第一部 勇太side④ 出発
大勢の国民さん達に見送られながら城門を出ると外には森が広がっている。日本にもゴロゴロあるような普通の森だ。広くはないが道もあるため歩きにくいということはないだろう。
サラさんはサクサクと進んでいく。ちょっと足を緩めると置いてかれてしまいそうだ。自分も僅かに歩調を早め、サラさんの横を歩く。目をキラキラさせながら喋る様子は結構可愛い。
「魔王の城までは2週間程かかる予定です!途中に村も沢山あるので野宿とかの心配は要りません!もし不便なこととかがございましたら、私にお申し付けくださいませ!勇者様のために出来る限りのことはさせて頂く所存です!!!」
2週間。結構長いな……まぁ日本と違って交通機関とかもないなら敵国との距離は結構あるよな。
ん?待てよ?ってことは2週間ほぼずっとサラさんと2人きりで過ごすのか???大丈夫なのか???いいのか???会ったことないけどサラさんの親御さんは平気なのか???
娘を!2週間も!見ず知らずの男に!あずけて!いいのか!?
「勇者様!?どうかなさいましたか?顔色が優れないようですが……」
「大丈夫です!俺は平気です!大丈夫な人です!」
大丈夫な人ってなんだよ馬鹿野郎!
完全にだいじょばない奴の言葉だったが、サラさんは特に気にしなかったようだ。 変なレッテルを貼られなくてよかった。
「体調などが優れなかったら遠慮なく言ってくださいね!」
「ありがとうございます。えっとよろしくお願いします。」
「こちらの方こそよろしくお願い致します!」
改めて挨拶をしてから10分は経っただろうか。俺たちの間に会話はない。
確かにやるべきことかは一通りしたし話さなきゃいけないこととかもないだろうけどこれは無言長くね?なんかもう1時間くらい無言な気がする。気まずっ。
どうにかせねば……やばい会話が浮かばん。あっちにいた時は普通にコミュニケーションを取れてたと思うんだけどなぁ!俺隠れコミュ障だったのかな!?なんか無いのかよ!共通の話題的なの!!いやもう共通じゃなくていいやカモン話題!!ええいままよ!!!
「サラさん………………しりとりしません??」
「しりとり???」
「る、る、る、るーぷ!るーぷです!ぷですよ!ぷ!」
「プール。」
「プール!?またるですか!?る、る、るぅぅぅ……参りました!!!」
「いぇい。」
意外にもしりとりは結構盛り上がった。こっちの世界にはないゲームみたいでサラさんも楽しんでくれたみたいだ。まぁ、俺の圧勝だけどなwww初心者相手に勝って喜ぶな。
サラさんが本当に悔しそうなのが申し訳ない。初めてでる攻めは大人気なかったかもしれないな……。
「あ!もうすぐ今日泊まる村に着きますよ!あと10分程度です!」
そんなこんなしているうちに村に着いたようだ。
厳つい木の門の前に厳つい……一般ピーポーに比べて少しばかり身体が大きいお兄さんが2人立っている。ゲームとかで宝守ってそうな感じだな。
サラさんは臆することなく門番さん達の前に進み出る。ねぇ大丈夫?門番さん達のサラさんの倍くらい大きいけど大丈夫!?めっちゃ睨まれてるけど大丈夫!!??
「我々は魔王を討伐しにきた者です。本日はこの村に宿泊させていただきます。よろしくお願い致します。」
流石っすサラの姉御!超大型◯人兵(仮)にも堂々としたその態度!マジ尊敬するっす!
巨◯兵(仮)達もサラさんにビビったのか急に佇まいを直して敬礼をした。
「申し訳ございません勇者様方!!本日は我が村にお越しいただき誠にありがとうございます!!すぐに開門致しますので少々お待ち下さい!!」
そしてノシノシとゆったりした動作で門の鍵を開けると、扉を両側から引っ張った。きっと急いでくれてるんだろう。でも遅い。やっぱりリアルだと巨人◯は速くは動けないようだ。ここがリアルかは知らんけど。
そうしてゆっくりと門が開き、隠れていた村があらわになった。
思ったよりも小さく、村というよりは集落のような場所だ。木や石で出来た小さな家が立ち並び、奥の方には畑が見える。
昔のヨーロッパの村はこんなんだったんじゃないか?村人もそんなに不思議な感じじゃないな。中世の平民チックな服をきて買い物をする女性や、少し汚れた上着を羽織って屋根の修理をしているスキンヘッドの男性や、追いかけっこをして遊ぶ少年達。多少の差はあれど基本的に普通に考えられる日常みたいな風景だな。
あ、でもやっぱり美男美女が多い。全員ってわけじゃないけどめっちゃ美人いる。異世界マジックパネェ。
「もし、あなた様が勇者様でございますかな?」
アホなことを考えていた俺に後ろから声がかけられる。
後ろにいるのは杖をついている小柄なおばあさんでニコニコと優しげな顔でこちらを見ていた。
「はい!この方が勇者様でございます!!」
サラさんが元気よく俺を示す。そんな大声で言わないでよ恥ずかしい……
村人さん達がワラワラと集まり、俺を囲む。大人も子どもも興味津々といった様子で見つめてくる。
「勇者様だって!」
「まぁ!遂に魔王を倒す勇者様がおいでになったのね!」
「生で勇者様見ちゃった……死ぬかも」
「わしが若い時も勇者様がこの村にいらっしゃってなぁ……」
うわぁ俺モテモテやん。皆さん顔がよろしいのでこう囲まれて讃えられるとクルものがあるな……いや何してんだ俺は!
