第3話

 4月16日、ロシアの大統領官邸に10日前と同じメンバーが集まり、ロシア、中国、インドの申し入れに対するカナダ、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンからの回答を確認した。ロシア、中国、インドの全国民の避難の受け入れは不可能であるが、日本のようにブラジルの砂漠地帯を有償で借用し、自前でインフラ整備して避難するのであれば考えてもいいとの返答であった。但し、衝突までの時間がないことから、日本はブラジルへの避難者数は100万人としている。とのことであった。

イワノフ大統領は

「まったく、薄情な奴らだ。我々の申し入れを拒否するとは…。」

と言って首を振った。

「あちらにしてみれば、30億人の避難民を受け入れるのは難しいと思います。我々も日本のようにブラジルの砂漠地帯を有償で借りて整備して避難する方法を検討するべきではないでしょうか?非難する100万人の選択権はこちらにあるのだから、政府要人や官僚や関連企業のトップとインフラ整備する人員を最優先にして。」

中国のリュウ主席が言った。

「私も、リュウさんの意見に賛成ですね。国民には全員避難すると言っておいて、選ばれた者だけ避難してしまえば、小惑星が衝突した時に残された国民は全て死んでしまうので文句も言えないですからね。」

シン大統領が同意した。

「では、カナダ、アメリカ、ブラジル、アルゼンチンには、ロシア、中国、インドも日本と同様の方法でブラジルに避難したいと申し入れましょう。」

イワノフ大統領が言った。会議参加者全員が拍手で同意した。


 4月17日、ブラジルに向けて、ロシア、中国、インドも日本と同様の方法でブラジルに避難したいと申し入れると、ブラジルはロシアからの申し入れを受け、砂漠を提供してもいいが軍属の避難と軍の兵器の持ち込みは拒否すると伝えた。


 4月18日、ロシアの大統領官邸に集まったイワノフ大統領とリュウ主席とシン大統領は三人だけで、ブラジルの回答について協議した。

「困ったな、軍属と兵器の持ち込みはやめろと言ってきた。」

イワノフ大統領が言った。

「確かにあちらからすると、他の国の軍人や兵器は喜ばしいものではないでしょうね。」

リュウ主席が言った。

「軍属の者に一般人のふりをさせて非難するのはどうでしょうか?」

シン統領は言った。

「それは無理だと思います。アメリカは諜報活動でこちら側の政府の人材データを取得しているはずです。こちら側が嘘をついて、ばれてしまった時のことを考えるとあちらの指示に従うしかなさそうです。」

リュウ主席が言った。各代表者は苦い顔をしたが、心の中にあるのは自分と自分の仲間たちがブラジルに安全に避難することで、軍属の者には犠牲になってもらうしかないだろうと考えていた。

「では、あちら側の指示どおり、軍属と軍の兵器は持ち込まないとブラジルに伝えよう。それで、この話は軍部には当面秘密にしておき、軍属は避難を後にすることと決定して、我々がブラジルに避難した後に話すことにしよう。」

イワノフ大統領が言うと、リュウ主席、シン大統領、ドルジ大統領は頷いた。自分を会議から外したことに不信感を持った、ロシア国防大臣のアントーノフが会議を盗聴していて、軍属を避難させない計画を聞いて激怒した。“我々が今まで国のためにどれだけの犠牲を払ってきたと思うのだ。”アントーノフはその日のうちに会議の音声データを自国のテレビニュースにリークした。テレビニュースは中国、インドにも流れた。怒り狂ったそれぞれの国の数十万人の市民が政府施設を占拠した。数カ月後には小惑星が衝突して死んでしまうかもしれないと思う市民の捨て身の攻撃はエスカレートした。政府は軍に市民を制圧するように指示したが、自分たちは置いてきぼりにされると知った軍部は政府の命令を聞くわけもなく、各国の政権はまたたくまに崩壊していった。

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