何のため

 おかしい、すべてがおかしい。今まであんなにうまくいっていたことがうまくいかなくなってる。

 それもこれも声が聞こえるからだ。

 「今日も素敵だね。」

 なんて言っていた彼も、

 「(早く浮気相手に会いたい。)」

 なんて心では思っていたなんて。

 他人が信用出来ない。怖いのだ。


 「あぁ、もう最悪。」

 私は精神が擦り切れていた。

 あんなに楽しかった日常が、今やうんざりする日常に変わってしまった。

 それもこれも1か月前にあの球体が出現してからだ。

 「いったい何のためにこんな能力が……。」

 あれから毎日のようにその答えを探していた。

 だが、あの球体が再び現れることも、私の能力が消えることもなかった。


 「今日はせっかくの休みだけど、他人と関わりたくないな。」

 最近はいつもそうだった。

 「……誰とも関わらずにソロキャンプを楽しんでみてはいかがでしょうか?」

 何気なくつけていたテレビからそんな言葉が聞こえてきた。

 「ソロキャンプ……か。」


 気づいたら私はホームセンターで道具を買い揃え山へ出かけていた。

 「何もない!本当に何もない!」

 そう、ここには他人がいないのだ。

 ここ1か月で一番の安息の時間だ。

 「このまま山で暮らすのも悪くないかも。」

 本気でそう思った。

 

 気づくと、もう夜だった。

 真っ暗な中で焚火を見つめていると、今までの人生が走馬灯のように見えてくる。

 小学生の頃、中学生の初恋の思い出、高校生での初体験。

 何もかもが楽しかったあの頃。

 いつからだろう?嘘ばかりつくようになったのは。

 そんなことを考えていたら、自然と眠りについていた。

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