第54話 君と冷凍ミカン

「冷凍ミカン食べますか?」美桜がミカンを差し出してする。


「あ、ありがとう」俺は彼女から冷凍ミカンを受け取り皮を剥く。差し込んだ親指が冷たい。


 俺達は鈍行列車に乗って日本海を目指している。四人掛けの対面席。目の前には昌子、斜め前に桃子、そして隣を美桜が陣取っている。なんだか、ハーレム状態であった。いくら家で一緒だといってもこうして囲まれると少し緊張してしまう。


「ねえ!こっちの席空いてるよ」金髪の秋村が手を振る。あら久しぶりだわこの人。彼の隣には大森が座っている。


「なんだね・・・・・・、私では役不足かい?」小野寺社長が腕組、足組で座っている。本日は以前、大森から申し出のあった夏旅行であった。大切なタレントになにかあっては困るということで小野寺社長も同行して来たそうだ。ついでにもう一人の部外者である桃子も一緒にということになった。結局は、大学の友達というよりは、小野寺プロの社員旅行という形になってしまったようだ。


「いやいや、綾さんといっしょで楽しいです・・・・・・」秋村は小野寺社長を下の名前で呼んだ。その言葉を聞きながら小野寺社長は缶ビールを一口含んだ。


「そういえば、亮介君がずっと私の事を小野寺社長と呼ぶが・・・・・・・、そろそろ綾ってよんでくれてもいいんでしゅよ・・・・・・」どうやらビールで酔ってきたようだ。


「ねえ、美桜ちゃん、私もミカンもらってもいい?」昌子は俺が食べるミカンがおいしそうに見えたらしい。


「あっ、どうぞ、桃子ちゃんも」美桜はそれぞれにミカンを渡す。


「ありがとうございます」桃子はニコリとほほ笑んだ。やはり以前の舌打ちキャラは消えたようであった。「うわー!冷たくて美味しいい!!」彼女はミカンを一切れ食べると目を瞑って幸せそうな顔を見せた。


「本当に美味しいね!」昌子も美味しそうに口を押える。


「いいな・・・・・」秋村は羨ましそうにこちらの席を見た。


 小野寺社長はアルコールが回ってきたようで、グーグーと寝ていた。

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