第43話 君と二万円

 家に帰ると美桜と昌子の二人は出かけていた。そういえば今日は、美桜のラジオの収録の日であったことを思い出した。俺が帰って来ない事を美桜は少し怒っていたようだが、俺の代わりに昌子がハーレーダビッドソンで送っていったらしい。いつの間にか完全に俺のZX10Rはタクシーのようにあつかわれている。タクシーで行くくらいのギャラは余裕でもらっているだろう。


「お帰り・・・・・・」小野寺社長は美桜の収録に付き添わないで、俺達の帰りを待ってくれていたようであった。その心配りに感謝する。


「桃山君、もし良ければ私と少し話をしないかい?」小野寺社長は身なりこそカジュアルのままではあったが、その表情は真面目な仕事モードの顔であった。


「はい・・・・・・・」桃子は小さな声で返答をする。先ほどまでの俺に対する対応とは全く違う。


「あっ、すまないが、亮介君は席を外してくれないだろうか」小野寺社長は俺の顔を見る。内容的に男が居ては話せない事もあるのだろうと俺は察して頷いた。


「それじゃあ、俺何か夕食を買ってきます」夕飯の当番が俺であった事を思い出したが、もちろん準備など出来ている筈もない。


「そうだな・・・・・・、これで何か美味しい物を買ってきてくれたまえ」そう言うと小野寺社長は財布から2枚の万札を差し出した。その顔がすごく男前に見えた。


「こ、こんなに・・・・・・・、いいんですか?」一体何を買ってくればいいのか迷ってしまう。


「・・・・・・・レシートはきちんと貰ってきてくれよ!」経費で落とすつもりなのかしら。俺はよろしくお願いしますとの気持ちを込めて軽く会釈をしてから、家を飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る