第一部 勇太side⑤ 最初の村

「勇者様ー!夕飯のお時間ですよー!」

 ドンドンとドアを叩く音とサラさんの元気な声で目を覚ます。いつのまにか寝てしまっていたようだ。慌てて靴下と靴を履き、扉を開ける。

「お休みの邪魔をしてしまい申し訳ございません!夕飯の用意が整ったようですので参りましょう!」

 夕飯……確かに少し腹が減っているかもしれない。正確な時間は分からないが部屋に入ってから1時間以上はたっているのだろう。

 サラさんに連れられて外に出ると、村に着いた時には真っ赤だった空が藍色に染まっている。宿屋の前にはルートさんが待機していて俺たちが出てくると犬のように駆け寄ってきた。

「ゆっくり休めましたか?村長の家で夕飯が用意されていますので、参りましょう!」

 相変わらず目キラッキラッだなこの人。歩き出すルートさんの後ろをサラさんと並んで歩く。サラさんはまだ風呂には入っていないようで宿屋に入る前と変わらない格好をしている。俺も夕飯が外ならまだ入らなくても良かったかもな。なんか風呂入った後に外出るのって変な感じがする。

 5分しないくらいで村長さんの家に着いた。村長の家といっても特別豪華だったりはせず周りの家に溶け込んでいる。

 ルートが呼び鈴を鳴らすと中から村長さんが出てくる。

「いらっしゃいませ勇者様。わざわざ足を運んでくださってありがとうございます。ささ!料理は用意できていますのでお上がりになってください!」

 靴は脱がないタイプの家っぽいので土足のままで家の中に入る。途端に美味しそうな匂いがしてきた。あー腹鳴りそう。

 村長さんに案内されながら突き当たりの部屋に入るとそこには結構豪勢な料理が用意されてた。サラダやスパゲッティや七面鳥みたいなもの……なんかクリスマスみたいだな。というか食べ物は元の世界とほぼ変わらないようだな。良かった。

 促されながら席に座る。隣にはサラさんが座り向かいには村長さん、斜めにはルートさんが座る。

「勇者様、この国にいらっしゃってくださり本当にありがとうございます。我々は魔王の非道な行いによって長い間苦しまされています。しかし貴方様が奴を倒してくださればそれも終わります。どうかお願いいたします、勇者様!」

 急にしっかりと挨拶をされて少したじろぐ。

 そうだ、俺が優遇されてるのは魔王を倒す人だからだ。自分を苦しめる悪を倒し、悪から救ってくれる。そんな者だから俺はこんなにも尊敬され、信頼されているんだろう。ここにきてやっと責任の重さが分かり少し怖く思う。本当に倒せるのかどうかとかもそうだけど何より国民達の熱の重さが恐ろしい。俺はひょっと呼び出されただけであって何か特別できることがありそうな見た目などをしてる訳ではない。それはたとえ異世界在住であろうと、どんな人間にも一目瞭然だろう。そんな頼りない俺を勇者として崇め奉るのは何故なんだ。少しも疑わず俺に魔王を倒せると思えるのは何故なんだ。

「さぁどうぞ温かいうちに召し上がってください!」

「あ、はい、いただきます。」

 どこか薄ら寒さを感じながら俺はサラダに手を付けた。野菜最初に食べると痩せるって聞いたなぁなんてくだらないことで気を紛らわせながら。



 翌朝。またサラさんの声とノックの音で目を覚ます。昨日色々考えごとをしていた割にはグッスリ眠れたようで自分の図太さに少し感心する。まぁ飯食ったら眠くなるしな。

 朝のそこそこ早い時間らしく。窓からは左の空から僅かに光が覗いているのが見える程度だ。

「勇者様!そろそろ出発致しますので用意をお願い致します!」

 寝ぼけなまこの俺に対し、サラさんは目をパッチリと開きハキハキと話している。若いっていいなぁ。

 なんとか用意を整え宿屋を出ると外にはずらりと村人達が立ち並んでいる。思わず後退りそうになるが根性で耐え、前を歩くサラさんの後を追う。

 村人達は目をキラキラさせながら俺を見つめる。太陽が出きってなくて逆光になり少しホラー感を醸し出す。いやなんでだよ。ホラーとかいうな、失礼だろ俺。

 村に入った門とは違う門から出るらしい。昨日は見なかった道にも沢山の村人が並んでいて恐ろしい。門の前までいくと村長さんとルートさんが待っていた。村長さんは大きな風呂敷を持っていてそれを俺に渡した。

「朝食がまだでしょう?大したものではありませんが良かったら召し上がってください。お身体に気をつけて、頑張ってください。」

「どうかご無事で、勇者様!!」

 村長さんに続くようにしてルートさんも俺に声を掛けてくる。

 この人たちは本当に良い人だ。勇者だからという前提があるとしても見ず知らずの他人にこんなに良くすることはそうそうできないだろう。


 正直今も彼らのことは恐ろしい。自分というちっぽけな存在に大きなものを押しつけ、それを正解だと信じて疑わないその姿には一種の狂気すら感じてしまう。

 だけどそれは決して悪いものではなく、むしろ彼らの純粋で無垢な心から来るものだろう。

 元の世界じゃそんな単純思考は通用しない。

 凄く変なことを言っている自覚はあるが、とりあえず結論を言うと

 俺は魔王を倒すしかないんだ。魔王を倒さないと家に帰れない。

 それならもうどうにかして魔王とやらを倒すしかないだろう。


 俺は笑顔を作って彼らに言う。

「出来る限り頑張ります、行ってきます!」

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