第31話 君と消費税

「申し訳ございませんが、カウンター席でも宜しいでしょうか?」お昼時で店内が混んでいるようでテーブル席は一杯のようである。


「どうする?」俺は気にしないのだが、一応美桜に確認をする。


「私も全然大丈夫ですよ!っていうか、カウンター席って初めて!」なんだかうれしそうであった。


「それではあちらの席でお願いいたします」店員が丁度二人分のスペースの空いた場所を案内する。


「あっ、亮介さん。私、ちょっと化粧直しに行ってきます。先に食べておいてください」彼女はそういうと席に座らずに、化粧室へと向かった。


「よっと……」席に座る時に、隣に座る女性に少し当たってしまった。「あっ、すいません」


「ちっ!」舌打ちが聞こえる。なぜか聞き覚えがあるその響きに主の顔を確認する。だて眼鏡に帽子を被っているが、それはたしかに桃山桃子であった。


「あっ!君は……」俺の驚く声で辺りの人達の視線が向けられた。その瞬間、桃子に睨み付けられる。「あ、いや、いや……」なにもなかったように、お茶の粉末を湯飲みに入れて、お湯を足した。


「けっ、リア充か……」なに、その呼び名!俺の事か。


「アイドルも回転寿司食うんだ」小さな声で呟く。


「私だって人間だからね。飯も食えば糞もするよ」滅茶苦茶口が悪いですやん。あなた本当にアイドル桃山桃子さんなの?


「そうですか……」あまりの悪態にどう答えてよいか躊躇する。ひとまず俺の好きなイカを取る。俺は甘だれで寿司を食べるのが好きなので瓶を手元に寄せる。


「キモっ……」突然、桃子の突っ込み。


「えっ、何が?」俺は理解出来ないでいる。


「普通は甘だれ使わんだろ。普通の醤油でたべないと、味が解らないよ」それは君の意見でしょう。ここに甘だれがあると云うことは、少なからず使う人がいるということなのだ。彼女の言葉を無視して甘だれでイカを一貫口に入れる。


「かー、上手い!」俺は至福の瞬間を噛み締めた。


「キモっ……」また言った。俺ってそんなに気持ち悪いの。今まで自覚が無かったよ!


「ちょっと、そんなに言うなら騙されたと思って一回だけ食べてみろよ!絶対旨いから!」言いながら甘だれをつけたイカを皿ごと一貫差し出した。


「要らねえ!」お前本当にアイドルか?普通の女の子の百倍は口悪いぞ。彼女は皿を俺のほうに戻した。


「いいから!」俺は再度、皿を彼女に差し出した。


「ちっ……」舌打ちしながらではあったが、イカの握りを箸で摘まむと口の中に放り込んだ。「ウマっ!」思わず声が出てしまったようだ。


「だろっ!」俺は勝ち誇ったように胸を張る。


「どうしたんですか?」美桜が化粧室から戻ってきた。なぜか俺の顔を見てキョトンとしている。


「あっ、コイツが……」と振り替えるとそこに桃子の姿は無かった。代わりにテーブルの上に五十五円が置いてあった。どうやら自分が食べたイカの代金を置いていったようである。「消費税まで……細かい奴……」俺はその行動に少し呆れながら笑った。


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