ぴかごろ

雷の轟轟たる音をバックに「犯人はお前だ」って探偵が指さすシーン。ピカッ、ゴロゴロゴロという雷鳴と、稲妻で暗い室内に光のエフェクトが一瞬入る。ミステリー漫画調のシチュエーション。雷鳴、豪雨、閃光はどんなセリフであっても一定の重々しさを保っていて、何かしら重大な出来事が起こっているみたいになる。たとえば、こんなセリフでも。

 「べっ、別にあんたのために作ってきたわけじゃないんだからね!」

 こんな言葉ですら雷鳴、豪雨、閃光の条件が揃えば何かしらの迫力を持ってくるから不思議だ。

 それはさておき、僕にお弁当を渡してきた森乃あかね嬢は、どうやら本当に僕の為にお弁当を作ってきたわけではないようだった。何故そんな事を僕が言えるのかというと、僕は人の発言の本気度をはかることが出来るからだ。

 「あかね嬢」

 「なっ、なによ! まさかいらないとか言うんじゃないでしょうね!?」

 「それはありがたく頂くよ」

 「だ、だったら早く食べなさいよねっ」

 僕のこの能力はその人がどの程度の本音を言っているかどうかしかわからない。あかね嬢が弁当を食べろと思っている事は本気度十割の発言だけど、その言動の理由まではわからない。

 「そんなにじろじろ見なくても食べるからさ……。ん、あぁおいしい。お弁当でこんなにだしが利いたたまごやきを食べたことがないよ」

 「あっ、あたりまえでしょ!」

 ふんっ、とその場をはなれたあかね嬢の最後の言葉は本気度十割。お弁当の出来を見るに、うわさ通り自宅専用の料理人がいるんだろうか。ってか、一体なんなんだあかね嬢。


 「わたしの傘に入れてやらないでもないわよ」

 ピカッ、ゴロゴロゴロは放課後になっても続いていて、昇降口で佇んでいた僕に話し掛けたのはあかね嬢だった。本気度八割。

 「別にいいよ、僕が入ったらあかね嬢の濡れる確率が上がるし、なにより僕は自転車で来てるから」

 「でも」

 「あかね嬢、その気持ちだけでありがたいよ」

 「わかったわよ」

 そういうとあかね嬢はピカッ、ゴロゴロゴロの中を傘もささずに歩き出した。びっくりしたまま僕が見詰めていると「だっ、だったらわたしも濡れて帰ってやるわよ」とあかね嬢は思いつめたように言った。本気度十割だった。


 言葉の本気度十割のときは苦労をする。断るにしても、反対意見をのべるにしても、相手が本気でそう思っているが故に傷つけてしまう可能性があるからだ。

 「あかね嬢の家ってこっちのほうなの?」

 断り切れない僕はあかね嬢の本気度に負けて一緒に濡れながら歩いていた。それでいて、あかね嬢は歩き始めると無口だった。相手の顔を見て、相手の声を聞かないと本心が分からない僕はあまり考えないようにしてただ歩いた。

 てくてくてく。

 てくてくて──。

 「あっ、あんたさ」

 「どうしたのあかね嬢」

 ピカッ、ゴロゴロゴロと空がうなった。

 「べっ、別になんでもない」

 ふいっと視線を外したあかね嬢の黒髪は胸元までべったりとくっついている。本気度二割。このくらいの本気度なら返す言葉は難しくない。

 「あかね嬢、どうしたの? 何か言いたいことがあるなら言っていいよ」

 「……ぴかごろ」

 「え?」

 「ぴかごろっ!」

 本気度十割。

 「わたしが何を言ってるかわからないでしょ!」

「うん」

あかね嬢はむっふーと満足気な表情をした。

「えっ? 何? なんなのあかね嬢? 本当に分からないんだけど」

 「そのまま考えてなさい! それじゃあね!」

 と、あかね嬢は踵を返し歩いてきた方へ戻って行った。

 一体なんだってんだ?


 昨日の意味不明なあかね嬢の言動に、自分の席でもんもんとしていると「さっきからじろじろ見すぎ」とあかね嬢が近づいてきた。

 「昨日の事が気になってるからじゃないかな。あかね嬢、昨日はどうしたの?」

 ピカッ、ゴロゴロゴロと空からの咆哮が轟いた。

 「なっなにあんた、わたしのこと気になっちゃってんの?」

 「うん」

 「ふううん。そう……」

 「うん?」

 「あのっ、そのっ、あんたはさっ、……あんたがいっつも冷静ぶってつまらなさそうだから、わたしがいろいろやってやってんの!」

 「そうなんだ」

 「そうなのっ!」

 困ったことに、あかね嬢の発言はさっきからずっと本気度十割だった。

 「わっ、わたしには秘密が一〇八個あるから、あんたがそれを全部答えるまでかまってあげるわよ」

 「煩悩?」 

 「じゃあ一〇七個で許してあげるっ」

 「はい?」

 「とっ、とにかくあんたのつまらなさそうなのを無くしてあげるって言ってんのっ! わかったら返事しなさい」

  本気度十割。

 「うーん。わかったけど、あかね嬢の秘密を解いたらなんになるの?」

 「そっ、それは……。とっ、とにかく、あんたにとっていい事がいっぱい起こるから覚悟しておきなさいっ!」

 かみなり様が不機嫌なのか、またしても天空からの雄たけびが響いた。

 あれ? そういえばあかね嬢の言葉に合わせてのピカッ、ゴロゴロゴロが多いいような気が……しないでもないな。

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