聞こえる


 「お、おはようございます!ぜぇっ…ぜぇっ…!」

 息を切らせるために直前で走っただけあって我ながら迫真の演技だ。

 「おっ、おはよう!今日はどうした?息を切らせて(笑)」

 「い、いやバスが、時間通り来なくて!1本いつもより、遅いバスで!」

 「そうかそうか、大変だったな(笑)」

 「えぇ、ホント!参っちゃいますよ!バスの時刻表は!」

 「(お前が急に走り出した時は面白かったなー。マジで丸見えなんだもん!)」

 「は?え?なんで?」

 「ん?どうした?早くタイムカード押さないと遅刻だぞ〜(笑)」

 「いや、ちゃんと、バス停から走ってましたって!」

 「は?疑ってねぇから安心しなって!(笑)」

 「(まったく、顔が可愛くなきゃボコボコだよ。)」

 「え?あたしって可愛いんですか?」

 「は?え?」

 「い、いや!なんでもないです!失礼します!」

 「(なんだ、こいつ?とうとう天狗になってきたか?自分で言ったら可愛げねぇや。)」


 おかしい。何か余計な声が聞こえる。

 そう、まるで心の声が漏れ出してるように聞こえるのだ。

 そんなはずない。これは夢だ、夢だ、夢だ。


 ジィー……ガッチャン。

 「ふぅ、とりあえず遅刻回避〜えへへ。」

 「お?四月一日遅刻か?」

 「いや、セーフですよ!課長!」

 「そうかそうか、なら良し!」

 「えへへ。」

 「(相変わらずエロい身体してんなぁ。今夜飲みにでも誘ってみるか。)」

 「へ?今夜ですか?」

 「はぁ?何を言っとるんだ、早くデスクに行け!」

 「は、はい!」

 「(ふぅ〜危ねぇ、心の声が漏れちまったみたいだ。気をつけねぇと。)」

 「……っ!?」


 やっぱり聞こえる!間違いない!心の声が聞こえてるんだ!

 こんな夢初めてだなぁ……。

 気色悪いし、早く目が覚めないかな。

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