第32話 君と手を……

「うおーMIONちゃんだー!」金髪の秋村と大森が走ってくる。お前らいつの間に仲良くなったのよ。美桜は大学のキャンパス内では眼鏡を外している。


「こんにちは。でも、学校ではその名前は……」出来れば美桜として学園生活を謳歌したいようであった。


「ごめん……、でもこの間のラジオ聞いたよ!桃子ちゃんと二人の掛け合いが楽しかったよ!」秋山が楽しそうに感想を述べた。お前、この間まで美桜見て舌打ちしていたくせに……。それに、桃子が楽しそうって、それは幻影でしかない。本当の彼女は、お前に負けない位、舌打チストだ。


「そういえば夏休みにさ、みんなで海に一泊旅行に行こうかって話をしてるんだけど、美桜ちゃんはどう?」大森が下心見え見えの感じで彼女に声をかける。あのさっきから気になっていたんだけど、俺ってもしかして蚊帳の外ですか?


「旅行ですか……?どうしようかな……」俺の顔を見る。それを見て大森と秋山も睨み付けるように俺の顔を見た。


「あっ、いや……、そうだな。小野寺社長にも相談した方がいいんじゃねぇの?」俺はもしかしてマネージャーみたいになってないか。


「そうですね……、今度お返事させて頂いてもいいですか?」美桜はニッコリと微笑んだ。


「は、はい!待ってます!」二人はその笑顔に心臓を撃ち抜かれたようであった。そりゃアイドルにこんな感じで語りかけられたら、普通はそうなるわな。一緒の家に生活していると正直段々とマヒしているようである。


「美桜ちゃん、講義に遅れるから急ごう!」俺は彼女の手を繋ぎ教室へと急ぐ。


「あっ……」なんだか一瞬、彼女が恥ずかしそうに躊躇とまどったようだ。


「あっ、ごめん!つい……」そりゃ突然、好きでもない男に手を繋ながれたら嫌だわな。少し焦りながら彼女の手を離した。悪い事をしたと思い陳謝する。


「い、いえ!私こそご免なさい。ビックリしちゃって……」彼女も何故か謝った。あれ、気のせいか少し嬉しそうな顔をしているような感じがしたが……、やっぱり気のせいだわな。


「とにかく急ごう!」本当に講義に遅れそうな時間だったので美桜に声をかけた。


「はい!」彼女は満面の笑みで微笑んだ。


 その様子を見て、大森と秋山は悔しそうな顔を見せた。

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