第9話 君と変身

「おはよう」俺は欠伸をしながら席に座る。


「おう、おはよう」目の前には大森。彼の前には沢山の食材が並べられている。


「朝から結構食べるんだな……」ちょっと退くぐらいの量であった。


「バイキングだからな。元取らんと損だろ」お前、旅行の金額を全部ここで回収するつもりなんか?


 少し向こうを見ると先日少し揉めた金髪の姿。数人の女子と一緒に歓談している。まあ、ああいう奴は要領良く学生生活をエンジョイしていくんだろう。どうせ、俺には縁の無い世界なのさ。ふん。


「おはよ」昌子が隣の二人掛けのテーブルに座る。ちなみに俺達の席は4人掛け、その半分は大森の食料に占拠されている。


「おう」俺は軽く手をあげて返答をする。

「しょしょ、いや篠原さん!?」隣に昌子が座った事で、大森は驚いたようだ。そうか俺が昌子と顔馴染みと云うことを知らなかったのだ。まあ、いちいち説明するのも面倒なので放置しておこう。


「昌子さん、俺が何か取ってきましょうか?」突然、金髪が昌子の目の前に現れて自己アピール。おー、このマメさは見習わねば……って無理。


「ありがとう!でも、自分でやるから大丈夫よ。亮介……、行く?」どこに?あっいや、料理でしたね。


「ああ」俺は二人の驚く視線を無視して、席を立つ。


「昨日は急にごめんね」あや?なんか汐らしい。謝るということは、やはり俺をまた泣かす気だったんか?


「いや、別に……」とりあえず皿をとり、パンを数個とオレンジジュース。


「美桜ちゃんは?」昌子が彼女の所在を確かめる。確かに昨夜の様子はちょっとおかしかったので気にはなる。まあ、友達と一緒に食べる約束でもしているのであろう。


「今朝は見てないな」


「そうなんだ……」昌子は適度なショートの髪を軽くかき揚げる。また、良い匂いさしてるじゃねえか……。お前は童貞ホイホイか……。


「よっこらしょっと」オッサン臭い声を出しながら席に戻る。大森の目の前の皿が減っていた。さすがに昌子にあの量を見られるのは恥ずかしかったのだろう。


「なんだ、もっと元を取らんでいいのか?」


「いや、腹八分ってヤツだ」いや、あの量は俺なら腹二十四分位だわ。


 パンをかじりオレンジジュースを飲む。ちょっと目を瞑り背もたれにもたれる。


「おはようございます。亮介さん、隣良いですか?」美桜の声。今、起きてきたのか?


「ああ、いいよ」ろくに彼女を観ずに返答をする。


「お、おい」

「えっ!?」

「すげえ……」何、何かあったのか?周りから感嘆のような声が聞こえる。


「え、えっとこのは誰……?」大森が震える声で聞いてくる。


「えっ!?誰って美桜ちゃ……ん!?」そこには長い美しい黒髪の瞳が大きい美少女がいた。


「えっ、おかしい……ですか?」恥ずかしそうに美桜は赤くなる。その仕草がさらに可愛い。


「い、いや、絶対にそれのほうが良いよ。滅茶苦茶、可愛いよ!」


「あ、ありがとう」更に真っ赤になる。


「なに、公開告白してるのよ!でも、本当に美桜ちゃん、可愛いわね。それならこんな奴より、良い人絶対できるわ」昌子さん、こんな奴って誰の事?ああ、大森ね、大森の事だね。可哀想だなお前って……。


「私は、亮介さんがいいんです……」言いながら俺の隣の席に座る。


「ねえ、ねえ、俺、秋村っていうんだけど、美桜さんだったよね。向こうで俺らと食べようよ!」金髪の名前は金髪くんじゃなかったんだ。興味ないけど。


「私は、ブスですからほっといてください」言いながら少し俺との距離を詰めてくる。


「あっ、いや……」ばつが悪そうに金髪くんは向こうにいった。よく言ってやった。俺は美桜を見て微笑む。


「やるねぇ!美桜ちゃん」昌子が痛快な顔で笑う。お前はいつもやりまくりやもんな。昌子の笑う顔を見て俺は思った。






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