第65話 君と説得
「私、そんな話聞いてません!どうして勝手にそんな事を決めてくるんですか!?」美桜が珍しく目に涙を溜めて怒っている。
「しかしな・・・・・・・、いつまでもこのままと云うわけにはいかないだろう。亮介君の主演、昌子君のヒロイン・・・・・・・、そしてMIONの歌、我が事務所にとってこれほどの好機はないだろう」綾は経営者の顔で彼女を説得している。
「でも、でも・・・・・・・、私歌えません・・・・・・・!」美桜は大きな涙を一粒見せてから階段を駆け上がり自分の部屋へ飛び込んでいった。
「美桜ちゃん!」彼女の名前を呼んだがその声はどうやら届かなかったようだ。
「うーん・・・・・・・」綾は思案するように頭を掻いている。
「ちょっと早急すぎたんじゃないですか・・・・・・・・、彼女は芸能界を引退するつもりだったのに、頑張ってラジオの収録はやっているのに・・・・・・・」彼女が『MIONのときめきライブラリー』はずっと続けている。彼女なりの事務所への義理立てなのであろう。
「うちの事務所は弱小だ・・・・・・・、君たちは頑張ってくれているが、MIONに頑張ってもらわなければとてもあと一年は持たないだろう・・・・・・・」あれっ、俺もいつの間にか小野寺プロの所属に数えられていたようである。まあ、普通のアルバイトをするよりもずっと実入りがいいのは確かなのでそれはそれで心地いいのではあるが・・・・・・。「亮介君・・・・・・・、きみが説得してくれればMIONも歌う気になると思うのだが、お願い出来ないだろうか・・・・・・・?」綾は俺に向かって懇願するように頭を下げた。
「えっ、どうして俺が言えば歌うんですか・・・・・・・?」彼女の思惑の意味が全く理解出来なかった。
「お願いだ・・・・・・・」綾は頭を下げたままであった。
「・・・・・・・解りました・・・・・・、でも、少し時間をください」俺は自分にそれが出来るのかどうかは解らなかったが、承諾することにした。なんだかもう後には引けないような気がしたからだ。
「ありがとう!」そういうと綾は嬉しそうに飛びつくように俺の体に抱きついてきた。その豊満な胸が当たり、俺は顔を真っ赤にして言葉を失ってしまった。
「綾さん!ちょっと・・・・・・」俺は慌てて綾の肩を握って距離を取った。
「あの・・・・・・・・、2人で何をしているんですか・・・・・・・・?」気が付けば、昌子と桃子が白い目をして俺達の様子を見ていた。
「きゃ!」なに女の子みたいな声を出しとんねん。俺は少し呆れた顔で綾を見た。
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