第66話 君と閲覧

「たしかに・・・・・・・こりゃ酷でえな・・・・・・」俺は美桜が見たと思われるネットの掲示板を見ていた。ちなみに彼女のSNSのページは全て閉鎖してしまったそうであった。彼女にとって自分に対する謂れのない罵詈雑言ばりぞうごんに耐えられなかったということであろう。


 MIONの歌を聞くと不幸になる。


 MIONの歌を聞くと頭がおかしくなる。


 MIONの歌が流れると吐きそうになる・・・・・・。


 彼女の歌に対する悪口が羅列されている。どれもこれも根拠のない言葉であった。ただ、芸能人と言っても俺が知っている美桜は普通の女の子・・・・・・、いや俺の彼女に抱いている感覚では、彼女がガラスのようにもろい心を持った少女。ネットに描かれた言葉に心を痛めてしまった事も多少理解できる。なにしろ、某国の人気タレントがネットに書かれた内容を苦にして自殺してしまうようなご時世なのだ。


「あれ・・・・・・・、でも・・・・・・・」よくよく投稿されている文字の羅列を呼んでいくと、MIONの事を励ますような投稿も多々見られた。


 私はMIONさんの歌を聞いて勇気をもらいました。


 死にたいとまで考えていた私が、MIONの歌でもう少し頑張ってみたいと思えた。


 仕事で心身共に疲れた時に聞くMIONの歌は最高!


 MIONの悪口を書くな!私達はMIONの完全復活を待っている!それまではラジオで我慢。


 悪口ばかりではなくて彼女を応援するような言葉も多々見られる。こういう掲示板は匿名ということもあり、批判や悪口が多いものだと聞いていたが、これは中々の割合で好意的な意見が多いのではないだろうか。そして、もう一つ気が付いたのだが、どうやら悪口を投稿している人間が同一人物であるような気がする。というのも投稿している時間がいつも同じ夜間の1時頃であること、そして投稿する癖というか文体がよく似ているのだ。それはまるで機械的に入力しているような感じすらした。この批判文には意識というか気持ちがこもったようなものではなくて、適当に描いた落書きみたいなものではないのかと思ったほどであった。


 俺は、パソコンのスイッチを切り、自分の部屋から廊下に出て、美桜のドアをノックする。


「美桜ちゃん・・・・・・・、ちょっといいかい」彼女からの返事は無い。少し待ってみたが、どうやら話をするのも億劫おっくうなようである。「・・・・・・・」ため息をついてから、俺は彼女の部屋の前から立ち去ろうとした。その刹那せつな彼女のドアが少し開いた。


「・・・・・・」美桜は少し暗い顔でこちらを見ている。きみは貞子さんですか・・・・・・。


「美桜ちゃん・・・・・・・、一緒に出掛けない?」


「えっ・・・・・・・・、どこに行くの・・・・・・・ですか?」どうやら俺の事を警戒しているようであった。そりゃあこのタイミングで話しかけてきたら説得されるんだと感づくわな。普通・・・・・・・。


「気晴らしにさ・・・・・・・、俺じゃあ駄目か?」なんだか前に彼女に似たような事を言われたような気がした。


「いいえ・・・・・・・、少し待ってもらっていいですか?」どうやら一緒に出掛けてくれるようである。


「それじゃあ、三十分後に玄関で待ち合わせでいいかい?」俺がそう言うと彼女はコクリと頷いてから扉を閉めた。

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