第一部 麗side⑤ ショッピング

 やばい。結構疲れたかも。

 寝巻から歯ブラシまで、生活必需品を買いそろえていくのに何度も階段を上り下りした。うーん。基本下りてたかな。

 確か部屋からバーまで6階分くらい下りて、その後もねぇ……

 螺旋とかじゃないけど、ぐるぐる四角く回りながら下るから気持ち悪くなる……一体何階建てのビルなんだろ。エレベーターはないのかな。

 二人とも袋を両手に持ちながら、またまた階段を下る。

 一歩先を歩くフィストさんのツーブロ頭を見ながら、なんとなく進む。そういえば、いつまでいるとか考えてもないけど、こんなに買ってもらって大丈夫だったのか?

「それにしてもレイ、引っ越しってのも大変だな、全部燃えちまったんだろ?」

 何の話だよ。

「あーあんまり聞いちゃまずかったか?にしても火事は災難だったな。」

 火事……全焼……引っ越し……またケンタさんの設定シリーズか!

 笑えないぞ、これ。

 そして、どう返答するかが難しい。

「……うん、まあこんなに良くしてもらって助かったよ。」

「気にすんな」

 セーフ。本当、何がアウトかわかんねえ。

 どうせなら、先に説明してほしかった、あわよくばもう少し話し合う時間が欲しかった……まあ全焼って設定なら、こうやって買い物していくワケもわかる、か。

「お、そういや、他に必要なもんはあるか?」

「うーん、今のところは良さそうです。」

 もう面倒くさくなってきちゃったしな☆

「わかった。じゃあ荷物を預けておこう。」

 よかったー。ナイスだ、フィストさん、今来た分階段を上るなんてゾッとするからな。


 なんて、喜んだのもつかの間。結局今もなお長い長い階段を上り、上っている。登っている。のぼっている……荷物がないのはいいけど、足が痛い。長い。

 さっきとは違う階段だね。

 バーのところまでは踊り場があったからよかったけど、ただひたすらに長い階段は辛い!ぴえん(笑)冗談だ。しゃべることもできず、黙々と上る。フィストさんも一言も話さない。けど、慣れてる感はあるな。流石騎士団体力あるぜ。

 よくよく考えてみれば、ビルの上の方にあるホテルから城が見えたんだから、そこまで上らなきゃいけないのは当たり前だ。このビルって階数表示が見当たらないから地下まであるのかよくわからん。

 ……

 今日は二日目か、あとでカレンダー作ろっかな。いやあ、どのくらいここにいんだろ。多分だけど、いつでも帰れるよね。とはいえなかなか帰りにくくなったけど。それもそうだ、実を言うと、牢屋で声を出した時からしっかり残るつもりはあった。

 半年。長くても一年。それが限界だな。それまでにできるだけこの世界の情報を集めよう。もし上手くいかないようなら一週間で帰ってもいい。

 俺は俺を知りたい。

 上りきったところで、重たそうな二枚の扉が向こう側にゆっくりと開かれる。

 急激に明るい光が射しこんでくる。

「うわあ。」

 ステンドグラスからの色々な光が強く地面を照らしている。

声が漏れるって久しぶりかも。常にフィストも友達!って言い聞かせてるから、気持ちも緩和されてきたのかも。

 とか思ってたけど、フィストさんは立ち止まることなく進んでいく。あ、キョロキョロしてると、案外道って覚えられないのかも。少し速足なフィストさんに慌ててついていく。

 連れていかれた部屋は、城内の廊下と、何ら変わりのない石造りの質素な部屋。思ったけど、ステンドグラスだけやけに派手で、あとは装飾とかあんまないよな。効率重視ですみたいな?

 その部屋の入り口から一番遠いところの隅に座る、一人の男性が、ケンタさんだ。多分書類仕事をしているようで、入ってきた俺たちに気づくと、その手を止める。

「悪いがちょっと待っててくれ。」

「ううん、ゆっくりやって。ひと段落着いてからでいいよ。」

 ぜってー俺タメ口上手くなってる。

 それより、やっぱりケンタさんは侯爵とかそんなとこだよな。いつもの黒い重厚なマントを羽織って、紙にペンを走らせている様子を見るとファンタジックなんだわ。あのビルも人々もかなり異世界感はあるけど、この城の中は異質で格別だよ。

 この後、仕事が終わったケンタさんに告げられ、思いにもよらないことをすることになる。

「レイ、ちょっとこっちに来てくれ。」

「あ、うん」

 俺はなんとなく小走りで駆け寄る。フィストさんは入り口の方で腕を組んで止まっている。

「これが、最新の事件簿だ。悪いが、分析をして騎士団に届けて欲しい。」

 はい?ちょっと待って、思考が追いつかない。差し出された薄い紙束に目を向ける。

「隣の部屋でもどこでも好きに使っていいぞ。もちろんフィストも好きなだけ使え、給料は遣ってるからな。」

 後ろから、うす、という軽い返事が聞こえてくる。およよよ、どうすればいいのか。

「わからなかったら、あいつに全部やらせてもいい。何にしろ、前払いだ、好きに使え。」

 そう言ったケンタさんは、重そうなデスクの引き出しから貨幣の入ってそうな袋を取り出す。全部フィストさんにやらせたら、俺がお金を貰っちゃいけない気がするのだが。

 うおー、何か思ってたよりも大変かもしれない。完全お客さん扱いだと思ってたし、今もだいぶもてなされてる気がするけど、何だろう。扱いが息子っていうかなんというか、あれ?もしかして、後継ぎとかに考えてたりしないよね?え、なにこれ、超不安。

 今すぐ確認したいところだけど、フィストさんがいる手前むやみに聞けない。何しろ、俺らは従弟設定だからね。

 ちらっと、後ろを見る。表情の変わらない彼と目が合う。騎士団って聞いてから、すごい勇ましく見える。

 俺はなんだか、本当に何故だかいたたまれなくなって、言い遅れた感のあるありがとうをケンタさんに述べる。

 もうよい、まずは目の前のお仕事に目を向けよう。そして部屋に帰ってから考えよう。

 長い黒ローブの内ポケットに、貰った袋をそのままダボっといれる。

「そうだ、後で話したいことがあるんだよね。」

 何気ない感じでこちらの主張を伝え、そそくさと撤収する。フィストが扉を開けてまっていてれる。

とりあえずケンタさん、お仕事頑張ってください!!!

 もう少しやらなきゃいけないことを明確にしよう。このままじゃ計画性のなさにあとあと痛い目見るか恥をかくことになりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る