第64話 君とクラファン

 アメリカでスタントマンとして成功した主人公 真山まやま裕之ひろゆきは、凱旋帰国で日本に帰ってくる。

 彼は仕事の一環で女子プロレスの試合のゲストコメンテーターとして試合を観覧することになった。

 彼の前で展開される女子プロレスラー同志の試合。その感想を求められる真山。


「どうせ、八百長ですよね。プロレスなんて・・・・・・・」


 真山のその言葉を聞いた売れっ子レスラーの華山はなやま加奈子かなこは憤慨し、真山をリングに引きづり上げる。

 加奈子にコテンパンにやられてしまう真山。

 真山のスタントマン、そして役者としての評判は地に落ちる。仕事を失くしてしまい途方に暮れて街を彷徨う真山。

 そんな真山の目の前に、老人が現れる。彼は表には名前こそ出ていないが武道の達人であった。真山は彼の弟子入りを志願する。老人の元で格闘家としてせいちょうする真山。

 彼は、男子プロレスに挑戦し見事に勝利する。

 実は老人は加奈子の祖父で、真山の隠れファンで真山の落ちぶれた様子を心配して祖父に相談をして真山の再起をお願いしたのだった。

 そんなある日、加奈子は何者かに誘拐されてしまう。彼女を助ける為に、真山は彼女をさらった組織に乗り込んでいく・・・・・・。


「えーと・・・・・・、この真山って主人公が僕ですか・・・・・・?」渡された脚本を一通り読んで質問をした。


「ああ、あのオーディションの時の君を見て、この役が出来るのは君しかいないとピンと来たんだ」神山監督が少し興奮気味で俺の顔を見る。この話を彼はずっと温めていたそうだ。もしかすると数十年前の脚本かと思った。昔のジャッキーテェンの映画が流行っていた時ならともかく、今この話に需要があるのかは素人の俺でも疑問であった。


「で、この映画はいつから撮影が始まるのですか?」綾が前にのめり気味で質問をする。


「いや、それが・・・・・・・配給がまだ決まってなくて・・・・・・・、スポンサーを募っている最中なんだが、オーディションで彼を見てついテンションが上がってしまって・・・・・・・」どうやら監督の見切り発進のようであった。


「それは・・・・・・、クラファンってやつですか?」綾の発したその言葉を俺はよく知らなかった。


「まあ、そのようなものだ・・・・・・・、なかなか資金が集まらなくてね」いや、こんな有名な監督が映画を撮りたいっていっているのに、どこのやらないと云うことは、あまり期待されていないという事なのではないのかと思った。


「あの、こちらからもお願いがあるのですが、宜しいですか?」綾は真剣な目つきで監督を見つめる。


「私の出来る事なら・・・・・・・」どんな要望を出されるのか神山監督も俺も解らなかった。


「この加奈子なんですが・・・・・・・、うちの新人でお願いできないですか?」


「し、新人・・・・・・・?私は本物志向で演技と格闘技の両方が出来る役者たちでこの映画を作りたいのだ・・・・・・・・、そんな新人だなんて・・・・・・・」後から聞いた話だと、プロの人気女子プロレスラーへのオファーをしていたらしい。


「はい、それは存じ上げております。うちの新人はこの瀧山たきやま亮介りょうすけにも劣らないアクションができます。それに、もしお願いを聞いてもらえたなら・・・・・・」綾の顔は交渉をするビジネスマンの顔になっていた。


「何かあるのかい?」


「うちのMIONに主題歌を歌わせます。きっとかなりの話題になるはずですよ」確かに歌手として半分引退しているような状態ではあるが歌姫として今も人気のあるMIONこと美桜が主題歌を歌うとなれば話題になることは必須であろう。


「うーん・・・・・・・」神山監督は腕組をして立ち上がると窓際のほうに歩いて行った。どうやら満更でもない提案であったようである。


 ただ、美桜が歌を唄う事などあり得るのかと疑問を抱いていた。

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