第6話

 4月28日、アメリカの上院議会はデイビス大佐事件を調査するために特別チームを編成した。チームリーダーに上院議員のエドワード・キャンベルが選出された。キャンベルはすぐに国防総省のサーバーにアクセスし、小惑星衝突に関わるデータをすべて取り出した。次に航空宇宙局のサリンジャーに小惑星の改ざんデータと、正しいデータを提出させた。キャンベルは特別チームの仲間と共にデータをまとめていった。


 4月29日、朝9時、アメリカの大統領執務室のドアにノックの音がしたかと思うと、キャンベルが入ってきた。キャンベルは机の上の大量の資料に囲まれているグッドマンに向かって言った。

「やあ、ジャック、調子はどうだい?」

グッドマンは机の上の資料の間からキャンベルを見ながら

「調子がいいも悪いも、いきなり大統領になった者の身にもなってみろ。」

と言った。グッドマン大統領代行とキャンベル上院議員は大学時代同級生で旧知の仲だった。2人とも弁護士出身でグッドマンは与党、キャンベルは野党だった。太ったグッドマンと痩せて背の高いキャンベルは性格も、考え方も対象的だった。

「すごい量の資料だね、でもこっちの方が緊急事態なんだ。マーティンから聞いているかい?」

キャンベルは机の上の資料をかき分けてノートPC置くと、画面をグッドマンに向けた。画面には国防総省の資料が表示されていた。

「緊急事態って何?」

グッドマンはマグカップの中のコーヒーを口に含んだ。

「明日アメリカと日本のアメリカ軍基地に核ミサイルが撃ち込まれる。」

「何だって。」

グッドマンは口に含んだコーヒーをブーっと噴き出して言った。

「ロシア、中国が明日の正午過ぎに我が国と日本にある我が国の基地に向けて核ミサイルを撃つつもりだ、時差を含めて34時間後に発射されることになる。」

キャンベルは腕時計を見ながら言った。

「まずいな。核ミサイル撃たれるなんてマーティンから聞いてないよ。」

グッドマンは渋い顔で言った。

「おそらく、国防総省のZONKプロジェクトのメンバーと軍の上層部のみが知っていることだ。俺は国防総省のサーバーにアクセスして、デイビス大佐のメールの内容が事実かどうかを調査した。彼のメールの内容はすべて事実だった。ZONKプロジェクトは国防総省の極秘プロジェクトで、大統領をリーダーに、国防総省のトップクラスがメンバーになっていた。国防総省の本庁舎にいたZONKプロジェクトのメンバーはデイビス大佐のミサイル攻撃によってほとんど死んだ。デイビスはプロジェクトメンバーのいる場所をピンポイントで攻撃したんだな。」

キャンベルはノートPCの画面を操作して説明を始めた。

「これが、国防総省が持っているロシア、中国、インドの我が国への攻撃に関する資料だ。ZONKプロジェクトはロシア、中国、インドが行っている、この間の極秘会議の内容を全て傍受していて、ロシア、中国、インドからの我が国への攻撃の詳細についても把握していた。4月30日の正午前に中国は政府のシステムにサイバー攻撃を仕掛ける。ロシアは我が国の主要な軍事施設に大陸間弾道弾を撃ちこむ。同時刻に中国の中距離核ミサイルを日本にあるアメリカの基地に撃ち込む。核ミサイルでアメリカの軍事力を無力化してから、カナダ、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンを急襲して、武力によって政権を奪取するつもりだ。ロシア達は小惑星の衝突まで時間がないから核ミサイルを使って効果的に政権を奪取する作戦を考え付いたんだな。国防総省はロシア側の攻撃を全て網羅していて、アメリカへの大陸弾道弾は迎撃するつもりだったが、日本にあるアメリカ軍基地への中距離ミサイルはあえて迎撃しないつもりだった。無残にも破壊されていく日本のアメリカ軍基地を撮影しておいて、国民の士気をあおるつもりだったんだ。」

「リメンバージャパンってわけだ。」

グッドマンが呟いた。キャンベルが頷いた。

「で、どうする?」

グッドマンが訊いた。

「現在ロシア、中国、インドの代表はロシアの大統領執務室で我が国を攻撃するための準備を進めている。ここに行って、小惑星の衝突は我が国の陰謀で、実際には衝突しないから避難の必要はない。だからカナダ、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンを攻撃しないでくれって頼むんだ。」

キャンベルが言った。

「お願いって俺がするの?ロシアに行って?」

グッドマンは身体をのけぞらせて

「ちょっと待ってよ、いやだよそんなの。だってZONKプロジェクトなんて俺知らなかったのに、何で俺がそんなことしなきゃいけないの?ロシアに行ったら、俺、殺されるかもしれないよ。」

と続けた。キャンベルは一枚の紙をグッドマンの目の前に差し出した。

「何、これ、全権委任状?」

グッドマンが訊いた。

「これにサインをしてくれれば、俺がロシアに行ってくる。」

キャンベルが言った。グッドマンは全権委任状を受け取りサインして、キャンベルに渡し、すぐに卓上の電話をとり、ロシア大統領執務室につなぐよう依頼した。キャンベルは全権委任状を受け取り

「ありがとう。」

と言って、ノートPCを持ち、急ぎ足で大統領執務室を出ようとした。グッドマンが受話器から口を離して、

「大統領専用機使っていいよ。」

と言った。キャンベルは笑顔で頷き、執務室から出て行った。

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