聞こえない

 山男をよく見ると、手にはクラッカーを持っていた。

 私はてっきり銃でも持っているのかと思っていたが、見当が外れた。


 「がっはっはっは!」

 そう大声で笑う山男を見て呆気にとられていると、

 「どうした?姉ちゃん、迷子か?」

 と声をかけてきた。

 「いえ、昨日からキャンプしてたんですけど、顔を洗いに来たら熊が出てきて。」

 しどろもどろになりながら、状況を話す私を見て、

 「がっはっはっはっは!」

 山男は再び笑った。


 どうやらこの山男、この山の持ち主らしい。

 勝手に入ってしまったことを怒られるかと思ったが、よくあることらしいので、豪快に笑っていた。

 「がっはっはっはっは!」

 話を聞いてみると、人と関わるのが嫌で脱サラして山で自給自足をしているらしい。

 山男の家で話し込んでいると、

 「ぐぅ~。」

 ふいに私のおなかが鳴った。

 「がっはっはっ!なんか食うか、姉ちゃん?」

 「なんかいろいろすいません……。」


 出てきたのは豚のステーキだった。

 「こいつはな、まる子って名前の豚で、俺が近づくとすぐ駆け寄ってきてたんだ。丸々太ってておいしいぞ!」

 そうあっけらかんに話すこの男を見て少し引いた。

 「自給自足してると、人と関わらなくて動物としか話さないもんでな、感覚が都会の人とは少しずれてるかもしれんな~。」

 「まぁ、確かに……。」

 そういうと、急に黙ってしまった。何かに思いをはせているようだった。


 ここで、私は聞こえないことに気づいた。

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