっそりカウンターの奥を覗いてみると、おじいさんが倒れている。え、寝てるってことだよな?団長さんは疑うほど微動だにしない。

 いきなりフィストさんが跳んだ!能力かと思ったけど、普通にカウンターを手を使って飛び越えただけっぽい。そして、団長を揺さぶって起こす。

 流石にこれでは起きたようで、立ち上がる。団長大丈夫なのか?

「何の用でしょう。」

 俺は手に持っていた書類をカウンターの上に置く。

「あ、判決表です。」

 団長が俺の顔をじっと見てくる。俺も見返す。何なんだ、この人。

「君、名前は?」

「麗です。」

「……」

 え、もうほんとに何?

「見かけない顔ですね。何方ですか。」

 どなたですかだと?それは難しい質問だ。俺は榊麗以外の何者でもないんだけど。それを知らない人に自分がだれかをどう伝えるってんだ!

「あー、こいつは俺が今面倒見てるケンタ様の従弟です。」

「ほう……そんな時期だな」

 このじいさん、爺さんポイんだか、なんなんだか。髪の毛が紫だからすごい違和感ある。

 フィストさんは続ける。

「団長、もしも親の能力がわからない場合ってどうやって調べればいいんでしょうか。」

「それは検魔場に行くしかないだろう、親の能力を知っていたところでわからない人はわからないからなあ。……それは誰の話じゃ。」

「え、いや……」

 黙って聞いてたけどもしかしてそれ、俺じゃないっスか☆

 なんだかんだ、やっぱり気にしてくれてるのかなあ、一応世話係なわけだし。

「フィスト、今回は君がお世話役なんだな。いいかい、彼は能力がないどころかこの国のことも知らない。しっかりとサポートするんだよ。」

 おうおうおう。団長!!!俺がもったいぶってたところをいとも簡単に漏らしやがって!でも、この人はどういう存在なんだ?

「あの、団長さん、どうしてご存じなのか伺ってもいいですか?」

「ケンタ様から聞いているのです。私が一度不法入国者としてとらえてしまったことがありまして、事情を話してくださったというわけです。」

 成る程、召喚したのは一度じゃないのかな。あ、てことはケンタさんの能力は召喚?

 それとやっぱりケンタさんのポジションが気になる。やっぱ王様な気がしてきた。聞いとけばよかった。

「団長さんってもしかして全国民の顔を覚えてるんですか?」

「ええ。」

 ええ、予想外……じゃなくて予想通りの回答だね。

 団長がなぜか笑う。

「まあ、能力を使ってるんですけどね。一度見た顔は忘れないんです。」

 おおー。その能力は意外と便利そう!

 するといきなりフィストはピシッと立って告げる。

「俺の能力は体から熱線をだす能力です。」

 おー。ってどうしたんだろ、突然。

「レイさん、ここでは普通能力を隠すので、一人が能力を教えたら、お互い漏洩しない約束の上でもう一人も教えることがあるんです。まあ騎士団の人は8割能力を公開していますけどね。」