とりあえずこの状況はどうにかしないとだよな?普通に嬉しいけど段々居た堪れなくなってきた。
「あの、初めまして。勇者です?えっと今晩はよろしくお願い致します。」
軽く頭を下げて挨拶をすると村人さん達はさらに俺の元へと詰め寄ってきた。
「勇者様、来てくれてありがとう!」
「ゆっくり休んでってください!」
「マジの勇者だ……ヤバい」
「前の勇者もこんな風に丁寧に挨拶しとっってのう……」
「爺ちゃんうるさいよお!」
めっちゃ歓迎するやん。いや俺そんな大層な人間じゃないですよー?ここまでやられても困るよー?
若干引き気味の俺に気付いたのかサラさんが人垣を割るようにしてそばにくる。
「勇者様はお疲れです!明日の朝には出発致しますので早めに休息を取らなければなりません!」
よく通る声で村人さん達に呼びかけると彼等は慌てて俺の周りから立ち退いた。そして一番最初に話しかけてきたおばあさんだけが俺とサラさんの元に歩み寄ってきた。
「大変申し訳ございません勇者様方。皆勇者様を見ることができて興奮してしまっていて……私はこの村の長です。この度はこの村にお越し頂き誠に有難う御座います。どうぞゆっくりと休んでいってください。」
この人村長さんなんだ。確かに貫禄というか……村長感はあるな。
村長さんに呼ばれて人の良さそうな青年がきた。うわぁイケメンや。ダイナマイトぶん投げたいレベルでイケメンや。
「ルート、勇者様方を宿屋まで案内して頂戴。」
どうやら彼が俺たちを案内してくれるらしい。とても有難いが、精神汚染がヤバい。イケメン爆ぜろ。
「初めまして、勇者様!僕はルートと申します!この村に滞在している間は僕が貴方様方のお手伝いをさせていただきます!どうぞよろしくお願いします!」
この人絶対いい人だ。イケメンな上に性格良いとかなんだよそれ異世界やだ。
俺が心の中で僻んでいるうちにルートさんは俺たちの荷物を受け取ると、歩き始める。宿屋に連れて行ってくれるのだろう。歩調は速くはないが置いていかれるのは嫌なので少し早足気味に歩く。
「生きてるうちに勇者様にお会いすることができるなんてとても嬉しいです!一生の自慢になります!」
隣を歩いている彼は先ほどから興奮気味に俺に話しかけてくる。相当熱狂的な勇者ファンなのだろうか。いや、彼だけじゃないな、ただ歩いているだけなのに村人さん達は熱の篭った目で俺を見つめてくる。首都もそうだったがこの村も相当勇者に対する信頼が強いらしいな。これ俺ミスったら死ぬんじゃないか?
連れていかれた宿屋は木でできていて周りの一軒家とあまり変わらない造形だ。大きくはないが狭いというほどでもないだろう。
「それでは夕飯の時にまたお声がけしますね!風呂なども部屋に付いていますのでご自由にお使いください!それではごゆっくりどうぞ!!」
相変わらず高揚した様子で俺に声をかけると勢いよくお辞儀をし、ルート君は去って行った。
因みにお辞儀角度90°、長さは3秒の美しいお辞儀だった。
「早めに休息を取ってしまいましょう!」
笑顔で言うサラさんの顔にあまり疲れは見えない。俺もそんなに疲れたわけではないが明日もあるので早めに風呂入って休んでおこう。
サラさんに頷き俺たちは宿屋の中に入っていった。
因みにサラさんと俺は違う部屋だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます