第8話 君と海
「ねえ、ちょっとだけいい?」オリエンテーションが終わり、自分の部屋へ帰ろうとする俺に昌子が声をかけてくる。皆に気づかれないように小声であった。
「な、なんだよ。あらたまって……」なに、なんだ、俺を恐喝でもする気ですか?
「ここじゃあ何だから、一時間後にロビーに来てよ」
「解った……」まあ、一応平然を装って返答する。でも金を貸してくれと言われても貸す金はねえぞ。まあ、金をせびられた事などないんだが……。それとも、昼間に金髪と揉めた事を怒る気だな!きっとそうだ!
ひとまず部屋に戻って、ゴチャゴチャしてたら約束の時間になったのでロビーに向かう。もう、ホテルの土産物コーナーも閉店して照明も少なくなってひっそりとしている。
まだ、昌子は来ていないようなので椅子に腰かける。
「おまたせ」昌子が現れる。おや、この一時間でお風呂でも入られたんですかね。なんか良い香りをさせておいでてすね。
「いや、今来たところだよ」正直言うと、眠いので寝かせてほしい。
「ちょっと外を散歩しない?」後ろに手を組み前屈み。それは小悪魔の男をたぶらかすお決まりポーズのひとつだな!俺は惑わされんぞ。
俺達は静かにホテルを抜け出すと近くの海に出た。おう、雄大な日本海。すげえ荒波だ。
「ねえ、本当にあの美桜さんと、付き合ってるんじゃないの?」砂浜を後ろ向きに歩きながら昌子が尋ねてくる。なんた、そんなに俺と美桜をくっつけたいのか?まあ、美桜が断固拒否するだろうが……。
「だから違うって……。あの
「ああ、彼女がそうだったんだ……」昌子は振り返り海を見た。暗くてよく見えないが波の音が激しく聞こえる。
「話ってなんなんだよ」早く帰って寝たいわ。
「うん……、ねえ、もう一度付き合わない」昌子はもう一度振り返りながら足を止める。彼女と俺の距離が少し近くなる。
「はぁ、なにそれ?俺をからかってんの」俺は彼女の言葉を聞いて耳を疑った。
「……」
「高校の時に、別れるって言い出したのはお前だろ。また、俺を泣かせる……いや、怒らせる気か?」あの時の号泣を俺は忘れない。
「あの時は受験に集中したかったのよ。亮介との時間はとても楽しかった。でも……」でも、なんやねんと思ったけれども、その先を聞く気には今はなれなかった。
「ちょっと、無理じゃねえかな……」俺は逆に昌子から背中を向けた。
「私、諦めないから……」この時、昌子が言った言葉を俺は聞き取れなかった。
「寒くなってきたから帰ろうぜ」俺がそう言うと昌子は無言で頷いた。
ホテルの中に入ると、先程まで俺か座っていたソファーに人影が見えた。
「あー!ビックリした!!」それは分厚い眼鏡を掛けた美桜であった。「美桜ちゃん、こんな遅くまでなにしてるの?」時計はいつの間にか十二時を過ぎていた。
「……」彼女は返答せずに、俺の後ろにいた昌子を見た。
「あっ、違うのよ……!」昌子が慌てたように両手を振った。えっと、何と何がちがうのでしょうか?俺にはさっぱり理解出来ないのですが……。
「お休みなさい!」美桜は顔を少し赤くして泣いているようにも見えた。誰かに虐められたのか?そうか、それでロビーにいたのか……。酷い奴がいるもんだ。
「こめんね」昌子がいきなり謝る。えっ、虐めてたのお前?って、さっきまで一緒にいてたやん。昌子もそのまま、自分の部屋に帰っていった。
えー!どういう事なん!今、目の前で展開された出来事がさっぱり理解出来ない俺でした。
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