第63話 君と主演

「あああ・・・・・・・」正直言うとちょっとだけショックであった。向こうから誘ってきたのだからオーディション合格間違い無しと言われて少し舞い上がっていた。自分が子供の頃真似して遊んでいた『覆面ドライバー』の一員に加われるのだと勝手に思っていた。俺は買い物から帰って来て玄関に靴を脱ぎ捨てた。


「亮ちゃん、オーディション落ちたんだって?」リビングのソファーに座っていた桃子が呑気に声をかけてくる。ピンクのタンクトップに白い短パン姿、こいつはきっとこの家に男がいるとは思っていないのであろう。


「あ、ああ」なんだかバツが悪くて目を逸らした。だいたい、彼女達のせいで俺は飛んでもない勘違いをしてしまったのだから恨みの一つでも正直言いたいところであった。


「そう言えば社長が探してたよ」頭の後ろで腕を組みながら階段を上っていく。プリプリしたお尻に目を奪われる。本当に警戒心のない奴だ。


「あっ、亮介君!こんなところにいたのか」綾が少し慌てたような仕草を見せた。いやこんなところって家の中ですけど・・・・・・。


「そんなに慌てて何かあったんですか?」その慌てように少し驚く。


「あの、あの・・・・・・・、神山、神山監督から・・・・・・電話があって・・・・・・」なんだか頭の中で話す言葉が纏まらないようであった。


「神山監督・・・・・・って、ああ、この間のオーディションで真ん中にいたオッサンですか」そういえばこの間のオーディションであれこれ指図してきた中年の男性がそんな名前だったような気がする。


「神山監督が今度撮影する映画の主人公に君を使いたいと言ってきたんだ」まだ酷く興奮している。


「映画って・・・・・・・、覆面ドライバーは落ちたんじゃ・・・・・・・」彼女が何を言っているのか今一理解することが出来なかった。


「どうも、監督が言うには・・・・・・・、初めは覆面ドライバーに起用するつもりだったようだが、君の事をかなり気に入ったそうで、自分の映画にぜひ主演で出てほしいって・・・・・・」


「ところで、どんな映画なんですか?それ・・・・・・」きっとまた子供向けの特撮映画なのだろうと思った。


「詳しい事はあって説明すると言っていたが・・・・・・・、アメリカ帰りのアクションスターの役だそうだ!」えっ、それいつの時代の映画なの・・・・・・・・。とんでもない映画なのかと思った。


 結局次の日曜日に、綾と一緒に神山監督に会いに行くことになったのだった。

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