第30話 君と回転寿司
「昌子!昌子!いる」翌日の午前中、また茶髪の男がやっきた。
「あっ、今は篠原さんは留守だけど……」昌子は大学の講義で出掛けている。
「あっ、そう!出直してくるわ」男はぶっきらぼうにいい放つと帰ろうとする。
「えーと、あなたはどなたですか?」俺は男に声をかける。
「え?なに!あんた昌子のなんなの?そんなのいちいちあんたに言わねえといけねえの!ここ?」茶髪がちょっと喧嘩越しに言ってくる。
「あっ、いや、そんな訳では無いですが……」俺はいざこざが嫌いな方なので声が小さくなってしまった。
「ちっ!気分悪りぃ!」いえいえ気分が悪いのはこちらのほうですが……。扉を勢いよく閉めると男は帰っていった。畜生、塩撒いてやろうか。
「どうかしたんですか?」美桜が騒ぎを不審に思い部屋から顔を出した。男の声と扉を思いっきり閉めた大きな音に驚いたようであった。
「あっ、いや……、別になんでもない……」流石に美桜にさっきの男の事を話す気にはなれなかった。
「そうなんですか……、そういえば、亮介さんと私、今日は昼から同じ授業ですよね?」目をキラキラさせている。そんなに大学の授業が好きなのね。
「ああ、そうだった……」さっきの茶髪の男の事が気になって学校に行くことを、忘れてしまうところであった。
「良ければ、いっしょに二人でお昼ご飯を外で食べませんか?」美桜が誘ってくる。こんな光景を彼女のファンに見られたら殺されるかもしれない。
「そうだな……、俺は構わないけれど美桜ちゃん目立つからな……」先週から始まったラジオの番組のせいもあり、街中で声を掛けられる事が多くなったようである。
「あっ、一応変装用のグッズを用意しました」手にはあの牛乳瓶眼鏡と帽子を持っていた。たしかに、あんな眼鏡を見てアイドルだとは思わないだろう。ただ、少し変わった人だとは思われるかもしれない。
「何を食べたいの?」なにか、ご希望があるのだろう。
「そうですね……、回転寿司とか……どうですか?」美桜は目を輝かせている。アイドルは回転寿司など行かないんだろうなと思った。
「昼から寿司ですか?」まあ、昼も普通にやっているのだから可笑しくは無いのだろうが、昼から豪勢な気がした。回転寿司も枚数がかさむと結構な額になるのだ。
「おかしいですか?」美桜は恥ずかしそうな顔を見せる。
「いやいや……、それじゃあ、それにしようか」俺も寿司は嫌いではない。
「やったー!」美桜は子供のように喜んだ。
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