第53話 君とダイビング
「くそ!また騙された・・・・・・」なぜか俺は学校の校舎の屋上から工程を見下ろしている。眼下にはハンカチ一枚程度の大きさにしか見えないエアマット。なぜか黒い詰襟の学生服を着せられている。マットの近くにはカメラが配置されており、俺が飛び降りるのをまっている。その傍らにはニヤニヤと笑いながら俺のほうを見上げる小野寺社長の姿が見えた。前回の火達磨になるスタントはもう懲り懲りだと言ったところ今回の仕事が当てがわれたという事であった。
「君のタイミングでいいからね!」監督の声が聞こえる。どうやら今回は高校生を主人公にした学園ドラマで生徒が校舎の上から飛び降り自殺をするシーンを撮影したいそうである。いやいや、マジで投身事故になるやろ。こういうのはちゃんとしたスタント専門の役者さんが居そうなものなのだが、前回の焼身スタントが意外に好評であり、名指しで指名があったそうだ。俺、スタントマンと違うし・・・・・・。正直なところ、自分にタイミングと言われても、そんなものあるかと言いたいところである。屋上の柵お思いっきり握りしめながらもう一度下を覗いてみる。マンションでいうと6階位に相当しそうな感じである。
「いい加減早く飛び降りたまえ!!」小野寺社長の声が響く。あんたは鬼か!悪魔か!
「ちょ、ちょっと!待ってくれよ!!」俺の呼吸を整える。あの小さなマットの上に背中から綺麗に着地するなんて神業としか思えない。何度か屈伸をしてジャンプを頭の中で想像する。その間も手を離すことは出来ない。
「早くしろ!」
「解ったよ!・・・・・・・どりゃああああああ!!」思い切って飛び降りる。出来るだけ手をばたつかせてから・・・・・・・マットに着地は背中からで両手で受け身を取るように・・・・・・・出来るか!そんな簡単に!!と、頭で考えているうちにマットの上に着地した。
「凄い!!」「素晴らしい!」「ブラボー!!!」スタッフ達の絶賛の声が聞こえる。どうやら俺の着地は上手くいったようだった。あんなに小さく見えたエアーマットがこんなに大きく感じる。俺は一回だけ深いため息をついてからマットの上から転がり下りた。
「いやー!君、本当に凄いな!!」監督が拍手をしながら近づいてくる。
「あ、いや、ありがとうございます・・・・・・・」俺は、まだ胸の鼓動が止まらない。
「君はどこかでスタントの勉強をしていたのかい?あんなに上手い飛び込みは見たことがないよ!」監督が感極まったように握手を求めてくる。いいえマグレです。
「ああ、彼はアメリカで本格的に修行をしていたんですよ」えーと、小野寺社長・・・・・・、だれの話をされているんでしょうか?
「そうですよね!いやー!いい絵が取れました!ギャラを弾んでおきますから」
「ありがとうございます!」丁寧にお辞儀をしてから、俺のほうを見て舌を出しながらブイサインをした。俺はいつの間にかアメリカ帰りのスタントマンという設定になったようであった。
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