 そうなのか。じゃあ結構俺失礼なこと聞いちゃったのか。

「能力を聞いてしまってごめんなさい。」

「いえいえ、お気になさらず。あなたが能力を使えないというのを言っている時点で、あなたの能力を暴露しているようなものですから。もちろん内密にお願いしますね。」

「もちろんです。」

 フィストも険しい顔をしながらうなずいている。

 その後は、ちょろちょろと騎士団の話を二人がしていて、俺はそばでただ聞く。

 出た後は気まずくなるだろうな。って覚悟していたけど、円盤状の建物を出た瞬間、フィストから話しかけてきた。

「さっきは、疑ってごめんな。」

「いや、疑って当然でしょ。正直まだ話せないことも多いし。」

「それはいいんだ、俺には関係ないし。」

 なんか仲直りした気分。でもフィストさんとはだいぶ年が離れているだろうから、気分は友達とまではいかないね。

「そうだ、俺はフィスト、スフィだ。さっき名乗らせちゃったからな。」

 そんな、いいのに。

「ありがとう。ねえ、どうしてファミリーネームを名乗らないのが普通なの?」

 よーし、俺が何もわからない事情がばれた今、質問し放題タイムがやってきたぜ。

「それはさ、フルネームを書いて、その人をどうこうできる能力タイプの人がいるんだ。だから、家族とか信用できる人以外には教えないのが普通だな。」

「なるほど。俺らはそのタイプの能力じゃないし、他言しなければ問題ないってことだね?」

「そうだ……言わないよな?」

「もちろん、フィストは?」

「言わないぜ、お前の能力関係についてもな。」

 まあ約束を最初から破るつもりの人って少ないけどね。なんだかすっきりした。

 そうだ、こうなったらフィストの能力について聞いてみようかな。

「あのさ、フィストの能力について聞いてもいい?あ、やめとく?」

「いや、いいぞ。……何について聞きたいんだ?」

「うーん。具体的にどういう能力なのか、とか、いつ使うのか、とか?」

「ああ、俺の能力は体から熱線を出せるんだ。簡単にいうとビームな。詳細についてはあんまり人に話さないほうがいいからな……」

「あ、じゃあ聞くの止めとく!」

「ごめんな、そうだ、俺は騎士団で能力を公開して使ってるから、今度見に来ていいぞ?」

「え、すごい。それは時間があったら是非行かせてもらいたい!」

 正直行かなくてもいいかなとか思っちゃってるけど、せっかくの機会だし、行くべきだ。こういう時に面倒くさがるようになったら、後で後悔するかもしれないし。今だけしか行けない、行ったらきっと楽しい!まあ、誰かと待ち合わせたり、タイミングを見計らうのが面倒なのがこの世界なんだけど。

「あのさ、自分の能力がいらないって思ったことってある?」

「それは……ないな。この能力があってこそ俺は騎士団で働けている。まあ、他の能力も楽しそうだなとは思ったことはあるがな。」

 それならいいよね。

「誰か他の人の能力で、嫌な思いをしたこととかは?」

「……思い当たることはねえけど、能力がらみの事件はあるな。今回の仕事で扱った事件とは別に事件簿がある。刑が重いから、件数は少ないな。」

「へえ、、あ、じゃあさ、能力を使った失敗談とかあったりする?」

「……ないな。」

 あるのか……でもこりゃ聞いちゃいけない感じ。まあいいや、これくらいしとこう。

 ビルの中に入ると、さっき訓練していた人たちの姿は見えない。

「昼飯でも食ってるんじゃないか?」

 フィストさんが察して推測してくれる。

 そんなことは問題ではない。これからの階段のことを考えると表情が暗くなる。(なってるんじゃないかな。)

 しょうがない。運動だと思ってがんばろお、おおー!

 これで仕事が終わったので、これからケンタが連絡をくれるまでは、俺とフィストは互いに自由に行動することにした。いつでも騎士団に遊びに来ていいよって言われたから、何かあったら行くことにしよう。



 あー、今日は疲れたわ。どっとベッドに倒れ込む。正直なところ、よかったと思う。フィストに事情がばれたこと、しかも深く踏み込まれることはなかったことがね。

 そして……やっぱり魔法、能力ってあったんだ。

 一人一つで、それも様々な種類がある。

 これからどうすっかな。まずはケンタさんと話して……そうだ、本当に聞くべきことはまだ聞いてなかったんだ。

 で、どうしたら帰ろう。そりゃ、終わったら帰るか。

 そういえば、学校はどうなってるんだろう、今頃は中間テストが返却されて……

 ああ、警察に届けられてたりするのかな。そしたら帰った時説明が大変だな。異世界にいたなんて信じてもらえないだろうね。俺だったら信じないし、信じないほうがいいとも思うし。

 そしたら、出来るだけ早く帰ろうが面倒なことには変わらないな。あー今は気楽に考えてるけど、怒られるだろうな。でも、ここに残ったという選択は間違えてないと思う。今はね。俺の人生にかなり大きく影響してると思うし。

 ああ、ここはいいなあ、勉強しなくていいし。勉強が嫌だとは思ってないけど、いざやらないとなると随分気分が楽になる。買い物もできるし。お金の出どころがケンタさんってのが大分心痛むけど、でもしょうがないしな。元の世界でも父さんのお金だったし、何ら変わらない。高校バイト禁止だったし。

 これから何しよう。ケンタさんの連絡があるまで、することもないしな。かといってビルの一階までまた下りんのもぜーったい嫌だしな。

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