第33話 君とティーバック

「あっ、今日が引っ越しの日でしたか……」家に帰ると小野寺社長の引っ越しが行われていた。


「おう、待たせたな!今日から私もここで一緒に生活させてもらうぞ!」右手でこぶしを強く握りしめて決意をしたような顔をしていた。


「いや、別に待ってませんが……」思わず本音が出てしまった。


「な、なに!」耳ざとく彼女は俺の声を拾ったようだ。その顔が鬼のような形相に見えた。


「ま、またぁ……、亮介さん……、照れちゃって……」美桜がフォローを入れる。


「えっ、そ、そうなの?そうなんでしゅか……?」小野寺社長は顔を真っ赤にして舌足らずのように声をだした。


「あっ、手伝いますよ!俺は玄関先に置かれた段ボールを持ち上げる」思ったよりも軽くて反動で転んでしまう。


「その荷物は!?」小野寺社長は恥ずかしそうに慌てる。


「あー!!」段ボールの中から荷物が飛び出して俺の上に降りそそいだ。「な、なんだこれ?」頭に乗った布切れを手にとって広げる。ティーバックのパンツ!


「きゃあああ!!」小野寺社長は聞いた事が無い悲鳴をあげ、真っ赤な顔で段ボールに散らかった下着類を無理やり詰め込んでから、二階の部屋へ慌てて飛び込んでいった。


「な、なんなんだ……」俺は呆気にとられていた。


「社長のパンツ、エグいですね……」美桜の放った一言が面白くて少し笑ってしまった。


「どうしたの?」昌子が帰ってきた。


「ああ小野寺社長が今日、引っ越して来たんだよ」昌子も日程は把握していなかったようだ。


「そうなんだ。にぎやかになるね……」言葉とは裏腹に少し元気が無いようであった。


「どうした?なにかあったのか……」少し前に来た男が関係あるのかなと勝手に想像していた。


「ううん、ありがとう……。大丈夫だよ!それより引っ越し祝いしないとダメだね」靴を脱ぎながら彼女は提案した。


「それなら大丈夫だ!」二階から小野寺社長の声がした。一同は階段を見つめる。「すでに、オードブルを注文しておいた!」いや、自ら手配済みでしたか……。さすがに段取りが良くて感心しました。


「やったー!それじゃあ、美桜ちゃん!私達も買い出しに行こうか?」やはり、先程元気が無かったのは勘違いなのだろうか。


「はい!」美桜は元気に返事をした。

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