第9話地獄の執事

 「加藤君髪の毛が」

 「あぁこれね、染めた」

 そう言って、彼は笑った。すぐ横にニカっと音が出そうなくらいに。

 「似合ってる?」

 似合ってるとは思った。元々肌の白い彼と金髪はマッチしている。けど……。

 「うん。でも、明日から学校だよ?」

 「あぁそうだな」

 「黒色に戻すの?」

 私の問いに彼は首を振って答えた。それだけで彼の匂いが私に届く。

 「先生に怒られちゃうよ?」

 「別にいいよ」

 「でも、周りに金髪の子はいないし……」

 「いいんだよ」

 少しだけイラつくように答えた彼は、本を閉じて立ち上がった。私たちは同じ目線になった。本当にピッタリと。彼と私の目線は一切のブレなく直線で結ばれている。

 「もう周りはどうでもいい」

 湊は言った。強くハッキリと発した言葉は、輪郭が少しだけ崩れているそんな感じがした。


 次の日やっぱり湊は先生に怒られた。教室に入ってきた先生は、彼を見るなりギョッとしてすぐに彼の名前を叫んだ。

 湊は何か? みたいな顔をして、その場に立っていた。周りの皆も彼を見ている。先生が怒鳴ることも意に介さない様子で、湊はそこにいた。真っすぐ立つ彼を心からかっこいいと思った。彼がこの瞬間、先生にもクラスの奴にも勝ったと私はそう思った。そしてそれをなぜか誇らしくも思った。湊もそう思っているに違いない、目が合った彼は私にほほ笑んだのだから。

 次の日の昼休み、教室に湊の姿がなかった。いつもは机に突っ伏してるのに。私は気になって探すことにした。四十分フルに使っても湊は見つからなかった。もちろん授業が始まるギリギリで彼はどこからか帰ってきたけど。それが三日連続で続いたある日に私は気付いた。他の男子数名がサッカーをしていないことに。いつもはないサッカーボールが教室の隅に置いてあるのだ。グラウンドを見ても彼らはいない。なんとなくだけど、嫌な予感がした。

 季節は秋を越して、冬になった。気温は下がり、服装は寒さから身を守るため厳重になり色々変わった。でも一番大きい変化と言えば、私に友達ができたことだ。名前は花井柚子。柚子ちゃんは、私と同じでずっと一人ぼっちだった子だ。性格も大人しくて、休憩時間は本を読んでいる。ちょっとしたことで喋るようになった私たちは、同じ性格、境遇もあってすぐに仲良くなった。相変わらず湊は昼休みにどこかに行ってしまうけど、代わりに柚子ちゃんと過ごす時間はそれはそれで楽しかった。

 そしてあの日が来た。

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