第55話 君と古い民宿

 俺達が到着したのは古い民宿であった。部屋割りは俺、秋村、大森の男三人と小野寺社長達女四人でそれぞれ一部屋ずつを使用する事になった。


「お前、一体あの中の誰と付き合っているんだよ。もしかして、綾さんか?」秋村が部屋に入ると早速質問してきた。なんで、よりによって小野寺社長やねん。


「俺も気になる!ま、まさか美桜さんとは違うよな!」なぜか激しく詰め寄ってくる。こいつはどうやら美桜が好きなようだ。


「誰とも付き合ってねえよ。たまたま、俺の家がシェアハウスを始める事になって、そこで同居する事になっただけだよ」いつの間にやら、あの場所は自分の家ではなくなってしまった。どちらかというとだんだんと俺のほうが居候のような感じにさえなりつつあった。


「そうなのか・・・・・・、だったら俺は昌子さんに唾つけたからな!」大村も不必要なほど詰め寄ってくる。ああ、鬱陶しい。


「ああ、解った!解ったから・・・・・・・」それ以上会話を続ける気にもならなかった。


 ドアをノックする声が聞こえる。


「どうぞ!」


「ちょっといいかしら?」女性の声が聞こえる。扉がゆっくりと開くとそこには昌子の姿があった。


「あっ!昌子さん!!」大森は一オクターブ高い声で彼女の名前を呼んだ。


「あっ、どうも・・・・・・、亮介。ちょっといい・・・・・・、むこうの部屋で話したいことがあるのだけれど」昌子が大森の矢日かけを軽く流した。


「あ、ああ」立ち上がると、俺は昌子達の部屋に向かう。


「あ、あの俺たちは・・・・・・・?」秋村が寂しそうな声を上げる。


「ああ、これは身内の話だから・・・・・・・。ねっ!」昌子がなぜか微笑みながらウインクをして俺の手を掴むと女性部屋のほうに引っ張っていく。男部屋の中から絶叫のような声が響いたが、俺は無視する事にした。

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