第一部 勇太side⑦ レオン・スノー
結構な音をたてて落下した彼はそのまま動かない。ザマァとも思ったけど流石に痛かったか?
「……おーい、大丈夫ですか?」
寝転んでいる彼の顔を覗き込むと、目と口を開いて呆然とした様子でこちらを見ていた。ちょっと怖い。
「貴様この私の能力を掻き消すとは何者だ!!??」
その瞬間大きな音をたてて教会の扉が開き、サラさんが入ってきた。
「勇者様!大きな音がしましたがご無事でしょうか!?」
さっきのを心配してきてくれたようだ。俺は大丈夫だが問題は彼だろう。頭なんかを打ってないといいが……
「あの、さっきの俺じゃなくてこの人です。俺平気なんでこの人をお願いします。」
相当痛かったのか肩を震わせて俯いている。
「おい、貴様」
ようやく口を開き、低い声で俺に問いかけてくる。
「貴様が勇者なのか?」
「そこの貴方!誰かは知りませんが勇者様に対して貴様とはなんですか!?そんな態度で接していいお方だと思っているのですか!?」
サラさんが彼に詰め寄る。サラさん、大丈夫この人中二病だから仕方ない。許してあげて。
しかし意外にも彼はその言葉に動かされたようで、片膝をつき俺に頭を下げた。
「勇者殿よ!先程の無礼な態度をどうか許して欲しい!」
なんか格好だけ見たら忠誠を誓うナイトみたいだな。いやそんなことなかった眼帯が邪魔だ。
「あの、頭とか下げないで大丈夫ですよ。俺は田中勇太です。一応この国の勇者をやらせて頂いています。よろしくお願いします。」
とりあえず自己紹介をする。さっきもしたがまぁ多いに越したことはないだろう。
彼は名乗られたことに感激しながら表情を高揚させながら自己紹介を返してくれた。
「私はレオン・スノーだ!立派な貴族だ!今はこの教会で身を隠している!」
「貴族なんていません!!」
貴族ヤバいなーとか思っているとサラさんが急に声を荒げた。
「貴族なんてものはこの国には居ません!!この国は王族と平民で成り立っています!!貴族なんてものは居ません!居てはいけません!!!」
掴みかからんばかりに捲し立てるサラさんは今までの天真爛漫な姿とはかけ離れた、焦ったような怒ったような顔をしていた。
「何を言うか!貴族は存在する!私は立派な貴族だ!」
「そんなのは嘘です!貴族は存在してません!」
おっとぉ喧嘩になってきたか。2人とも互いの話しを聞かず、受け入れようとしない。どうしたものか。取り敢えず止めないと手が出そうだ。
「あの、一旦落ち着きま……」
「こぉらレオン!!お前何をやっとるんじゃ!!」
またまた急にドアが開き、厳ついおっさんが出てきた。おっさんはカツカツと早足でレオンの元にくると勢いよく拳骨を落とした。
「お前勇者様方になに失礼を働いているんだ!貴族だのなんだのとわけの分からないことをほざいて!!すみません勇者様方!こいつにはよく言ってきかせますので!!」
おっさんはレオンに怒鳴りつけ、俺たちに頭を下げ、レオンの服の襟を引っ張りながら教会から出て行って。嵐がきたみたいな感じだな。うん大嵐だ。サラさんはさっきより落ち着いてはいるようだがまだ顔はあげない。
「えっと、サラさん大丈夫ですか?」
僅かに間があってから顔が上がる。
「お見苦しいところを見せてしまい大変申し訳ございませんでした!もう大丈夫です!さぁ、そろそろ宿屋に戻りましょう!」
僅かに早足で歩き出したサラさんの声は少しだけ震えていた。
「本当に昨日は申し訳ありませんでした!」
出発の時間。村長であるらしい昨日の嵐のおっさんにまた謝罪される。俺は別に気にしていないし、サラさんも大分吹っ切れたようだ。
「大丈夫ですよ、気にしないでください。」
そう言うとおっさんは安心したように肩を落とした。
「あいつも色々ありまして……姉と共に幼いころ預けられていて、うちの教会で育てているのですが、どうも馴染めないようで。姉の方は病気がちで寝たきりですし、あいつも寂しいんです。よく言ってきかせます、本当に申し訳ありませんでした。」
おおう、意外と重い。過去重い系のキャラなんだなあの人。まぁ顔はちょっと幸薄感はあったけど。
そしてまた俺たちは冒険を再開した……のだが。
「なんでお前がいるんだよぉぉおおおおおお!!!!!」
久しぶりに海老反りをした。頭を抱えて反った。いや仕方ないだろう。村から10分程歩いたところでレオンが浮かびながら待ち構えていたなんて予測できるだろうか!?いやできない!!
サラさんも唖然とした様子で彼を見つめている。
そんな俺らを気にした様子もなく、彼は語り始めた。
「私は貴方についていこう!!!」
「「やめてぇぇぇえええええええ!!!!!」」
俺たちは素敵なハモりを響かせる。
なんど説得しようとしてもレオンはついてくることをやめない。多分自分に酔ってるだけだと思うが他人を巻き込むのはやめてほしい本当に。
「本当になんでついてくるんだよ!」
「私には世界を救う義務がある!」
「貴方にそんな義務はありませんよエセ貴族さん!」
「エセではない!私は立派な貴族だ!」
「俺ら2人で十分だから他をあたってくれ!」
「私と旅をするのにふさわしいのは勇者くらいだ!」
「ふさわしいわけがないでしょう、一昨日来てください!」
「ふん、貴様の方がふさわしくないのではないか?ピンク色の少女よ。」
「「もうお願いだから帰ってください!!!!!」」
意気投合からのハモり再び!
「ふははっ!さぁ魔王を倒そうぞ!!!」
俺とサラさんの絆が深くなった。
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