第2話「幼馴染が絶対に結ばれないラブコメ」


男も女も無い時代は一緒に遊んでも何もない。

何も無いはずだが、ある日を境に男子は男子、女子は女子と別れる。

同性同士でコミュニティを形成し、社会を学ぶための模擬社会である学校へ行き、その継続である実際の社会でもコミュニティはメンバーを変えるものの継続する。



だが、恋人、異性の友人以外のタグがついたコミュニティが存在する。

それが「幼馴染」だ。アニメや小説では「幼馴染」を美化しているが、実際はそんなにいいものじゃない。本人でも覚えていないことを覚えているし、昔語りが長い。やたら世話を焼きたがる母性本能の強い奴だと更に嫌になる。




だから、俺は幼馴染が嫌いだ。





人間、生きていると死にたくなる。

人間、いつかどっかで死ぬ。

事故か病気かなんで死ぬ。

ただ、死ぬのならいい女と一緒に死にたい。

自殺サイトで知らない人と出会って死ぬとか嫌だ。

何で最後まで他人に気を遣って死ななきゃならないんだ。

俺のことを理解してくれる最高の女。

そういう人と死ぬのが一番いいはずだ。




気を遣わなくていい最高の女。

しかし、そうなる為にはお互いを良く知る必要がある。

お互い、気心が知れた人間が「友達」となり「恋人」となる。

だが、知り尽くしていて、お互いに嫌になる存在。

それが「幼馴染」だ。





それでも俺に構ってくる鬱陶しい女がいる――――。







「仁科、俺の家にはもう来るな。お前はお前の時間を過ごせ」




朝一番の開口一番、俺こと一ノ瀬雄二いちのせゆうじは幼馴染の仁科加奈子にしなかなこにそう伝えた。




「なんで? 私は楽しいんだけどな」




彼女は明るくそう返した。

今も洗濯物を畳みつつ、のんびりテレビを見ている。

ニュースでは新しい総理大臣が決定し、コメンテーターが騒いでいる。

消費税下げて欲しいな~と呟き、洗濯物を畳み続ける。

俺はため息をついた。




「……俺は料理も洗濯もできる。掃除だって毎日やっている。親がいなくても大丈夫だ。貯金もある。お前はお前の時間が欲しいだろう。こんな男に構ってないで恋人でも作って自分の時間を過ごせばいい」




「ホント、上達したよね、ゆーくん。でもさ、男の子はやっぱり雑な所があるよ。だから女の子の私がいれば完璧になるの。それに好きな人とかいないし。もうお世話するのは生活の一部だからね」




仁科はいつもこうだ。

俺が1言うと10返してくる。

俺は俺で一人の時間を過ごしたいというのに。

どういえばわかってもらえるだろうか。




「噂で聞いたが、お前、2年の田口先輩フッたそうだな。家は病院で金持ちだし、サッカー部じゃ副部長でこの間の県の試合でもハットトリック決めた凄い人だぞ。顔だっていいからモテモテだ。なんでフッたんだ?」




「好きじゃないから。お金持ちとか、顔がいいとか、私はそこまで気にしないな」




「ふん、そんなのは建前だ。男を立てる為の嘘だ。女はどうせ男を顔でしか見ていない。顔が悪けりゃ性格がどんなによくても付き合おうとは思わない。あの先輩は金もあるし、顔もいいし、後輩にも慕われ、とても一途だ。フる理由が無い」




「……偏見こじらせてるなぁ。私、良く知らないもん、その先輩。そもそも、好きじゃないのに付き合うなんて嫌だよ」




「付き合っていれば好きになるかもしれないじゃないか」




「私、直感型だからこの人だと思った人以外と付き合う気はないの。っていうかさ、私、そんなに迷惑?」




「迷惑だ。俺が他の女と付き合おうとして告白しても「あんたには仁科さんがいるじゃん。大事にしてあげなよ」って返されて終わりだぞ。おまけにそいつらは誰もお前の悪口を言わない。男だったら私が付き合いたいわっていう奴らばっかなんだぞ?」





「そ、そうなんだ。えへへ、ちょっと嬉しい」




「いや、照れるところじゃないから」




このままでは埒が明かない。

さて、どうしたことだか。

何か上手いアイディアはないだろうか。




「ゆーくんさ、女の子家に連れ込む気もないでしょ? どーせ、一人でHなDVD見たいとか、思う存分ゲームしまくりたい、パソコンしまくりたいとかでしょ?」




「……これだから幼馴染は嫌いなんだ。思考回路が完全に理解されているからな」




「「爆乳!人妻教師とヤル!」「綾瀬斧先 衝撃の350人斬り4時間!」「病気で入院した僕は可愛い幼馴染にHな世話されてしまい……」とかマニアックな内容ばかりで流石の私もドン引きしたわ」




