特別部:平行世界編 僕らは少々えろくなる

特別部7話 保健室でねる美少女を、僕が狂って食べてしまう

人によっては性描写ありです。でもR18ではないです。

公開停止にはならないはず……です。




「――彩香さん」

「なぁに、柚?」


 眠りの世界に落ちかけた私に、柚の切羽詰まったような声が降ってくる。私は柚の胸元で呼吸をしながら返事をした。

 がさ、という布団が剥がれる音と共に視界に光が満ちる。すると籠もっていた私たちの熱気が布団の外へと飛び出してゆき、私の肌を冷たい空気が撫ぜる。

 それが少し悲しかった。


「彩香さんが、悪いから」


 見上げると、柚の顔は赤く上気していた。何かを堪え続けた結果か、苦悶に満ちた表情をしている。

 柚は何を言いたいのだろうか。柚は私に何をしようとしているのだろうか。そう思った次の瞬間、私は柚に手首を掴まれ、身体を反転させられていた。


「ひゃっ――」


 ぐるり、と視界が反転する。子供の頃に亜希奈や茜ねぇとの取っ組み合いの喧嘩をした時以来の感覚に、闘争本能が呼び起こされる。だけど柚の顔を見ると、なぜだか対抗しようとは思えなくなっていた。


 柚は私の手首をベッドに押さえつけ、私に覆い被さった。

 私をじっと見下ろす柚と目が合う。磁石で吸い寄せられたのだと思うほど、目が離せなくなる。茶色がかった虹彩の真ん中のガラス玉のような黒い瞳は、柚に抑えられた私を写していた。

 ドキリと、心臓が跳ねた。


 この次の瞬間の光景が予想できた。そして、私の予想は外れなかった。柚は互いの焦点が合わなくなるほど――たった数センチの距離にまで顔を寄せて、そこでも私を見つめ、優しい声音で言う。


「彩香さん――嫌なら睨んでいいよ」


 心臓は痛いほど跳ねて、先ほど柚の匂いに焼き切られたはずの理性は復活して、羞恥心はバカみたいに叫び、脊髄は羞恥心の叫びに応じて腕を動かし、柚を殴ろうとする。

 でも、私は金縛りにあったようにそれができなかった。


 柚が私を押さえつける力はそこまで強くない。私が本気でもがけばすぐに逃げ出せるぐらいの力加減。そして柚は、私が少しでも嫌なそぶりをすればすぐに放してくれる、そんな人間だ。


 柚が本気になれば私なんて簡単に組み伏せられてしまうのだと本能的に理解する。

 やはり自分は女で、彼は男なのだと、知ってしまう。

 『超能力』という絶対的な力のことは考えてもいなかった。ただ、私は女で柚は男だということしか考えていなかった。


 柚はたっぷりと時間をとった。

 彼の黒い瞳はその感情をしっかりと映し出していた。私は柚のココロを読むまでもなく、彼の気持ちを読み取れた。


 不安、羞恥、恐怖、興奮、戸惑い、そして限りなく澄んだ私への愛情と気遣い。まるで、私が彼を拒んでも彼は私を恨む気がないかのような、そんな優しくて、暖かい感情。


 私は柚の目を見つめて、小さく、ホントに小さく、首を縦に動かす。その初動でほんの少し顎を引いた瞬間、待ちきれない、といった感じで柚が残りの数センチを詰めた。


 思わず私はぎゅっと目をつむる。その感触はすぐにきた。

 強く、長く、だけど何もせず、ただ押し当てるだけのキス。

 世界の音は締め出され、心音と柚の息づかい、それだけが私の耳の中で震え、鼓膜を揺らす。


 苦しい、そう思った瞬間に柚が顔を上げた。

 世界に音が戻ってくる。校庭から聞こえる生徒の声、カーテンの向こうで聞こえる保健室の先生の鼻歌とカフェテリアで流れていそうな穏やかな音楽、自分の荒い呼吸音。


 自分が今どこで、誰に、何をされているのか。理解すればするほど心拍数は高まり、自分が何をしたいのか分からなくなる。

 もっと先へ進みたいのか、それともこんなことはやりたくないのか。


「んっ——」


 グチャグチャになった思考が纏まる前に、再び柚の顔が降りてきて、私は彼のキスを受け入れる。

 気持ちいい、好きだ。柚とのキスが好きだ。

 甘やかされて、とろとろに蕩けさせられて、何も考えなくて済む。ただ柚を受け入れていれば、快感を享受することができる。


 息が苦しくなると柚はすぐに顔を上げくれて、私に呼吸を整える時間をくれる。そしたら私は目を開けて、柚を見つめて息をする。柚も私を見つめて息をする。

 呼吸が落ち着いてきたら、柚が小さく顎を引く程度に頷く。私も頷く。それを合図に、もう一度キスをする。


 ふと気がつけば柚に馬乗りされていた。身体の横についた柚の足は私の腰を強く、だけど痛くはないように加減した力で挟み、私を逃がさないようにがっちりとホールドしていた。

 逆に私の手首は解放されていて、柚の手は私の顔の横につかれていた。


 自由になった手首に戸惑っていると、柚がそれを察知したのかキスから顔を上げる。彼はとても聡くて気が利く、優しい男だ。

 柚は笑みを浮かべながら首を傾げて私に聞く。


 私はどうすればいいか分からなくて固まっていると、柚がゆっくりと顔を近づけてくる。

 あ、これはクるやつだ。と私は咄嗟に悟り、先ほどよりも強く目をつむった。


 手持ち無沙汰になった両手を宙に漂わせると柚のYシャツに触れた。掴んで引き寄せ、ぎゅっと握る。シワがつくことなんて考えてもいなかった。

 ただ、これから来るであろう強すぎる快感に逃げ道を作りたかった。そうしないと、身体の中で暴れ回る快感に意識が飛んでしまうと思ったから。


「ちゅる、ちゅぱ……ずじゅっ……ぷはぁっ……んんっ……」


 控えめな水音が鼓膜を震わせる。

 柚の舌が私の口の中に入り、暴れ始める。私の舌を巻き込んで絡み、貪るように、弄ぶように動く。無慈悲に流し込まれる強い快感に動けなくなると、柚の舌は私の歯、歯茎、口蓋、舌裏、口腔内の全てを占領するように、マーキングするように強くなぞっていく。


「あぁっ……んっ――!」


 思わず口の端から漏れた、先ほどとは種類の全く違う自分の知らない甘ったるい声に驚き、慌てて息を詰める。

 それでも柚は口の動きを止めてくれない。そうすると一瞬の羞恥心は柚からもらうキスの快感に流され、頭には気持ちいいことしか残らない。


 甘くて惚けてしまいそうな優しい舌使いにつられ、私は柚の動きを真似して舌を動かしてみる。すると柚は私の舌に絡みつき、丁寧に扱ってくれる。


 口が疲れてくると柚が顔を上げた。目を開けると、柚の口から私の口にかけて銀色の一本の橋が架かっていた。そして重力に耐えきれずに橋は切れ、私の唇に落ち、口の中に入ってきた。


 それに興奮して、でも繋がりが切れたことが悲しくなって、柚を見つめる。すると柚は優しく微笑んで私にキスをしてくれる。


「はぁっ――あ……ん……」


 我慢できず溢れる恥ずかしい声は、その羞恥心を除けば気持ちい事しかなかった。そのうち、柚に恥ずかしい声を聞かれているという事実でさえ私の興奮を煽り、快感を高める。

 時々意識させられる保健室の消毒液の匂いにハッとしつつ、私は控えめに声を出した。


 キスが終わり、息継ぎの時間もわずかに次のキスが始まった。今度は少し間を置いた後、舌が入ってきた。


 そうして流し込まれたのは、柚の唾液。私はそれを嚥下して、柚の体の一部が私のものになったことに悦び、抑えきれない幸福感に体をくねらせる。

 幸福の海に浸りながら柚の唾液を飲み干すと、私は柚の舌に舌を絡めてねだるように動かす。

 すると、柚は私の口の中に再び唾液を流し込んでくる。私はそれを飲み込みながら、柚に甘やかされている現状に蕩ける。


 気がつけば柚のYシャツを握っていた手は、柚の背中に回っていて、きつく柚を抱きしめていた。


 キスをしながら、少し思ってみた。目を開けたら、どうなるだろう。柚はどんな顔をしているんだろう。世界はどんな感じなんだろう。

 好奇心が抑えきれず、瞑っていた目を開く。すると、柚と目が合った。私は驚きとバツの悪さにビクッとしたけれど、柚は微動だにせず、時々瞬きをしながら私を見つめる。きっと、彼はキスの間ずっと目を開けていたのだろう。


 目を閉じられないでいると、柚がキスを中断して顔を上げた。どうしたの? と首を傾げて聞いてくる。

 私は小声で聞く。


「め――目、どうして開けてるの……?」

「――彩香さんを見てたいから」


 何を当たり前のことを聞いているんだ、と柚は不思議そうな顔をして、それから悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 ガバっと私に覆いかぶさり、私の耳元に唇をあてて囁く。私の身体は否応なしにびくりと跳ねた。


「やってみる?」

「え?」

「やってみよっか」


 そう言うと柚は私の背中に手を回してごろりと身体を反転させ、上下の位置を交換する。

 私が柚を見下ろす体勢になった。——なのに私が優勢になったとは思えない。ずっと柚にリードされてばっかりだ。


 少しだけココロに余裕が出てきた私は柚に対抗心を持ち始めた。

 柚だけ余裕で何でもやっててズルい、と。

 顔に出ていたのか、柚は苦笑して言う。


「ココロ読んだら分かるよ。僕に余裕なんてないから」


 ココロを読むには時間がかかる。そんな時間があるなら、キスしてたい。そんな思いを込めて、先ほどの見よう見まねでキスをして、口の中に溜めた唾を柚の口に流し込む。


「ちゅ……こぼれてるよ……。彩香さん」


 柚は小さく笑いながら口の端からこぼれた唾を舌で回収し、コクコクと喉を動かして私の唾液を嚥下する。

 それを見ながら、お返しとばかりに口の中に送り込まれてきた柚の唾液を歓喜と共に甘受する。


 自分の唾液が、体液が、好きな相手の身体のなかに入り込んだという恍惚感に浸りながら、それが面白くてなんども唾液を柚の口に流し込む。


 そうしていると、カーテンの向こうで物音がした。慌ててキスを中断して足下の方までめくれた掛け布団を掴んでその中に隠れる。

 柚はそんな私の頭をなでながら、自分も布団を肩にかけていた。その余裕さが憎たらしくて、でも頼りがいがあった。


「私ちょっと出かけるからね~。起きたら授業いくのよ〜」


 どうやら、保健室の先生がいなくなるらしい。柚は返事をせずにウソの寝息を立てる。すると保健室の扉が開き、閉じる音がした。数秒待って、物音ひとつしない事を確認して、すぐに私は布団を剥ぎ、柚の上に覆い被さる。


 そして、ふと思い出して聞いた。


「そのっ――このまま進んだら止まれなさそうだからっ、聞くけどっ――持ってる?」

「え? 何を?」

「だから――その、輪ゴムじゃないゴム的な、なにかっ……」

「っ――ぷっ……ほ、本気で言ってる? 彩香さん?」


 至極真面目な話をしているのに、柚は私の下で吹き出す。

 馬鹿にされた気がして柚を睨み付けると、柚は体を少し起こして私に不意打ちの軽いキスをして言った。


 なんだか、柚がチャラくて軽くて、女遊びの慣れた男に見えてきた。こんなキザなことをスマートにするなんて、柚らしくない。——私が初めてじゃないんだろうか。

 そうは思ったけど、その思考は柚の返しで宇宙の彼方へ吹っ飛んだ。


「あ、彩香さん、最後までやる気だったの?」

「え……?」

「ここ、保健室だよ? 保健室でヤっちゃうのはエロ漫画の世界だけだけど……?」

「っ――だ、だって、あんなキスとかしたらっ、絶対っ、最後までするって思うし――」

「まだ告白もしてないのに?」

「き、キスし始めたのは柚!」

「そっか、ごめんごめん――。まぁ、彩香さん」

「な、なに?」


 ついに告白されるのか、と私は身構える。

 柚に馬乗りになりながら、なのだが……。


 だが、柚の言った言葉は、私の予想だにしない言葉だった。


「告白はこの状況ではしないけど、マーキングは大事だよね」

「んぁっ――」


 次の瞬間、手首を掴まれて再び上下の位置を反転させられる。

 柚に組み敷かれた直後、柚が私の首に顔を埋めて、何かをした。うなじのあたりにチリリと鋭い痛みが走る。悪い事じゃないんだろう、そう思ってそれに耐えていると、柚が顔を離して首を傾げた。


「あれ? 違うな……どうやるんだろ?」

「なっ、何をッ――!?」

「何って、キスマーク」

「っ――そ、そんなの――!」

「他の獲物に取られないために大事でしょ? マーキングだよマーキング。まぁいっか、今日と明日はずっと手、繋いでおこうね」


 柚はさも当然のことのようにそう言い、両手とも指を絡めて恋人つなぎをし、再びキスを始めた。

 不満はいろいろあったけど、キスが終わる頃には快感に流されていて、結局チャイムが鳴って先生が帰ってくるまでずっと、私たちはキスにふけっていた。


 そして今日のかっこよさはどこへ、下校中に柚がおどおどと私を人気のない路地に呼び寄せ、恥じらいながら告白するのは明日のことである。

 もちろん、私はキスでそれに応じた。








PS:前話に満足してなさそうな読者がいたので二日かけて作ったんです! 私が変態なわけじゃないんです!

 ……反省してます。柚のキャラ崩壊含め、ごめんなさい。




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