第6話 部活動決定

放課後、さぁさぁとまだ新しい校舎の汚れを落とすように静かな雨が降っている。雨の日は気分が悪くなることがままある。俺は雨につられて気分が悪くならないよう、心のスピーカーでで明るい音楽をかける。

「明日、4月30日が提出だからな〜」

しまった。何の話か聞きそびれた。

「良太、これなんの話だった?」

イケメンは今日も清々しいくらいにイケメンな様子で、スマホをいじっている。

「部活のこと。そろそろ何部にするか決めた?」

良太は野球部に入ると言っていた。噂によると中学では県でも有名な選手だったらしい。他のみんなはどうするんだろうか。

「ん〜。みんなに聞いてみる」

ちょうどみんな集まってきたようだ。

「部活どうする?みんな決めた?」

最初に口を開いたのは翔太郎だ。

「俺はバスケやるぜ。最初からきめてた。」

うん、身長高いしイメージにピッタリだ。

「私と碧も一緒にバスケ部入ることにした!」

海と碧はバスケか。

「私は吹奏楽部。緩いって聞いたから、優太の手伝いも出来ると思う。」

そういえば優太は両親共働きで小さい弟がいるんだっけ。それで部活にも入らず家事を行うらしい。

「そっか。...優菜やっぱ優太のこと好きだろ?」

後半は優太に聞こえないように言う。

「ちょ、ごめんって。謝るから俺の手首クイって捻るのやめて?」

普段優しい優菜は怒ると怖いらしい。そうゆう女の子っているよね。


自分の部屋で、明かりもつけずにベットに寝転び、スマホを見る。トーク画面の相手は碧だ。


『部活、どうしよう?』

わざわざ聞く必要のない質問だと、自分でも理解していた。それでも聞きたくなった。

1分と開けずに返信が来る。

『何部でも、そもそも部活に入らなくても、爽が決めたならそれが正解。』

しばらくその文字列を見ながら考え込む。


たとえば、バスケ部。

翔太郎や、男女の差はあれど碧、海と一緒の部活動というのは楽しいかもしれない。だがそれは自分にとってぬるま湯と言えるのではないか。友達の多い環境にいて、プレーに身が入るのか。

自分が本気でバスケットボールに向き合うことができるとは思えない。


たとえば、野球部。

まったく経験がない訳では無い。遊び程度でやった事はある。もちろん苦手意識もない。やるなら本気でやりたい。しかし生半可な努力で良太に勝てるとは思えない。本気で良太に勝つためには、他の全てを捨てる必要があると思う。俺にはそれは出来ない。今を無くすことなどできるはずがない。


たとえば、サッカー部。

我が校のサッカー部は、特に強くもなく、目立つ選手もいない。誰も友達のいない環境でもある。

それでも部活を本気で続けるほどの気持ちは、まだ自分にはない。直ぐに辞めてしまうのがオチだ。


他の運動部、文化部も同じだろう。


結局のところ、中学時代と同じ。帰宅部だ。なんのことは無い。自分でも半ばそうなるのだろうと思っていた。


自分に言い訳をして逃げる自分に、また心の中で言い訳をしていることを自覚している自分に嫌気が差した。

雨の日はやっぱり気分が悪くなる。

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