「タイトル言うな!! っていうか、隠していたのにどこから!?」




「ちなみに全部売ったからね。ブックオンで12万6580円で売れたよ。今度、焼肉でも行こうよ。いいお店があるんだよ」




「……………売っただと!?」




俺はテレビを消して仁科に詰め寄り、彼女の襟首を掴む。

彼女はそれでも微動だにしない。




「お前、人の私物を……俺がバイト代貯めて買ったDVDをよくも!」




「勝手に売ったのは謝るよ。でも、あんなの見たって仕方ないじゃん。っていうか、幼馴染にHって、私の事そういう風に見てるってことだよね?でなきゃ、あんなタイトルの買うとは思えないし」




「あ、いや、それは……」




「今だってそう。襟首に力が入ってない。私を怖がらせないためにわざとそうしてるんでしょ? 告白したのだって彼氏持ちでラブラブの人達だし。わざと玉砕した事実を作って「お前がいるから女の子と付き合えない」っていう謳い文句で私と距離を取ろうとした……そうでしょ?」




「面白いシナリオだ。小説でも書いて「カクヨム」にでも投稿すればいい。きっといいレビューがつくぞ。コンテストに出せば書籍化も夢じゃないな」




「私のこと好きならそういえばいいのに。私だってゆーくんが好きなんだから。幼馴染とか全部抜きにして、あなたしか見てないんだよ、私は。だから他の人なんかどうでもいいの」




……ここで彼女を抱きしめれば俺たちは両想いになれるだろう。

だが、俺は敢えてそうしなかった。




「俺を好きだっていう証拠はあるのか?」




「んっしょと」




仁科は学生服を脱ぎ、スカートを脱いで下着姿になった。

流石に顔を赤くしているが、俺を見据える瞳はまっすぐだ。

凹凸の少ない身体ではあるが、ガリガリという訳ではない。

スレンダーではあるが、肉付きがあり、とても健康的だ。




「……異性の前でこういう姿見せるのはゆーくんだけだよ。ゆーくんが望むなら裸になってもいいよ。DVDでやっていた内容だって全部してあげる。映像よりもリアルの方が男の人は嬉しいでしょ? それは女の子でもそうだよ」




「いや、それはそうかもしれんが……」




「私、別に不治の病でもないし、健康診断でも異常なし。お父さん、お母さんも交際するのに反対していない。やっかいな親戚とか、霊感体質だとか、そういうマンガみたいなのもないよ。私はただ、君の事が好きな普通の女の子なんだよ」




「……くっそ、王将に逃げ場がなくて、香車と飛車と角で責められて、相手の持ち駒に金があるときの気分だ」




「それはもう詰みだよ。自分の気持ちに素直になりなよ。大体さ、その……ゆーくんの……大きくなってるし。バレバレだよ。顔だって赤いし」



下着姿の女が目の前にいてドキドキしない男などいるはずがない。

くっそ、屈するしかないのか。

俺は幼馴染よりも年下派だというのに。

ここまで言われたら気持ちが……。

そんな時、床が揺れた。

地震か!?




「危ない!!」




とっさに俺は仁科を助けようとした。

地震は数分もしない内に収まった。

震度2というところだろうか。

そして、俺は彼女に覆いかぶさっていた。

下着姿の彼女の上にいる俺。





「……まずはキスからして欲しいな」




「に、仁科……」




俺と彼女の唇は徐々に距離を詰めていく。

相手の息遣いが聞こえるほどの距離だ。

心臓が五月蠅すぎてどうにかなりそうだ。

俺も顔が赤いと思うが、仁科も顔が赤い。

髪もきっちり整っているし、いい香りがする。

恐らく、下着もいい所の奴だ。

確か、姉貴が購入して散々自慢していた奴だ。

あ、そういえば、今時間って……。





「ただいまー!! 一ノ瀬和美、社畜から解放され、飲み会サボって帰宅しました!私の恋人はエビスビールとアイコスメンソールでいいんじゃあああああ!!!!」




どすん、ばたん、どすん。




そして、姉は俺と仁科を見てフリーズ。





「リア充死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!」




と、姉に叫ばれる俺だった。

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