第一部 麗side④ フィスト

 ふあぁぁ。いい朝。

 時計が見つからなくてわかりにくかったけど、カーテンを開けてちょうど日の出が確認できたから大丈夫、朝だと思う。

 この状況でスヤスヤ眠れちゃうって、結構神経図太いのかな。そういえば勉強疲れしてた気がするし。

 それにしてもこの後はどうしたらいいんだろう。起床時間も何もよくわからないし、昨日の食堂にでも行ってみようか?

 薄紫単色の枕を置いて、ベッドメイキングをしながら考えてみる。けど、場所をよく覚えてない気がしてきた。困るな……ノックしてくるのを待つのもなんか違うし。いやあ、待ったほうがいいのか?

にしても普通のビジネスホテルよりも広いんじゃないかな、ここ。改めてぐるっと部屋の中を見渡す。目立つのは、薄紫のカーテンのかかった大きな窓。すぐ下にバルコニー的な板がついていて窓の下半分まで塞いでいて、しかも窓の開け方がわからないから、そこからの景色を眺めることはできなかった。結構高い位置にいると思うんだけどね。背伸びしてかろうじて、遥か彼方の地平線を確認できたぐらい。

 飾り気はないけれど、総合して結構いい部屋だと思う。

 昨日ケンタさんに借りた黒いローブを引きずりながら、ドアへと向かう。そういや下着類もかなりぶかぶかなんだよな。ちなみに昨日の借りた靴は貰っちゃいました!

 オートロックじゃないって言ってたから、安心して外へ出る。廊下は食堂と同じぐらい天井が低く、床は部屋と同じようにレンガ調に長く続いている。上から下まで切り取られたところがあり、へこんだ先に、天井から床までの大きな窓がある。

 その大きくへこんだ場所に足を踏み込んで、外を眺める。お、地面が見える。意外と低いかも。4階くらい?食堂(仮)からかなり階段を上った気がしてたけど、あそこは地下だったのかな。目の前に広がるは緑の濃い森。少し先になんだろ、遺跡的な?古い建物が飛び出ている。その先の景色は水色の空しか見えない。なんだろ、あとで聞いてみよ。

 しばらく景色をボケっと眺めていたら、ケンタさんが隣の部屋から出てきた。会えないかとも心配したけど、よかった♪ちょっと計画性なかったけど、結果オーライ。

 うんうん、一瞬驚いて、動きがフリーズしたね。

「レイ、お前早いな。」

 そうなんだ。俺早いんだ?

「はい、どうも、お早うございます。」

「おう。」

 え、この人にタメ口きくの難しい。昨日つけてたマントはつけてないけど、結構大人の人って感じだし?あ、あと安定の変なぐるぐるアホ毛2本。

 でもなんかルイさんも無理して友達風に話してる感あったし……あれ、ビジネス的関係とか言ってたっけ、面白いな。

 ともかく、ケンタは友達、友達、友達……

「ケンタ、あの、あれって何?」

 森から飛び出したグレーの建物を指さす。

「ああ。城だ。」

 ああ……城か。

 ……おー、やっぱりファンタジック。改めてドキドキしてきたな。異世界、だよな?

「お前も行くか?」

「え、いいの?行ってみたい!」

 こういう時は素直に意思を示すに限るよね。

「ああ、じゃあそうだな、あとから合流しよう。」

 おお、わくわくだ。でもやっぱり仕事忙しい感じかな?

 そのままケンタさんについて行って、来た通りに階段を下る。長い長い。



 人は少ないものの、このローブ恥ずかしい!寝巻のままの感覚。それよりも、パンツがゆるい!

中に入ると、ケンタさんはカウンター席に座る一人の男の人に話しかけた。

 男の人は何かを書いていたが、声をかけられると手を止めて立ち上がった。身長は俺と同じくらいかな。ケンタが紹介してくれる。

「これから、お前の世話をするフィストだ。」

 世話?なんかすごいもてなされてるのかな。

「フィストだ、よろしく。」

「麗です、よろしくお願いします。」

 差し出された手と、硬い握手をする。このひと筋肉すごいかも、マッチョって感じもしないんだけどね。茶色い天パをてっぺんにだけのこしたツーブロ。ケンタさんも見た目は冷徹侯爵って感じで怖いけど、フィストさんも鬼コーチみたいな感じで怖い。あ、でも目は垂れてる感じだし、そんな怖くないかも。

「レイ、何か質問はあるか?」

「いえ、今のところは。」

「じゃあ何かわからないことができたらいつでも聞いてくれ。俺は仕事に行く。フィスト、あとは任せたぞ。」

「了解。」

「レイ、また城でな。」

 さばさばと店を出ていくケンタさんに、手を振る。ケンタさん城で働いてるってことかな?確かに服装が伯爵みたいな感じ。

 取り残された二人で、顔を見合わせる。

「フィストさん?これからどうするのかうかがってもいいですか?」

 今日は多分この人の指示で動く感じかな。

「……レイさん、敬語なんて使わないでください。」

 なぬ!?そんなこと敬語で言われても。この人も敬語は嫌なケンタさんスタイルかな?いや、ただ単純に、俺が客人だからか。

「じゃあ、フィストさんも敬語を使わないでいこうよ。」

 どうだ!自分でも違和感あるけど、初対面の人にいきなりタメ口。昨日今日で取得した新たなスキル!!ついでにスマイル。

「了解だレイ。じゃあ行きたいところがあれば言ってくれ。」

 切り替え早!!そうか、ケンタさんと過ごしてるとこうなるのか。確かに、ケンタさんの前ではみんなタメ口に切り替えるし。まあ、関係ない!多分この人の方が年上だ!

 落ち着いて、フィストを見てみる。白いTシャツに、深緑のシャカシャカのパーカー。黒いタイトなズボン。ナチュラルワイルド……

 この国の人たちの服装、あと布類、めっちゃシンプルだよな。俺結構好きかも。

 あれ?よく見ると左胸のところに緑色のバッチがついている『FST7』F517?FS17?

「フィストさん、質問していい?」

「いいよ。俺からも質問あるし。」

 めんど。よし、ここは譲らないスタイルで行こう。

「その胸のバッチって?」

「ああ、これは騎士団のやつだよ。俺騎士団で仕事してんのさ。フィスト7。第七班ってこと。」

 紛らわしいフォントだ。FSTフィスト7か。

「なるほど」

 騎士団ってコメントしにくいな。まだこの世界の常識とか仕組みとかわからないからね。

「そんでレイ、ケンタ様の従弟だってな。将来の夢とか決まってんのか?」

 まだその設定でいくきなのかケンタ!…………はあ、やっぱりケンタさんって結構偉い役職っぽいな。ここで質問したらわかると思うけど、従弟設定のせいで下手なことは訊けない。まあいいや、本人は質問絶賛受付中だし。ここはごまかす方針で。

「夢は秘密かな。」

 こうして少しだけ打ち解けた俺たちは、まず衣料品店に向かった。

 お城じゃない理由は簡単。どうしてもパンツをちょうどいいのに履き替えたかったんだよ……

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