第5話

 4月26日 日本ではブラジルへの避難者の抽選結果が発表された。ショウとユウカは自分たちの登録番号JK1107番が選ばれているかを見るためにスマートフォンで政府広報のサイトを閲覧しようとしたが、アクセスが集中して閲覧できなかった。テレビの特別番組で抽選結果の発表があった。ショウとユウカはドキドキしながらテレビの画面に自分たちの登録番号を探したが、JK1107番は選ばれていなかった。

「ウソ…。」

ユウカは顔を覆って泣き出してしまった。泣き出した母親を見てレンも泣き出した。サクラは泣きじゃくる母を見て

「ママ泣かないで、泣いちゃだめでしょ。」

と言った。ユウカは

「そうね、泣いたらだめよね。」

と言ってティッシュペーパーで涙を拭った。ショウは涙をこらえてユウカの肩を抱いた。ユウカは子供たちが寝た後、子供たちの将来を案じて一晩中泣き続けた。SNSのグループラインにはママ友たちの悲痛な叫び声が飛び交っていた。


 4月27日 早朝、アメリカの国防総省ペンタゴンに戦闘機がミサイルを撃ち込みペンタゴンの一部が損壊し、多数の職員が死傷した。戦闘機はそのままペンタゴンに突入しパイロットは死亡した。パイロットはアメリカ空軍のニール・デイビス大佐で、大佐は国防総省に突入する前に親友のデビット・ジョーンズにEメールを送っていた。ジョーンズはEメールの内容をアメリカのテレビニュースチャンネルのディレクターに送った。アメリカで放送された内容はさらに、世界各国に放送された。Eメールは次のようなものだった。

「親愛なるデビット、今までどうもありがとう。君と過ごした時間は僕にとってかけがえのないものだったよ。君がこのメールを読んでいるころ、僕は国防総省に突っ込んでいるだろう。僕がしたことは決して許されることではないと思うが、こうでもしなければ彼らを止めることはできないと思ったんだ。国防総省はとんでもないことを企んだ。偽物の小惑星型ロケットを造って宇宙から地球に向かわせて、小惑星が地球に衝突して大災害が起きるって世界中の人に思い込ませるんだ。国防総省は以前から世界人口の適正数は15億人くらいと考えていた。現在の世界人口は80億人を超えている。つまり65億人多すぎるってことだ。世界人口を減らさなければならない、ただ人口を減らすなんて簡単にできることじゃない。そこで、小惑星を地球に衝突させることを発案した。最初に考えたのは宇宙空間を浮遊している小惑星の軌道を変えて地球に衝突させることだった。でも、これはとても難しくて成功しなかった。そのうち、偽物の小惑星でもいいじゃないかってことになって、偽物の小惑星を造る“ZONKプロジェクト”っていうのを立ち上げた。プロジェクト全体の責任者はマーティン大統領で、僕はプロジェクトの中でロケット打ち上げを担当していた。ロケット開発は航空宇宙局が中心になって行い、日本の宇宙開発機構も協力した。偽物の小惑星はロケットに4つの巨大な風船を合金で固定したもので、風船の中身は光に反射する特殊なガスを注入するんだ。プロジェクトは多額の裏金を軍事企業に支払ってロケットを造らせた。最終的な姿の画像送るね。プロジェクトは何度もアリゾナの砂漠で極秘のテストを繰返して偽物の小惑星ロケットが完成したのが去年の夏のことだった。去年の10月に偽物小惑星ロケットを積んだ母船ロケットを打ち上げて、発射地点まで進ませた。2月に母船が2,000万㎞先の発射地点までとどいたところで遠隔操作で偽物小惑星ロケットの風船を支える形状記憶合金が球の形を4つ作らせ、その中に風船を入れて特殊ガスを注入して膨らませてから、ロケットエンジンを点火し、ロケットの軸方向に高速で回転させながら地球の中国に衝突する軌道に設定して発射させた。地球から見ると風船ロケットは光にしか見えないから、直径500m以上の小惑星に見えるんだ。これを、どこかの天文学者が発見して詳細はアメリカの航空宇宙局が調査する、航空宇宙局は小惑星の組成は金属だって嘘をつく、小惑星が中国のチベット高原に向かって近づいてきている。さあ、大変だ、どうしようってことになるんだ。実際には偽物の小惑星は大気圏突入時に大方が燃えつきちゃうんだけどね。中国に直径500mの金属でできた小惑星が衝突するってなったら中国はもちろん、周辺諸国も地球の反対側の国に避難しなきゃってなるだろ。それをアメリカ側で拒否すれば中国側は武力で奪い取ろうってことになってアメリカ側に攻撃を仕掛ける。アメリカはロシア、中国、インドにありったけのミサイルを撃ちこんで滅亡させてしまうつもりだったんだ。

 僕は元々戦闘機乗りになりたくて、士官学校に入った。戦闘機に乗っているときは楽しかったけど、偉くなって戦闘機に乗る機会が減ってつまらなくなったな。軍人はみんな軍に洗脳されていて、僕も洗脳されているふりをしていたけど、今回みたいのは許せないよね。大好きな戦闘機に乗って最後の時を迎えるとするよ。

 悪いがデビット、このメールをテレビ局のニュースキャスターに送ってもらえるかな。

 さて、そろそろ行かなくっちゃ。」


 ロシアの大統領執務室にロシア、中国、インドの代表者が集まりデイビス大佐のメールについて報じたニュースを見ていた。

「この話本当かな?小惑星はアメリカが造った偽物だって。」

スミルノフは言った。

「わからないよね。本当だとしたら、このデイビス大佐って命がけでアメリカの陰謀をばらそうとしたんだよね。」

ソウが言った。

「僕はデイビス大佐のメールは本当だと思う、だって小惑星が中国のチベット高原に衝突するって、なんか話がうますぎるよ。」

カーンが言った。

「そうか、デイビス大佐が言うようにアメリカは中国に小惑星が衝突することになれば、中国は国民を避難させようとして地球の裏側の国を武力で制圧するだろうって想定してたわけだ。」

スミルノフが言った。

「でも、小惑星が本物で、デイビス大佐のメールがアメリカの陰謀ってこともあり得るよ。我々がアメリカを攻撃しないで避難しなければ小惑星の衝突で我々は滅亡しちゃうんだからね。」

スミルノフは言った。

「なるほど、我々が攻撃するかもしれないって思ったアメリカが我々に攻撃も避難もさせないで小惑星を衝突させて滅亡させる気ってことだね。」

ソウが言った。

「やっぱり、カナダ、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンを武力で制圧して避難するしか方法は無さそうだね。」

スミルノフが言った。


 デイビス大佐のメールがテレビニュースで伝えられてから1時間後、マーティン大統領は緊急記者会見を開いて、デイビス大佐は精神を病んでおり、Eメールの内容はでたらめだと語った。しかし、世界中の複数の天文学者が小惑星ホープを高速度カメラで撮影し、静止画像にして見ると、写されたホープの画像はデイビス大佐がジョーンズにEメールで送った画像と同一のものだと分かった。この画像は世界中のテレビニュースで報じられ、追い詰められたマーティン大統領はその日の深夜に大統領執務室で短銃をくわえて自殺した。合衆国の規定によりジャック・グッドマン副大統領が任期終了の9月まで大統領代行を務めるになった。

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